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第23話:22:00 - 終末の砂時計と、極超音速の槍

【2026年6月20日 22:05 - アメリカ・ワシントンD.C. ホワイトハウス】

(※日本時間)

「サイバー攻撃によるシステム凍結フリーズは成功しました。現在、中国のロケット軍司令部から各サイロへの通信は完全にダウンしています」

 シチュエーションルームに、国家安全保障局(NSA)長官の緊迫した声が響く。

「……時間はどれくらい稼げる?」

 合衆国大統領が、腕を組みながら低く尋ねた。

「敵のシステムの復旧、あるいは現場の指揮官による『手動発射』に切り替わるまで、長く見積もっても40分から1時間。最悪の場合、数十分後には再び発射シークエンスが起動します」

 国防長官が答える。

「大統領、サイバー攻撃はあくまで時間稼ぎです。中国が核を撃つ意思を捨てていない以上、彼らが手動でミサイルキーを回す前に、甘粛省および新疆ウイグル自治区にあるICBMの地下サイロ群を物理的に破壊する必要があります」

「沿岸部を空爆したB-21爆撃機を内陸部へ向かわせろ」

「間に合いません。標的は中国の奥地です。爆撃機が到達する頃には、とっくに核ミサイルが空へ上がっています」

 大統領は目を閉じた。

 核戦争を防ぐためには、相手の核ミサイルが飛び立つ前に「通常兵器」でサイロを粉砕しなければならない。だが、時間がない。

「……『ダーク・イーグル』を使え」

 大統領の言葉に、将軍たちが一瞬息を呑んだ。

「西太平洋に展開している米陸軍の『LRHW(長距離極超音速兵器)』部隊、および米海軍のミサイル駆逐艦から、通常弾頭型の極超音速滑空体をフル・ロードで撃ち込め。マッハ17で飛翔するこの兵器なら、中国内陸部まで十数分で到達できるはずだ」

「イエス、ミスター・プレジデント。ただちに発射コードを送信します」

 人類史上初となる「極超音速兵器による戦略的サイロ破壊作戦」が、ワシントンの決断により発動された。

【2026年6月20日 22:15 - 中国・甘粛省 ゴビ砂漠 ロケット軍地下サイロ】

 中国内陸部、荒涼としたゴビ砂漠の地下深く。

 分厚いコンクリートと鉛に守られたDF-41大陸間弾道ミサイルの発射管制室では、警報音がけたたましく鳴り響き、赤いランプが狂ったように明滅していた。

「クソッ! 北京との通信が復旧しない! すべてのコンソールがロックダウンされている!」

 管制官たちがキーボードを叩き壊さんばかりに操作するが、画面には梅と桜とハクトウワシのエンブレムが表示されたまま、うんともすんとも言わない。

「主席からの最終命令は『発射しろ』だ!」

 基地司令が、血走った目で叫んだ。

「電子制御がダメなら、手動のバックアップシステムを立ち上げろ! ミサイル本体のジャイロに直接目標座標を入力し、アナログ回路で点火する! アメリカの都市を灰にするんだ、急げ!」

 兵士たちがパニック状態になりながら、分厚いマニュアルを引っ張り出し、旧式の手動回路のバイパス作業に取り掛かる。彼らの脳内は、独裁者への狂信と、アメリカへの憎悪、そして「撃たなければ自分たちが粛清される」という恐怖で完全に支配されていた。

「手動バイパス、接続完了! 目標座標、ロサンゼルスおよび東京! ジャイロのアライメント開始!」

「よし、キーを回す準備をしろ! カウントダウンを再開する!」

【2026年6月20日 22:30 - 新宿区市ヶ谷・防衛省 地下中央指揮所】

「米軍より暗号通信! これより、中国内陸部のICBMサイロに向けて、極超音速滑空体(LRHW)による直接打撃を敢行するとのこと!」

 市ヶ谷の地下大本営に、アメリカからの決死の作戦通知が届いた。

 『国民民主連盟』の冷静沈着な幹事長は、ホログラムモニターに映る中国内陸部の地図を睨みつけた。

「幹事長、米軍の極超音速兵器は確かに速いですが、中国も内陸部に強固なミサイル防衛レーダー網(早期警戒レーダー)を敷いています。マッハ17とはいえ、大気圏内を飛翔すれば迎撃されるリスクがあります」

 統合幕僚長が、懸念を口にする。

「アメリカの『槍』が確実に届くよう、我々が再び『盾』と『目眩まし』になりましょう」

 幹事長は、極めて冷酷な判断を下した。

「中国の早期警戒レーダーの目を、別の方向へ向けさせるのです。……統幕長。東シナ海に展開している我が国の護衛艦隊から、中国沿岸部のレーダーサイトへ向けて、あらゆる種類のミサイルとジャミングを全弾撃ち込みなさい。着弾しなくてもいい。中国の防空システムを『沿岸部からの攻撃』にクギ付けにするのです」

「……了解しました。全艦の弾薬を惜しみなく使います。デコイ弾も含め、中国のレーダー画面をノイズと偽のミサイル雲で埋め尽くしてやります」

 統幕長が指令を出すと、日本の自衛隊が文字通り「全火力」を解放した。

 海上のイージス艦から、次々とミサイルが空へ放たれ、中国軍の防空レーダーは「日本側からの大規模空爆」と誤認。内陸部のレーダー網もそちらへ注意を向けられ、システムの処理能力が完全に飽和し始めた。

 その隙を突いて、宇宙空間の境界線(大気圏上層)を、黒い刃のような極超音速滑空体が、一切の警告音を鳴らすことなく中国大陸の奥深くへと突き進んでいった。

【2026年6月20日 22:45 - 中国・甘粛省 ゴビ砂漠】

「ジャイロの設定完了! 手動発射まで、残り30秒!」

 地下サイロの管制室で、基地司令が発射キーを握りしめ、額の汗を拭った。

「20秒前……15秒……!」

 地上のサイロの重厚なハッチが、油圧の音を立ててゆっくりと開き始め、DF-41の巨大な弾頭部が夜空へ顔を覗かせた。

 しかし、彼らがカウントダウンを終えることは、永遠になかった。

 ――ズギャァァァァァァァァァァァン!!!!!

 マッハ17という、人間の知覚を完全に超えた速度で飛来した米軍の極超音速滑空体が、空いたばかりのサイロのハッチの隙間から、まるで神が投げ放った槍のように正確に突き刺さった。

 通常弾頭とはいえ、その凄まじい運動エネルギー(運動エネルギー弾)は、分厚いコンクリートの壁を紙のように貫通し、地下数百メートルに格納されていたDF-41のロケットモーターを直撃した。

 充填されていた数百トンの固体燃料が誘爆。

 核弾頭自体が起爆(核爆発)することはなかったが、ロケット燃料の凄まじい爆発エネルギーが密閉された地下空間で膨張し、サイロ全体を内側から完全に粉砕した。

 ゴビ砂漠の地表がポッコリと隆起し、次いで火山の噴火のような巨大な火柱と土砂が吹き上がった。

 同じ時刻、新疆ウイグル自治区のサイロ群でも同様の精密打撃が着弾。

 中国が誇った「人類滅亡のスイッチ」は、発射のわずか数秒前に、アメリカの極超音速の槍によって物理的に破砕されたのである。

【2026年6月20日 22:55 - 中国・北京 中南海 地下核シェルター】

「……内陸部のサイロ群、全滅! すべて地下で誘爆し、完全に崩壊しました!」

「米軍の極超音速兵器によるピンポイント攻撃です! 我が軍のレーダー網は、日本の自衛隊による大規模な電子妨害と囮攻撃に気を取られ、探知が遅れました!」

 中南海の地下シェルターに、完全な敗北の報告が響き渡った。

 中国の絶対的指導者である国家主席は、その場に力なく座り込んだ。

「……終わった」

 彼は、虚ろな目でモニターを見つめた。

 最強のカードであった核の恐怖すらも、日米台の連携によって完封された。通常戦力は崩壊し、本土は焼かれ、頼みの綱のミサイルも土に還った。

「主席!」作戦参謀が叫ぶ。「まだ山岳地帯に隠蔽している移動式発射台(TEL)が残っています! これでゲリラ的に核を――」

 その時、シェルター内の「ホットライン(米中首脳間の直通電話)」が、けたたましく鳴り響いた。

 サイバー攻撃で遮断されていたはずの通信回線が、アメリカ側からのハッキングによって「強制的に」接続されたのだ。

 国家主席が受話器を取る前に、スピーカーから合衆国大統領の冷え切った声が響き渡った。

『――聞こえているか、北京の独裁者よ。君の狂った花火は、すべて我々が片付けた』

 大統領の声は、勝者の傲慢さではなく、純粋な「処刑人」の冷酷さを帯びていた。

『これ以上の無駄な抵抗はよせ。山岳地帯の移動式発射台を動かせば、今度は通常弾頭ではなく、戦術核(B61-12)を使って君の国を跡形もなく消し去る。……そして、君がいま震えながら隠れている中南海の地下シェルターの正確な座標も、すでに我が軍のバンカーバスターのターゲットに入力されている』

 国家主席の顔から、最後の血の気が引いた。

『私は、日本の政治家たちのように「対話」を乞う気は一切ない。我々は君たちを完全に叩き潰すことができる。だが、これ以上の無意味な血を流すことを避けたいのであれば、選択肢は一つだ』

 大統領は、最後通牒を突きつけた。

『……全軍に停戦を命じ、無条件降伏のテーブルに着け。期限は夜明けまでだ。もし夜明けまでに降伏の宣言がなければ、私はためらいなく、北京の頭上に死の雨を降らせる』

 通信が一方的に切断される。

 地下シェルターには、電子的なノイズの音だけが虚しく響き続けていた。

 作中時間、23:00。

 開戦から23時間が経過した。

 日米の決死の連携が、ついに独裁者の喉元に致命的な刃を突きつけた。戦争の主導権は、完全に民主主義陣営の手へと渡ったのである。

 残り25時間。中国指導部は、自らの破滅か、屈辱的な降伏かの決断を迫られる。

※本作はIFシミュレーションであり、実在の団体・個人・国家に対しての誹謗中傷を目的としたものではありません。

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