神殺しの管理者権限(sudo)と、仁義なき物理デバッグ
「「「オオオオオォォォォォォォォッ!!!」」」
新宿セーフゾーンの南ゲート上空。
黄金色に輝く防壁の外へ、凛、ルシス、カーミラ、そして四大帝の七人が、弾丸のごとく飛び出した。
彼らの身体、そして武器には、蒼太がハッキングで奪い取った『神のルート権限』が、眩い黄金のオーラとなって纏わりついている。
それは、この世界の物理法則やシステム命令を上書き(オーバーライド)できる、文字通りの『神殺しの特効バフ』だった。
『// 警告:未承認の管理者権限を持つエンティティを確認。排除プログラム(ルート・クリーナー)の出力を最大に――』
防壁に張り付いていた、幾何学模様のノイズの塊たちが、一斉に黄金の七人へ向かって、空間ごとデータを消し去る「消去光線」を放った。
先ほどまでなら、天帝のスキルすら無効化(Null)した、絶対的な削除命令。
しかし。
『バキィィィィンッ!!!』
黄金のオーラに守られた七人は、その消去光線を、まるでただの温い風のように身体で弾き返した。
「……愚かな。神の理通りにしか動けぬゴミ共め。我が主君のシステム言語の前では、貴様らの攻撃など『コメントアウト(無効化)』されたただの文字列に過ぎない」
先陣を切ったのは、漆黒の執事ルシスだった。
彼は背中の黒翼を広げ、戦場全体を覆うほどの『影』を展開する。
「『影の世界』へようこそ。ここでは、貴様らの処理速度(クロック数)は、我が主君の意志によって『無限大に低下』させられる」
ルシスが指を鳴らすと、数千体のルート・クリーナーたちの動きが、ピタリと停止した。
ただの魔法の拘束ではない。システムレベルでの『処理停止』。神のプログラムが、ルシスの影の中で、エラーを吐きながら完全に停止したのだ。
「動けないバグ(敵)は、ただの的ね! アタシの寿司と温泉と、蒼太様のスローライフを邪魔した罪……その綺麗なデータ、アタシの欲望(物理)でグッチャグチャにしてやるわァッ!!」
動けなくなったクリーナーたちのど真ん中へ、カーミラが真っ赤なドレスを翻して突っ込んだ。
彼女の動力源は「欲望」。神を殴り倒して、もっと和牛を食う、もっと贅沢をする。その強烈な私欲が、ルート権限バフと融合し、彼女の腕力を天文学的な数値へと跳ね上げていた。
『ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!』
カーミラの、物理質量と運動エネルギーを極限まで高めた右ストレートが、ルート・クリーナーの一体に直撃した。
本来なら物理攻撃が通じないはずのノイズの塊が、カーミラの「殴りたい」という欲望に上書きされ、ガラス細工のように木端微塵に砕け散った。
砕けたクリーナーの破片は、莫大なAPの結晶となって、新宿の街へ降り注ぐ。
「……システム異常は、即座にデバッグ(殺害)する。それが私の、蒼太様への忠誠です」
凛が、黄金の光刃となったシステムブレードを構え、音速を超えた速度で戦場を駆け抜けた。
「『概念切断』――上書き(オーバーライド)!」
シュババババババッ!!
凛の剣撃は、もはやクリーナーの体を切るのではない。クリーナーを構成する『ソースコード(存在確率)』を、黄金の管理者権限で上書きし、物理的に「消去」していくのだ。
凛が一閃するたびに、数体のルート・クリーナーがノイズとなって、この世界から完全に消滅していった。
「す、凄まじい……! これが、真の王の……いや、蒼太社長の力……!」
「ワシらのスキルが、効いとる! 効いとるぞい! 膝をつけ、神の塵ども! 『絶対王権』!!」
四大帝たちも、以前は無効化された自らのスキルが、ルート権限バフによって「有効(True)」に書き換えられたことに狂喜し、クリーナーたちを圧倒していた。
天帝の命令でクリーナーが動きを止め、獣帝の爪がクリーナーを切り裂き、魔帝の魔法がクリーナーを分解し、剣帝の刀がクリーナーを一刀両断する。
先ほどまでの絶望的な戦況は、たった数分で、新宿陣営による一方的な「神のプログラムの物理デバッグ(虐殺)」へと変貌していた。
* * *
――その頃。新宿メガ・マートの屋上。
「よし、CPU(お前ら)は順調に動いてるな」
苍太は、フラミンゴの浮き輪の上で、期間限定の『激辛・海鮮ポテトチップス』をボリボリと齧りながら、タブレットの画面で戦況を見守っていた。
画面には、凛や四大帝たちのステータスが「演算中(Calculating...)」という文字と共に、凄まじい速度で点滅している。
(一万人分の魔力と四大帝のリソースを並列処理に使った甲斐があったぜ。おかげで俺のスマホ(アーキテクトVer3.0)の処理速度は、神の本体と互角か、それ以上だ)
蒼太は、コーラを飲み干すと、浮き輪から立ち上がり、サングラスをずらしてブルースクリーンの空を見上げた。
「……でも、やっぱり『現場のパッチ当て(防衛戦)』だけじゃキリがねえな」
蒼太の瞳が、プロのシステムエンジニアとしての冷徹な光を帯びた。
タブレットの画面には、全滅しかけたルート・クリーナーたちが、再び神のサーバーから新たな「仕様」を適用され、さらに強力な『幾何学ノイズの獣(第2段階)』へと変態しようとしているのが見えた。
「相手はOS(世界)の根幹だ。現場でバグ(クリーナー)を潰しても、運営(神)がソースコードを書き換えれば、また新しいバグが生まれる。……根本を書き換えない限り、このデスマーチは終わらねえ」
蒼太はスマホをコンソールに直結させ、キーボードの上に指を置いた。
「おい、ルシス! 凛! カーミラ! 四大帝! 聞こえるか!」
蒼太の声が、スピーカーを通じて、戦場を無双する配下たちの脳内へ直接響いた。
「そこ(現実世界)の防衛は、お前らCPU(幹部)に任せる! 敵の第2段階アップデートを、一歩も結界に近づけるな! ……俺は今から、直接『神のサーバー(ルートサーバー)』に乗り込んで、根本を書き換えてくる」
「「「……ハッ!? 蒼太様(社長)自ら、神の御許へ……ッ!?」」」
幹部たちが驚愕の声(と勘違いの感動)を上げる。彼らには、蒼太が「神と直接対決し、世界を救うために精神を犠牲にする」壮大な英雄的行為に見えていた。
「勘違いするなよ。俺は、神と戦いにいくんじゃねえ。……クソみたいな運営(神)のサーバーを『乗っ取り(ハッキング)』にいくんだよ。……俺の、有休を邪魔した落とし前は、世界の管理者(Root)の権限を奪うことで、きっちり払ってもらうからな」
蒼太は不敵にニヤリと笑うと、コンソールのEnterキーを叩いた。
【管理者権限(Ver3.0)を実行】
【相田蒼太の自我(意識)をデータ化。……神のブルースクリーン(Root Server)へ向けて、特攻ハッキングを開始します】
『ピガァァァァッ……!!!』
苍太の身体が、一万人分の演算能力をエネルギーとした、巨大な黄金のデータパケットとなって、ブルースクリーンの空の彼方、神の本体へと向かって、光の速さで打ち出された。
最強の引きこもりによる、世界最大の「強制デバッグ(ハッキング)」。
OSの根幹を巡る、相田蒼太とシステム・ゴッドによる、本当の「世界の管理者」を決めるサイバー戦が、今ここに幕を開けた。




