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第18話:17:00 - 炎の聖域と、大本営の誕生

【2026年6月20日 17:05 - 米領グアム・アンダーセン空軍基地 & 沖縄県・嘉手納基地】

 極超音速で大気圏を切り裂き、プラズマの尾を引いて飛来した中国軍の中距離弾道ミサイル「DF-26」。

 アメリカの絶対的な防空網であるTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)と、イージス・アショアから放たれた迎撃ミサイル群が、成層圏から降り注ぐ「死の雨」へ向かって次々と激突していく。

 空中で幾つもの太陽が爆発したかのような閃光が瞬き、衝撃波が大気を震わせた。迎撃システムは完璧に作動し、飛来したミサイルの約7割を空中で粉砕することに成功した。

 しかし、「飽和攻撃」の恐ろしさは残りの3割にある。

 迎撃をすり抜けた数発のDF-26が、目標上空で弾頭を分離。搭載されていたクラスター爆弾(集束弾)が空中でパカッと開き、数千発の小型爆弾となって、グアムのアンダーセン空軍基地と沖縄の嘉手納基地の頭上へ、文字通りの「鋼鉄の土砂降り」となって降り注いだ。

「伏せろぉぉぉっ!!」

 嘉手納基地の滑走路で、F-15やF-35の緊急発進スクランブル準備に追われていた整備兵たちが絶叫し、コンクリートの陰に飛び込んだ。

 ズダダダダダダダダッ!! という、鼓膜を破るような連続爆発音が基地全域を覆い尽くす。

 無数の小型爆弾が滑走路のアスファルトを抉り、駐機されていた数機の戦闘機が蜂の巣となって爆発・炎上した。さらに、深く地中へ突き刺さるバンカーバスター(地中貫通爆弾)仕様の弾頭が、地下の弾薬庫と燃料タンクを直撃。

 ――ズゴォォォォォォォン!!!!!

 沖縄の地を揺るがす巨大な火柱が、真っ赤な夕暮れの空へと立ち昇った。

 米領グアムでも同様の惨劇が起きていた。B-52やB-21などの戦略爆撃機が身を潜める強化ハンガー(掩体壕)のいくつかがひしゃげ、滑走路には巨大なクレーターが穿たれた。

「……こちら嘉手納、管制塔。メイン滑走路、中破! 消火活動を急げ! 予備滑走路は生きている、出撃可能な機体は直ちに空へ上がれ!」

 基地は猛烈な黒煙と炎に包まれたが、アメリカ軍の心臓は止まらなかった。むしろ、この一撃は眠れる巨人を完全に「激怒」させる結果となった。

【2026年6月20日 17:20 - アメリカ・ワシントンD.C. ホワイトハウス】

(※日本時間)

 シチュエーションルームのモニターに、黒煙を上げるグアム島と沖縄の映像が映し出された時、合衆国大統領は怒りで言葉を失っていた。

「大統領、アンダーセン基地および嘉手納基地への弾道ミサイル着弾を確認。多数の死傷者が出ていますが、基地の全機能喪失には至っていません」

 国防長官が、氷のように冷たい声で報告した。

「中国は、我々の領土であるグアムを直接攻撃しました。これは1941年の真珠湾攻撃以来となる、アメリカ合衆国の主権領土に対する明白な正規軍の直接打撃です」

「……分かっている」

 大統領は、低く、しかし地の底から響くような声で答えた。

「彼らは『アメリカは血を流すことを恐れて引く』と計算したのだろう。独裁国家の指導者がよく陥る、致命的な誤算だ。我々は、一度血を流せば、相手が完全に息の根を止めるまで殴り続ける国だということを、彼らは歴史から学んでいない」

 大統領は立ち上がり、同席している全軍のトップに向けて最終にして絶対の命令を下した。

「全軍の交戦規定(ROE)の制限を完全に撤廃する。これより、中国人民解放軍は我々の『殲滅対象』である。インド太平洋軍の全アセットを用い、中国の海空戦力を文字通り『ゼロ』にしろ。本土のミサイルサイトへの空爆も継続だ。……この戦争は、我々か奴らか、どちらかが地図から消えるまで終わらない」

【2026年6月20日 17:35 - 新宿区市ヶ谷・防衛省 地下中央指揮所】

 東京・市ヶ谷の地下指揮所は、官邸という「重し」が外れたことで、皮肉にもこれまでにないほどの統率と処理速度で機能し始めていた。

「嘉手納基地の消火活動、地元消防と自衛隊の部隊が合流し支援中! 米軍機の代替滑走路として、那覇空港および九州の自衛隊基地の全面使用を米軍に通知しました!」

「台湾海峡の海中にて、海自潜水艦隊が中国海軍の攻撃型原潜2隻を新たに撃沈! 米空母打撃群への魚雷攻撃を完全にシャットアウトしています!」

 次々と飛び込んでくる戦果と被害の報告。

 その中央で、『国民民主連盟』の冷静沈着な幹事長は、腕を組んだまま戦況モニターを睨みつけていた。

「幹事長」

 『国政参画党』の代表が、焦燥感を滲ませながら近づいてきた。

「米軍と自衛隊が前線で持ち堪えているのはいい。しかし、国内の混乱はどうするんだ!? 東京はEMP攻撃で大停電、しかも政府の中枢が地下室で全滅した。このままでは、ミサイルで殺される前に、国内で暴動と略奪が起きて日本が内部から崩壊するぞ!」

「その通りです」

 幹事長は、冷徹な視線を代表に向けた。

「だからこそ、我々が『新しい政府』として、国民に生存と徹底抗戦の意志を示さなければならない。……電波網が生きている地方のラジオ局、および自衛隊の非常用通信網をすべてリンクさせなさい。私が、国民に向けて直接演説を行います」

「幹事長自らか!? しかし、総理代理を名乗るのは『国民民主連盟』の代表では……」

「あの人は表の顔(お飾り)としては優秀ですが、こういう血生臭い非常時の演説には向いていません」

 幹事長は、自らの党のトップが部屋の隅で青ざめながら震えているのを見向きもせずに言った。

「国民が今求めているのは、耳障りの良い『対話』や『遺憾の意』ではない。自分たちを守るために、敵を容赦なく殺してくれる『強力な暴力装置』の存在です。私がその役割を担う」

 数分後。

 EMPの被害を免れた西日本を中心とする地方ラジオ局の電波、そして警察・消防の防災行政無線をジャックする形で、幹事長の声が日本全国に響き渡った。

『――日本国民の皆様。私は、救国暫定委員会の責任者を務める、野党幹事長です』

 その声は、かつての首相のねっとりとした芝居がかった声とは対極にある、氷のように冷たく、しかし芯のある響きを持っていた。

『悲しいお知らせからしなければなりません。本日午前、首都中枢へのミサイル着弾と電磁パルス攻撃により、首相官邸は機能を完全に喪失。内閣総理大臣をはじめとする政府首脳陣は、残念ながら全員が帰らぬ人となりました。彼らは最後まで対話による平和を信じ、そして、敵のミサイルによってその命を奪われました』

 あえて「自分たちから地下室に閉じこもって酸欠で死んだ」という滑稽な真実は伏せられた。それは死者への情けではなく、国家の威信を保つための冷徹な情報操作であった。

『現在、我が国は中国および北朝鮮による明確な侵略戦争の真っ只中にあります。沖縄、与那国、石垣では民間人への無差別攻撃が行われ、尊い命が失われています。……しかし、絶望しないでいただきたい』

 幹事長は、マイクを握りしめ、言葉に力を込めた。

『政府は倒れましたが、日本という国家は倒れていません。現在、市ヶ谷の防衛省に新たな最高司令部(大本営)が設置され、自衛隊は超法規的措置として反撃を開始しました。我々の自衛隊は、アメリカ軍と共に、敵の艦隊と航空機を次々と撃ち落としています。我々は、決して泣き寝入りはしない。我々の同胞の血を流させた者には、必ずその何倍もの代償を支払わせます』

 暗闇の中でラジオに耳を傾けていた日本中の市民たちが、息を呑んでその言葉を聞いていた。

『国民の皆様にお願いします。今はパニックにならず、互いに助け合い、自衛隊と警察の指示に従ってください。暴動や略奪を行う者は、敵の工作員とみなし、非常時大権をもって容赦なく処分します。……我々は必ず勝ちます。日本国は、決して屈しない』

【2026年6月20日 17:50 - 台湾・台北市 総統府地下バンカー】

 日本の新司令部による「徹底抗戦」のラジオ演説は、海を越えて台湾の地下バンカーにも、米軍の暗号回線を通じて届けられていた。

「……日本の政府中枢が全滅しただと?」

 頼清徳総統は、信じられないものを見る目で報告書を見つめた。

「しかし、その結果として野党の強硬派が実権を握り、自衛隊が完全にリミッターを解除した……。何という皮肉だ。あの『お花畑』の政治家たちが死んだことで、日本はついに本物の牙を剥いたというのか」

「総統、日米の猛反撃により、台湾海峡の制海権と制空権は、現在五分五分まで押し返しています!」

 国防部長が、興奮を隠しきれない声で報告した。

「我が軍のゲリラ部隊も、台中市に上陸した中国兵を市街地に釘付けにしています。敵の補給線は日米の空爆でズタズタです。このまま持ち堪えれば、中国軍は干上がります!」

「油断するな」

 総統は、ホログラムの地図を険しい目で見つめた。

「習近平は、面子を重んじる男だ。これだけコケにされて、このままおめおめと引き下がるはずがない。……嫌な予感がする。奴ら、まだ何か決定的な『隠し玉』を持っているのではないか?」

 作中時間、18:00。

 開戦から18時間が経過した。

 東京の空はEMPの影響で重苦しい暗雲に覆われ、夕闇がいつもより早く訪れようとしていた。日本の「新しい大本営」が反撃の狼煙を上げたその裏で、中国の戦略ロケット軍は、誰も予想しなかった「第三の矢」を番えようとしていた。

 残り30時間。極限状態の狂気は、さらにその深淵へと向かっていく。

※本作はIFシミュレーションであり、実在の団体・個人・国家に対しての誹謗中傷を目的としたものではありません。

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