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神域のアーキテクト 〜世界が滅亡したので、スマホで自宅を絶対安全要塞に書き換えます〜  作者: kiro


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強制ダイレクトメール(スパム)と、信仰心の崩壊



冷たい雨が打ち付ける、東京湾エリア・旧お台場。


かつて華やかな商業施設だったその場所は、今や巨大な十字架が乱立する、異様な『聖帝教団』の総本山と化していた。


「……おお、偉大なるシステムよ。我らの罪を許し、この苦難の試練をお導きください」

屋根すら半壊した大聖堂の中。


何千人もの信者たちが、ボロボロの修道服を纏い、泥水に膝まで浸かりながら祈りを捧げていた。彼らの頬は極度の飢餓でこけ、目は虚ろだ。


だが、彼らの前に立つ純白の法衣を纏った美青年――『聖帝』は、その惨状をどこか満足げに見下ろしていた。


(美しい。人間とは、極限の飢餓と恐怖の中に置かれてこそ、絶対的な信仰心リソースを神のサーバーへと捧げる。これこそが、モデレーター様が私に与えたもうた完璧な管理体制だ)

聖帝の薄い唇が、弧を描く。


彼はシステム・ゴッドの端末(トロイの木馬)として、人々にわざと過酷な環境を与え、すがる場所を『神への祈り』だけに限定させていた。いわば、洗脳を前提とした超ブラック企業である。


「さあ、迷える子羊たちよ。我らが配った『奇跡のロザリオ』を通じて、さらなる祈りを――」

聖帝が両手を広げ、信者たちに神へのアクセスを促した、その瞬間だった。


『……ジジッ……』


大聖堂に集う数千人の信者の脳内に、突如として「ノイズ」が走った。


それは神からの啓示ではない。相田蒼太がロザリオのバックドアを利用して流し込んだ、極めて悪質な『ターゲティング広告アドウェア』の起動音だった。


「……え?」


最前列で祈っていた痩せこけた騎士が、呆然と顔を上げた。


彼の網膜に、いや、脳の視覚野に直接、『ジュワァァァッ!』という極上の肉が焼ける音が響き渡ったのだ。


それだけではない。


鼻腔を突き抜ける、甘辛い醤油と砂糖が焦げる匂い(すき焼き)。


舌の上に乗せた瞬間、体温でトロリと溶け出すA5ランク霜降り和牛の圧倒的な旨味と、あふれ出す肉汁の感覚。


さらに、凍える体を芯から温める、ヒノキの香りが漂う40度の『極楽温泉』の疑似体験データが、彼らの五感を容赦なく犯していく。


「あ、あぁ……ッ!? な、なんだこれは……! 肉……おにく、お肉ゥゥッ! あったかい、お風呂ォォッ!!」


「どうした!? 何事ですか、静まりなさい!」


突然、ヨダレを滝のように流しながら発狂し始めた信者たちを見て、聖帝が慌てて声を上げる。


しかし、遅かった。


(……神への祈り? 魂の救済? そんなものより……今すぐ、この腹を満たして、温かい布団で寝たいッ!!)


極限の飢餓状態にあった彼らの脳に直接ぶち込まれた「圧倒的なQOL(生活の質)の疑似体験」は、何年にもわたって植え付けられてきたシステム・ゴッドへの洗脳を、たった数秒で完全に粉砕した。


『新宿セーフゾーンは、頑張るあなたを応援します! 今なら魔石納品で、毎日和牛すき焼き付きのVIPプランが実質無料! さあ、今すぐ甲州街道をまっすぐ西へ!』


脳内に響く結衣の明るいナレーション(蒼太が合成音声でちゃっかり作成した)と共に、信者たちの目に宿っていた「虚ろな信仰の光」は、ギラギラとした「生への凄まじい執着(欲望)」へと完全に上書き(オーバーライド)された。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉッ!! 新宿ゥゥゥッ! 俺を、俺を雇ってくれぇぇぇッ!!」


「和牛! 温泉! ふかふかのベッドォォォ!!」

大聖堂の扉が内側からブチ破られ、数千人の信者たちが、十字架をその辺の泥水に投げ捨てて、一斉に新宿の方角へと猛ダッシュを始めた。


「なっ……き、貴様ら!? どこへ行く! 神への祈りを放棄するなど、許されると……ああっ、待ちなさい! 踏むな、私の顔を踏むなァァッ!」


押し寄せる欲望の暴走(モブの群れ)の前に、聖帝の言葉など微塵も届かない。


白装束を泥だらけにされながら、聖帝は完全に崩壊していく自らの教団を、ただ呆然と見送ることしかできなかった。


場面は変わり、その数日後。

新宿セーフゾーン・南側ゲート前。


「……蒼太様。その、これは一体、どういう状況なのでしょうか」


防衛長官である凛が、ピクピクと頬を引きつらせながら蒼太に尋ねた。


ゲートの外には、完全武装した聖帝軍の『聖騎士団』および数千人の信者たちが押し寄せていた。

普通なら全面戦争の構えだ。しかし、彼らは誰一人として武器を構えていない。それどころか、全員が土下座をして、空の茶碗や洗面器を掲げているのだ。


『頼む! 我らを……我らを新宿セーフゾーンで雇ってくだされ!』


『魔石ならいくらでも掘ります! 残業も厭いません! だから、あの脳内に流れてきた「すき焼き」を……我らにも恵んでくだされぇぇっ!』


「大豊作だな。広告のコンバージョン率(成約率)、脅威の98%だぜ」


蒼太はタブレットで集計データを見ながら、満足げに笑った。


「蒼太様……。貴方というお方は、本当に恐ろしい方だ」


隣で見ていた権田が、震える声で呟く。


「血の一滴も流さず、剣を一度も振るうことなく。ただ『敵国の兵士に、自国の圧倒的な福利厚生を宣伝した』だけで、敵軍を丸ごと寝返らせて(大量離職させて)しまうとは……!」


「アハハハハッ! 当たり前よ! 宗教(やりがい搾取)なんかより、美味しいご飯とお風呂(金と休み)の方が人間に効くに決まってるじゃない!」


同じく「福利厚生の虜」になって寝返ったカーミラが、我が意を得たりと腹を抱えて大爆笑している。


蒼太はタブレットを小脇に抱え、ゲートの外で土下座する数千人の「元・敵兵」たちの前に歩み出た。


「えー、新宿セーフゾーン代表の相田だ。遠路はるばる、弊社の採用面接にご足労いただき感謝する」


蒼太の気怠げな声が、スピーカーを通じて響き渡る。


「お前らが今までいた教団は、神への祈りという名の『やりがい搾取』で、お前らからリソースを奪うだけのブラック企業だ。だが、うちは違う」


蒼太の言葉には、かつて前職で理不尽な労働を強いられた彼自身の「リアルな怒り」が、ほんの少しだけ混じっていた。


労働クエストには、必ず正当な報酬(対価)を払う。魔石を掘れば、その分だけ美味い飯と安全なベッドを提供する。それがうちの『ホワイトな企業理念』だ」


蒼太が指を鳴らすと、権田たち防衛軍が、ゲートの前に巨大な長机を並べ、ほかほかと湯気を立てる数千人分の「炊き出し(エコプラント産・特上和牛の牛丼)」を配置した。


「腹が減ってるんだろ。まずは食え。話(雇用契約)はそれからだ」


その瞬間、聖騎士団の屈強な男たちが、牛丼の匂いに耐えきれず、ボロボロと涙を流し始めた。


「う、うおおおぉぉんっ! 神よ、いや、蒼太社長ォォッ! 一生、一生あなた様についていきますぅぅっ!」


「和牛うめぇ! 醤油うめぇ! 東京湾の泥水よりずっと美味ぇよぉぉっ!」


武器を捨て、一心不乱に牛丼を掻き込む元・敵兵たち。


その光景を見下ろしながら、蒼太はフッと笑みをこぼした。


「……ま、これだけ新規アカウント(労働力)が増えれば、俺の不労所得(AP)もさらに盤石になるな」


(聖帝の野郎、今頃誰もいなくなった教会で、神に言い訳でも考えてる頃だろうな。……スパイを送った落とし前は、経済的に(リソースを枯渇させて)きっちり払ってもらうぞ)


最強の引きこもりによる、血を流さない大規模M&A(吸収合併)。


東京湾エリアの戦力は、戦わずして完全に新宿の経済圏へと飲み込まれ、残る【五大帝】とのパワーバランスは、相田蒼太のただ一人勝ちの様相を呈し始めていた。

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