金髪ギャルとポテチ、そして完成する生態系(エコシステム)
「……えっと。マジで豚が石になっちゃったんだけど」
大型スーパー『メガ・マート』の精肉コーナー前。
金髪に派手なネイルを施した女子高生・星野結衣は、床に転がった紫色の石――つい数秒前まで自分を喰い殺そうとしていたオークの残骸――を見つめながら、へたり込んでいた。
世界が崩壊し、逃げ込んだこのスーパーも魔物の巣窟になっていた。
親友たちは目の前で喰われ、結衣もバックヤードで死を覚悟した。それなのに、突如点灯した照明と、気の抜けた店内放送ひとつで、店内にいた数十匹の魔物が一瞬にして全滅(石化)してしまったのだ。
ウィィィン……。
静まり返った店内に、自動ドアが開く音が響いた。
結衣がビクッと肩を震わせてレジの方を見ると、信じられない二人組が歩いてくるのが見えた。
一人は、血に濡れた真剣を携え、鋭い眼光で周囲を警戒する凛とした美少女剣士。
そしてその後ろを歩くのは、スウェットにサンダル履きという、コンビニにでも行くかのようなだらしない格好の青年だった。
「おーい、生存者の人ー? 生きてるー?」
「あ、あの……!」
結衣は震える足で立ち上がり、二人の元へ駆け寄った。
「あんた達が、さっきの放送の……? このバケモノ達を倒してくれたの?」
「倒したっていうか、ルール違反で排除しただけだけど。俺は相田蒼太。で、こっちが……」
「蒼太様の第一の剣、九条凛です。以後、お見知りおきを」
凛がシャキッと背筋を伸ばして一礼する。そのただならぬ達人オーラに、結衣は思わず「は、はぁ……星野結衣です」と頭を下げた。
「結衣ちゃんね。とりあえず怪我はない? ないなら悪いんだけど、スナック菓子とコーラの売り場、案内してくれない? このスーパー広すぎてさ」
「……は?」
結衣はポカンと口を開けた。
外の世界は火の海で、人々が阿鼻叫喚の地獄を彷徨っているというのに、この男は命がけで『ポテチ』を探しに来たというのか。
「あ、いや、お菓子コーナーはあっちだけど……。てか、ここ安全なの? さっきの豚の仲間が来たら……」
「心配無用です、結衣殿」
凛が誇らしげに胸を張った。
「蒼太様が展開されたこの『神域』の中では、神の意に背く邪悪な存在は一歩も立ち入ることができません。我々は、この世で最も安全な楽園にいるのです」
「ら、楽園……?」
半信半疑の結衣だったが、蒼太の後に着いてお菓子コーナーへ向かう道中、店内の大きなガラス窓から『外の景色』を見て、言葉を失った。
スーパーの駐車場を覆うように、薄青い光のドーム(結界)が張られている。
そして、その結界のすぐ外側には、無数のゴブリンやシャドウウルフが群がり、ヨダレを垂らしてこちらを睨みつけていた。
だが、魔物たちが結界に触れた瞬間――バチィッ!! という閃光と共に、魔物たちは悲鳴を上げて弾き飛ばされていく。
「な、なにこれ……マジでバリア張ってんの……!?」
結衣が窓に張り付いて驚愕していると、さらに信じられない光景が目に入った。
「そぉらっ! 燃えろォォォッ!!」
「ひぃぃっ! ゴブリンの死体をこっちに引っ張れ! 魔石を取り出すんだ!」
結界の内側の安全圏から、小太りのスーツの男(権田)と十数人の生存者たちが、結界ギリギリまで近づいてきた魔物を長い棒や魔法でチクチクと攻撃し、倒れた魔物から必死に『魔石』を回収していたのだ。
「あいつら、何してんの……?」
「ああ、俺のアパートの住人(元上司)たち。結界の中に入れてやる代わりに、家賃として魔石を納品する『クエスト』を与えたんだ」
蒼太はカートに大量のコンソメ味のポテチと、2リットルのコーラを放り込みながら平然と答えた。
「俺が寝てる間も、あいつらが魔石を稼いで納品してくれれば、俺のアプリのポイント(AP)が勝手に貯まるからね。完全な不労所得ってやつ」
外の地獄を利用して、命の保証と引き換えに生存者を労働力(奴隷)としてシステムに組み込む。
結衣は、目の前のスウェット姿の青年が、実はとんでもなく恐ろしい支配者なのではないかと震え上がった。
「そ、蒼太さん……あんた、マジで何者なの……?」
「ん? ただの有休中のサラリーマンだけど」
蒼太がカートを満杯にした、その時だった。
『ピコンッ』
蒼太のスマホから、これまで聞いたことのない、甲高い警告音が鳴り響いた。
画面を見ると、真っ赤な文字が点滅している。
【緊急警告:新宿区・都庁方面より、規格外の高エネルギー体の接近を感知】
【対象は『神域』の結界を明確に認識し、一直線に向かってきています】
【脅威度:災害級(魔王軍幹部クラス)】
「……ん? なんかヤバそうなのがこっち来てるな」
蒼太が眉をひそめて窓の外、都庁の方角を見上げると。
赤く染まった空を切り裂きながら、漆黒の翼を持った「人型の何か」が、音速を超えるスピードでスーパーの結界に向かって飛来してくるのが見えた。
「うそでしょ……あんなの、結界がもつわけ……!」
結衣が絶望の声を上げる。
せっかくポテチと不労所得のシステムを手に入れたのに、またしても面倒ごとが向こうからやってくる。
蒼太はため息をつき、カートのコーラを一口飲んでから、スマホの画面をタップした。




