表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/43

第25話:00:00 - 見捨てられた兵団と、沈黙の暗殺者

【2026年6月21日 00:05 - 台湾・台中市 郊外】

 日付が変わり、開戦から2日目の夜半。

 台湾海峡の制空権・制海権を日米連合軍に奪還され、空と海からの補給線が完全に途絶えた台湾西海岸では、上陸に取り残された中国人民解放軍の残存部隊が、絶望的な市街戦を強いられていた。

「くそっ! 本国からの通信はどうなっている! 航空支援はまだ来ないのか!」

 瓦礫と化した台中市内の交差点で、中国陸軍の上陸部隊指揮官が、血と泥に塗れた通信機に向かって怒鳴り散らしていた。

『……司令部からの応答、ありません。電波妨害のせいではありません、本国の司令部そのものが沈黙しています……!』

 通信兵が、泣きそうな声で答える。

 中国の核ミサイル網が米軍に粉砕され、北京の指導部がパニックに陥っていることなど、最前線の兵士たちは知る由もない。彼らに分かるのは、弾薬が尽きかけ、周囲を包囲する台湾陸軍のゲリラ部隊と、上空から死を降らせる自律型無人機ドローンによって、味方が次々とミンチにされているという事実だけだった。

「このままでは全滅だ。……おい、あそこを見ろ」

 指揮官は、暗闇の中で非常用電源の明かりが点いている巨大なコンクリートの建物を指差した。

「あれは台中の大型総合病院だ。負傷兵や逃げ遅れた台湾の民間人が大量に収容されているはずだ」

「し、司令! まさか……」

「我々が生き残るには、盾(肉壁)が必要だ。病院を占拠し、中にいる民間人をすべて人質にとる! 台湾軍の攻撃を止めさせ、我々の本土への撤退要求を飲ませるのだ!」

 それは、誇り高き正規軍から、単なる凶悪なテロリストへと転落する瞬間であった。

 退路を絶たれ、本国から見捨てられた狂乱の兵士たちは、生き延びるためにアサルトライフルを構え、数千人の非武装の民間人が震える病院へと突入していった。

【2026年6月21日 00:25 - 中国・北京 中南海 地下核シェルター】

 最前線の兵士たちが見捨てられたのと同様に、北京の地下深くでも、狂気の独裁者による「自国民の切り捨て」が始まっていた。

「……主席。もはや通常戦力による台湾制圧は物理的に不可能です。そして、我々の最大の切り札であった核戦力も、アメリカの極超音速ミサイルによって完全に沈黙させられました」

 作戦室の重苦しい沈黙を破り、人民解放軍の一人の古参将軍が進み出た。

「これ以上の戦闘継続は、国家と党の完全な崩壊を招きます。アメリカが提示した『夜明けまでの無条件降伏』を受け入れるしか、我々が生き残る道はありません」

 将軍の悲痛な進言に、他の軍幹部たちも黙って俯いた。それが冷徹な現実であった。

 しかし、中国の国家主席は、焦点の定まらない濁った瞳で古参将軍をゆっくりと見つめた。

「……降伏、だと? 大中華帝国の指導者であるこの私に、西側の帝国主義者どもへ膝を屈し、戦犯として裁かれろと言うのか?」

「主席、あなたの命を犠牲にしてでも、14億の人民と国家を救うべきです! それが指導者の――」

 パァンッ!!!

 乾いた銃声が地下シェルターに響き渡った。

 古参将軍の眉間にポッカリと赤い穴が開き、その巨体がゆっくりと床に崩れ落ちた。

 国家主席の手には、硝煙を上げる拳銃が握られていた。

「……弱虫め。私の命より重いものなど、この世界に存在しない」

 独裁者は、完全に狂気に呑まれた笑みを浮かべ、震える周囲の将軍たちを銃口で指し示した。

「私を売って、自分たちだけ助かろうなどと思うなよ。私は絶対に降伏などしない。アメリカの空爆が来るというなら、受けて立とうではないか。我々が地下深くで生き延びている間に、地上の人民が何億人死のうが構わん。人民など、また産ませればいいだけの資源だ!」

 彼は、血の海となった作戦室で高らかに宣言した。

「全軍に玉砕命令を出せ! 台湾に上陸した兵も、沿岸部の防空部隊も、弾が尽きるまで戦い、敵の血をすするのだ! 夜明けのアメリカの爆撃など、恐れるな!」

【2026年6月21日 00:40 - 新宿区市ヶ谷・防衛省 地下中央指揮所】

「台湾軍からの緊急報告! 台中市において、孤立した中国軍の残存部隊(約500名)が大型総合病院を占拠! 医師や患者を含む約3000人の民間人が人質となりました!」

 市ヶ谷の地下大本営に、新たな凶報がもたらされた。

 『国政参画党』の代表が、机を叩いて声を荒げた。

「ええい、中国兵のクズどもめ! 正規戦で勝てないとみるや、怪我人や女子供を盾にするとは!」

「彼らは降伏の条件として、台湾軍の完全撤退と、自分たちを中国本土へ送り返すための輸送船の手配を要求しています」

 情報官が重々しい声で読み上げる。

「台湾の総統府は判断に迷っています。民間人3000人の命を見捨てることは政治的に不可能ですが、ここで要求を飲めば、他の市街地で戦っている中国兵も次々と民間人を人質に取り始める『最悪の前例』を作ってしまうからです」

「米軍に空爆させればいいだろう!」『国民民主連盟』の代表が叫ぶ。

「病院ごと吹き飛ばせば、他の連中も人質作戦なんて諦めるはずだ!」

「代表、それは本気で言っているのですか?」

 『国民民主連盟』の冷静沈着な幹事長が、氷のように冷たい視線を自らの党首に向けた。

「民間人3000人をアメリカの爆弾で吹き飛ばせば、台湾の世論は一瞬で反米・反日に傾きます。我々が守ろうとしている民主主義の正義が、根底から崩れ去る。……絶対にやってはならない悪手だ」

「だ、だが、どうする!? 手を出せずに膠着状態が続けば、中国兵の思うツボだぞ!」

「……外科手術を行うしかありません」

 幹事長は、統合幕僚長の方へ向き直った。

「統幕長。南西諸島の防衛任務から外して、待機させておいた『彼ら』を動かす時が来ました。……陸上自衛隊・特殊作戦群(SFGp)。出撃は可能ですね?」

 統幕長の目が、鋭く光った。

「空からの潜入は不可能です。しかし、海上自衛隊の潜水艦を使った海中からの潜入、および隠密上陸であれば、夜明け前に病院へ取り付くことができます」

「幹事長! 日本の自衛隊の特殊部隊を、他国の領土に送り込んで人質救出をさせるなど、前代未聞だぞ! もし失敗して隊員が死ねば……!」

 二人の代表が慌てて制止しようとするが、幹事長は一歩も引かなかった。

「これは、日米台の『血の同盟』を永遠のものにするための作戦です」

 幹事長は、極めて冷酷な、しかし国家百年の計を見据えた政治家の顔をしていた。

「アメリカのデルタフォースや、台湾の特殊部隊だけに行わせてはダメなのです。我が国の精鋭が、他国の民間人の命を救うために血を流す。その事実こそが、戦後の国際社会において、日本が『一流の軍隊を持つ真の独立国』として認められるための、最大のパスポートになる。……自衛隊という剣を、ただの盾として腐らせてはならない。最も困難な任務ミッションにこそ、彼らを投入するべきだ」

【2026年6月21日 00:55 - 台湾海峡 海中】

 台湾西海岸へ向かう漆黒の海中。

 海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦のセイル(艦橋構造物)上部にあるドライデッキ・シェルター(特殊潜航艇の格納庫)のハッチが、音もなく開いた。

 中から、完全武装のダイバー姿に身を包んだ漆黒の影たちが、水中スクーターに乗って次々と海へ放たれていく。

 彼らこそ、陸上自衛隊の最精鋭にして、その存在自体が国家機密とされる「特殊作戦群(SFGp)」の隊員たちであった。

「……これより、目標地点(台中総合病院)への潜入を開始する。台湾軍の特勤隊(ASSC)、および米海軍のSEALsチームと合流後、同時突入シンクロナイズド・ブリーチを行う」

 群長が、骨伝導インカムを通じて低く命じた。

「人質は3000。テロリストは500。我々に与えられた猶予は、アメリカの最後通牒が切れる『夜明け』までだ。……日本国の武人の誇りに懸けて、民間人の命を奪い返すぞ」

 暗い海の中を、沈黙の暗殺者たちが滑るように進んでいく。

 官邸の地下で死んだ政治家たちが忌み嫌い、封印し続けてきた「日本の牙」が、ついにその本来の恐るべき姿を現そうとしていた。

 作中時間、01:00。

 開戦から25時間が経過した。

 運命の2日目は、泥沼の市街地における、残虐なテロリストと世界最高峰の特殊部隊による「影の死闘」から幕を開けた。

 残り23時間。独裁者の狂気と、兵士たちの執念が、夜明けのタイムリミットに向けて激しく交錯していく。

※本作はIFシミュレーションであり、実在の団体・個人・国家に対しての誹謗中傷を目的としたものではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ