72時間のデスマーチと、狂気のエラーログ
――開戦から、丸二日が経過した。
「……『空間よ、抉れ』」
「……座標補正……エラーを、除外……ッ」
新宿の境界線。マグマの海と化した外の世界と、青い結界に守られた要塞都市。
その境界を挟んで対峙する二人の姿は、開戦時の余裕など見る影もなくなっていた。
「ぜぇ……はぁ……ッ。まだ、防ぐか……引きこもり……」
純白だった天帝のスーツは煤と血で汚れ、端正な顔立ちには疲労の色が濃く滲んでいた。
無尽蔵と思われた彼の魔力も、そして何より【絶対王権】という世界を歪めるスキルを連続使用したことによる「魂への凄まじい反動」が、彼の肉体を蝕み始めていた。両目からはツツーッと一筋の血の涙が流れている。
対する蒼太は、さらに限界だった。
「……権田、コーラ。あと、魔石の予備タンク、全部俺の端末に直結しろ……」
「そ、蒼太様! もうお体が持ちません! これ以上演算を続ければ、脳が焼き切れてしまいます!」
蒼太の目は完全に充血し、指先はスマホのガラスが割れて血まみれになっていた。
三日間、一睡もしていない。コンマ一秒でも気を抜けば、数千万のAPが削られ、結界が破られて新宿が一瞬で消滅する。常に致死量のアドレナリンを分泌させながら、超高速でタイピングを続けているのだ。
「大丈夫だ……。前職の、納期前の金曜日に比べれば……こんなもん……」
蒼太の意識はすでに半分飛びかけていた。
だが、その狂気じみた執念は、人間界の頂点に立つ天帝に、明確な「恐怖」に似た戦慄を抱かせていた。
(なんだ、この男は……。俺の王権は、世界の理そのものだ。それを、ただの端末一つで、72時間も真っ向から防ぎ続けるだと……?)
天帝は血を吐きながら、忌々しそうに蒼太を睨む。
「なぜ、そこまで抗う……。俺の軍門に下れば、そのくだらない苦労から解放してやるものを。お前ほどの力があれば、俺の隣(副社長)の席を用意してやる」
「……ははっ。だから、ブラックな職場は嫌だって、言っただろ……」
蒼太は焦点の合わない目で、狂ったように笑った。
「俺は、俺の部屋で、アニメを見て、ポテチを食って、寝たいんだよ。……俺の有休を邪魔する奴は……神だろうが王だろうが、絶対に定時で帰してやる……!!」
「狂人が……ッ!」
天帝が残された全魔力を振り絞り、自身の命すら削る「最後の王命」を紡ぎ出そうと息を吸い込む。
「俺の残業代、高くつくぞ……! リミッター解除、AP全消費!!」
蒼太もまた、貯め込んだ数億のポイントを全て攻撃プロトコルに変換し、天帝の存在そのものを消去する極大のハッキング・レーザーの起動キーに指をかけた。
三日三晩続いたデスマーチが、互いの命を削り合う最後の一撃で決着しようとしていた。




