タスク競合(ヒロインの奪い合い)と、至高のマッサージ
「……ゲームのしすぎで、肩凝ったな……」
深夜。
ゲーム大会で結衣にボロ負けし(ルシスのチートは強制解除した)、遊び疲れた蒼太がソファで首をポキポキと鳴らした。
その呟きを、彼を取り巻く三人のヒロイン(+1名の執事)が聞き逃すはずがなかった。
「お、お任せください蒼太様! 騎士たるもの、主君の疲労を回復させるのも立派な任務! 私が全身全霊で肩をお揉みいたします!」
凛が目を輝かせて、蒼太の背後に回ろうとする。
「ちょっと凛、アンタみたいなカチカチの筋肉騎士に揉まれたら、蒼太様の肩の骨が砕けちゃうわよ! ここはアタシの出番ね!」
ドンッ、とカーミラが凛をヒップアタックで弾き飛ばし、豊満な胸を揺らしながら蒼太の隣に陣取った。
「蒼太様ぁ♡ アタシの柔らかいお胸と太ももを使った、極上の『密着リラクゼーション・マッサージ』をしてあげますよぉ……? さあ、遠慮なくアタシの膝に頭を乗せて……っ!」
「淫乱女ァッ! 抜け駆けは許しません!! 蒼太様の頭を乗せるのは私の太もも(絶対防衛圏)です!!」
バチバチバチッ!!
蒼太の右隣と左隣で、白銀の騎士と真紅の暴君が、文字通り火花を散らして睨み合っている。彼女たちのステータスが高すぎるせいで、ただの嫉妬のオーラが物理的な静電気を発生させていた。
「いや、普通にマッサージチェア出すからお前ら落ち着けって……」
蒼太が呆れてタブレットを操作しようとした、その時だった。
「はい、蒼太さん。温かいハーブティー淹れたよ。肩凝りにはこれが一番だって」
騒ぎの反対側から、結衣がマグカップを両手で持ち、トコトコとやってきた。
そして、彼女は一切の殺気も競争心も見せずに、スッと蒼太の真正面に座り、ふわりと微笑んだ。
「ゲーム、楽しかったね。また明日もやろっか。……ほら、ちょっとこっち向いて」
「ん? おう……」
蒼太が素直にマグカップを受け取って振り向くと、結衣は背伸びをして、蒼太の首筋から肩にかけて、小さな手で優しくトントンと叩き始めた。
「痛くない? 強さ、これくらいでいい?」
「……ああ。ちょうどいい。すげぇ上手いな」
「えへへ、お母さんに昔よくやってたから。蒼太さん、いっつも難しい顔して画面見てるから、たまにはこうやって力抜かないとダメだよ」
結衣の年相応の無邪気な優しさと、純粋な癒やしのオーラ。
ステータスや特殊スキルなど一切持たない彼女の「普通の女の子」としてのマッサージが、蒼太の凝り固まった神経を一番的確に解きほぐしていく。
「あ、あわわ……! ゆ、結衣殿に完全に主導権を持っていかれた……!」
「嘘でしょ!? アタシの大人の魅力(物理バフ)が、あんな子供の肩叩きに負けるなんて……ッ!」
唖然とする凛とカーミラを尻目に、蒼太は結衣の肩叩きを受けながら、心地よい眠気に包まれ始めていた。
(……やっぱり、結衣ちゃんの安心感は別格だな。平和って最高だ……)
「……蒼太様。良い夢を」
半分夢の中に落ちかけている蒼太の耳元で、唐突に、プロのオペラ歌手もかくやという『超絶美声の子守唄』が響き渡った。
「びくぅっ!?」
驚いて目を開けると、いつの間に背後に回っていたのか、漆黒の執事ルシスが、うっとりとした表情で蒼太の耳元で歌を囁いていた。
「私が最高級の周波数で発声した、幻影の安眠歌です。さあ、深き眠りの底へ……」
「お前は距離が近すぎるんだよ!! ビビるわ!!」
結局、その夜の蒼太は、ルシスの異常な過保護っぷりと、負けじと添い寝を迫ってくる凛とカーミラのせいで、朝まで熟睡できない羽目になるのだった。
最強のスキルと最悪の敵を抱えながらも、新宿セーフゾーンの夜は、今日も平和で騒がしく更けていく。




