監視プログラム(トラッキング)の設置と、仁義なきゲーム大会
「……ふぁ〜あ。終わった終わった。お疲れさん」
五大帝とのオンライン会議をブツンと容赦なく切断し、蒼太は大きく伸びをした。
画面の隅では、神のスパイである【聖帝】の通信ポートに、蒼太がこっそり仕込んだ『トラッキング・プログラム(常時監視アプリ)』が緑色の光を点滅させながら正常に稼働している。
「蒼太様。あの聖帝という男、やはり神側の……」
控えていた凛が、剣の柄に手をかけながら険しい表情で進み出た。
「ああ、真っ黒だな。奴のスキル通信は、システム・ゴッドの本体と完全に繋がってる(同期してる)。いわゆる『トロイの木馬』ってやつだ。五大帝の同盟を内側から崩壊させる気だろうな」
「なんと卑劣な……! 今すぐ私が東京湾に赴き、あの白装束の首を刎ねてまいりましょうか!」
「アタシも行くわ! あの優男、なんかいい匂いしてムカつくのよね! 物理でミンチにしてやるわ!」
凛とカーミラが物騒なことを言い出し、ルシスも「蒼太様の御心を乱す害虫には、幻影の拷問を……」と背中に黒い羽を広げ始めた。
「ストップストップ。お前ら、血の気が多すぎるっての」
蒼太はポテチの袋を漁りながら、呆れたようにため息をついた。
「いいか? 相手は自分がバレてないと思ってるんだ。こっちが監視ツール(キーロガー)を仕込んだとも知らずに、せっせと神に情報をアップロードし続ける。……つまり、泳がせておけば、敵の『次期アップデート情報(作戦)』がこっちに筒抜けってわけだ」
「なるほど……! あえて敵のマルウェアを利用し、情報を逆探知する。さすがは蒼太様、神の如き深謀遠慮……!」
凛が感動に打ち震え、ルシスが深く頷く。
「それに何より」
蒼太はコントローラーを手に取り、巨大モニターの画面をゲーム機(旧世界の遺物を復元したもの)の入力に切り替えた。
「わざわざこっちから出向いて残業(戦闘)するとか、面倒くさいだろ。せっかく半年間の有休をもらったんだから、今は全力で遊ぶぞ。ほら、四人対戦のアクションゲーム起動したから、コントローラー持て」
こうして、世界の命運を握るトップたちの間で、仁義なき「大乱闘ゲーム大会」が幕を開けた。
「……ええい! なぜ私の剣撃(ボタン入力)が届く前に、この丸っこいピンクの生物に吸い込まれるのですか!? 物理演算がおかしいのでは!?」
「凛ちゃん、それはそういう技なの! ほら、カーミラさんも復帰して!」
「ああもう、なんでアタシのキャラ落ちるのよ! ええい、このコントローラーの耐久値が低すぎるのよ!!」
ミシィッ……!!
「おいカーミラ! コントローラーは力(物理)で
握りつぶすな! バグるから!」
現代っ子である結衣が華麗なコンボを決めて無双する中、ゲームの概念に慣れない凛は理不尽な判定にブチギレ、カーミラは無意識の筋力でコントローラーを破壊しかけていた。
「ふふふ……蒼太様。ご安心ください。私がシステムの裏側から『特殊パッチ』を当て、蒼太様のキャラクターを完全無敵状態に書き換えておきました。これで結衣殿の攻撃も当たりません」
「ルシス、お前はゲームの概念を根本から壊すな! eスポーツにチート持ち込むなよ!」
ドタバタと騒がしいペントハウス。
外の世界では魔物たちが跋扈し、五大帝が血みどろの駆け引きを繰り広げているというのに、新宿の最上階だけは、ただただ平和で最高に怠惰な「日常」が流れていた。




