フラミンゴ浮き輪と、五大帝からの着信(オンラインミーティング)
「あーん♡ 蒼太様、冷たくて甘いトロピカルジュースですよぉ。アタシの口移しで飲みますか?」
メガ・マート最上階、Ver3.0の権限で作られた「完全室内プライベートビーチ」。
エメラルドグリーンのプールに浮かべたフラミンゴ型の巨大な浮き輪の上で、蒼太は至福の時を過ごしていた。
隣には、真紅のマイクロビキニ姿の欲帝カーミラがピッタリと身を寄せ、豊満な胸を押し付けながらストローを差し出してくる。
「いや、普通にグラスで飲むわ。……つか、重いからあんまり乗っかってくんなって。フラミンゴが沈む」
「ひどーい! アタシなんて和牛の食べ過ぎでちょっとお肉ついたのにぃ!」
「そ、蒼太様! 私も日焼け止めを塗っていただきたく……っ! その、背中などは自分では届きませんので……!」
カーミラに対抗するように、白いフリルビキニ姿の凛が、顔を真っ赤にしながら背中を向けてすり寄ってくる。普段は厳格な騎士である彼女の、あまりにも破壊力のある無防備な姿に、蒼太も流石に目のやり場に困った。
「蒼太さーん! ビーチバレーしよー!」
結衣が砂浜からボールを投げ込んでくる。それを、執事のごとく控えていたルシスが「蒼太様にボールをぶつけるなど万死に値します」と、幻影の剣で空中で真っ二つに切り裂いた。
「いや、ルシス。遊んでるだけだから。ボール斬るなよ」
「ハッ、申し訳ありません。では私が新しいボールを生成いたします」
世界が滅びるまであと半年だというのに、新宿のトップたちは緊張感の欠片もないバカンスを満喫していた。
『プルルルルルッ……!』
その時、ビーチのパラソルの下に置いていた蒼太のスマホが、重々しい電子音を鳴らした。
普通の着信音ではない。それは、先日の死闘の末に不可侵条約を結んだ『天帝・神宮寺』との間にだけ開通させた、暗号化された専用回線だった。
「……ん? おーいルシス、ちょっとスマホ取ってくれ」
蒼太はフラミンゴ浮き輪に寝そべったまま、ルシスからスマホを受け取り、スピーカーモードにして通話ボタンを押した。
「はい、もしもし。新宿セーフゾーン、代表の相田ですが」
『……相田蒼太。久しいな』
電話の向こうから、重厚で威圧感のある天帝の声が響く。
「なんだよ、休日に。こっちは今、有休消化中で忙しいんだぞ」
蒼太が欠伸交じりに答えると、電話の向こうの天帝が、少し戸惑ったような沈黙を落とした。
『……おい。さっきから背後で聞こえる「きゃははっ!」「蒼太様、あーん♡」という女の嬌声と、水が跳ねる音はなんだ? まさかお前、この終末の世界で……海にでも行っているのか?』
「あー、まあ、室内プールだけど。今いいとこだから、要件を手短に頼むわ」
『……狂人め。本当に底が知れん男だ』
天帝は深い溜め息を吐き、本題を切り出した。
『お前も聞いただろう。先日、東京の空に響き渡った、神からの完全初期化の通告を』
「ああ、聞いた聞いた。半年後にサーバーごとフォーマットするってやつな」
『そうだ。もはや、我々人間同士で覇権を争っている場合ではない。……炎帝は死んだ。そして、欲帝カーミラはお前の軍門に下り、事実上「抹消」された扱いとなっている。七大帝は今や、俺を含めた【五大帝】となった』
天帝の声に、かつての敵対心はなかった。あるのは、共通の強大な敵を見据えた王としての冷徹な響きだ。
『相田蒼太。俺はお前の規格外の防壁と、システムを書き換える力を高く評価している。……生き残るために、俺たち【五大帝】と、お前の【新宿陣営】で、同盟(非公式の不可侵および情報共有協定)を結ばないか』
「同盟ねぇ……」
蒼太はサングラスをずらし、青い人工の空を見上げた。
「俺は別に、世界を救う気はないぞ。俺の部屋と、こいつらの飯が守れればそれでいい」
『それで構わん。互いの領土を干渉せず、神が降臨した時のみ、共闘戦線を張る。……どうだ?』
「まあ、悪い話じゃないな。俺も敵は少ない方が昼寝が捗るし。……いいぜ、話を聞いてやるよ」
『ならば、今夜。五大帝全員を集めた「最高会議」を開く。指定した座標へ来い』
「えー、外出るの面倒くさい。オンライン会議(ビデオ通話)にしてくれ。俺のサーバー内に、安全な仮想会議室(VRルーム)作ってやるから、そこにアクセスしろよ」
『お前という奴は……! ええい、分かった! 後でURLを送れ!』
ガチャッ、ツーツー。
一方的に電話が切れ、蒼太はスマホを放り投げた。
「さてと。午後からは、他の王様たちとZoom会議だな」
フラミンゴに揺られながら、蒼太は最高にだらしない笑顔を浮かべた。




