VIPプラン(定額制)の契約と、陥落する女帝
「蒼太様! 申し訳ありません、外の害虫が少々騒がしく……」
「いや、いいよ。モニターで見えてたから」
蒼太はポリポリと頭を掻きながら、冷や汗を流して拘束されているカーミラを見下ろした。
「アンタが……相田蒼太。アタシを殺しなさい! どうせ、この六本木の軍勢を皆殺しにして、アタシの領地を奪う気なんでしょ!」
カーミラが牙を剥き出しにして睨みつける。
だが、蒼太はタブレット端末をイジりながら、心底どうでもよさそうにため息をついた。
「いや、領地とか別にいらないけど。……アンタら、うちの『和牛』と『温泉』が目当てで来たんだろ?」
「……え? そ、そうよ! アタシは美味しいお肉を食べて、広いお風呂に入りたいの! それがアタシの欲望よ!」
「なんだ、そんだけか。拍子抜けだな」
蒼太はタブレットの画面をカーミラに向けた。そこには、真新しい『新宿セーフゾーン・料金プラン表』が表示されていた。
「今、うちの街は市民を一万人も抱えちゃって、維持費(AP)が赤字ギリギリなんだよ。だから、魔石を払ってくれるなら、外部の人間でもお客さんとして歓迎するぞ」
「……はい?」
カーミラはポカンと口を開けた。
「Aランク以上の魔石を月に100個納品してくれれば『スタンダード・プラン(温泉週3回・和牛週1回)』。月に1000個なら『VIPプラン(全施設使い放題・毎日和牛すき焼き付き)』だ。あ、もちろんアンタの部下たちも、魔石を持ってきた分だけ飯食わせてやるよ」
血みどろの覇権戦争を仕掛けに来たはずが、突然「スーパーの会員登録」みたいな営業をかけられ、カーミラは完全に思考が停止した。
「お、お金(魔石)を払えば……奪わなくても、普通に利用できるってこと……?」
「当たり前だろ。うちはホワイトな優良企業だからな。とりあえず、初回無料の『お試し体験』してみるか?」
蒼太が指を鳴らすと、ルシスが拘束を解いた。
――一時間後。新宿セーフゾーン内、極楽温泉・特別VIPルーム。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ♡」
カーミラは、最高級のヒノキが香る露天風呂の湯船に浸かり、完全にだらしなくとろけきった顔で天を仰いでいた。
血と泥にまみれた生活から一転、湧き出る本物の温泉。そして、湯上がりに用意されていたのは、蒼太のシステムで完璧に温度管理された「極上霜降り和牛のステーキ」と「キンキンに冷えたビール」だった。
「んんんーっ! なにこれ、なにこれぇ! お肉が口の中で溶けるぅぅ!」
バクバクと和牛を口に運びながら、カーミラは感動のあまり大粒の涙をボロボロと流し始めた。
世界が崩壊して以来、彼女はただ「欲望」を満たすために力で全てを奪ってきた。しかし、こんな極上の贅沢は、どれだけ暴力を振るっても手に入らなかったのだ。
「どう? 気に入った? もしうちの『最高財務責任者(CFO)』として、六本木の魔石ルートごと新宿のシステムに統合(M&A)してくれるなら、このVIP待遇を永久保証してやってもいいけど」
蒼太がコーラを飲みながら、悪魔(営業マン)の笑みを浮かべる。
「や、やりますぅぅ! なんなら六本木とかどうでもいい! アタシ、今日から一生ここで暮らすぅ! 蒼太様のベッドの足元で寝るから、毎日このお肉食べさせてぇぇっ!!」
物理最強の誇り高き『欲帝』は、死闘の末に敗れるでもなく。
ただ、圧倒的な生活の質(QOL)と福利厚生の前に、完全に骨抜きにされて陥落した。
こうして、蒼太は一切の血を流すことなく、七大帝の一角を丸ごと自らの「スポンサー」として買収(吸収合併)することに成功したのである。
新宿の財政難(クラウド破産)は、あっさりと解決の糸口を掴んだのだった。




