概念の王権 vs 管理者権限(ルート・アクセス)
「――『砕け散れ』」
天帝・神宮寺が、薄く笑いながら指を鳴らした。
ただそれだけで、物理法則が悲鳴を上げた。新宿を覆う青白い『絶対防壁』の表面に、見えない巨大な質量が叩きつけられ、網の目のような亀裂が走る。
「くっ……! 権田、予備電源(魔石タンク)を全て防壁の演算に回せ! 凛とルシスは結界の修復パッチを当て続けろ!」
「は、はいっ! 蒼太様!」
要塞の屋上で、蒼太は血走った目でスマホの画面を叩き続けていた。
天帝のスキル【絶対王権】は、魔法でも物理攻撃でもない。「世界に対して『こうなれ』と命令する」だけの、理不尽極まりない概念干渉だ。
「エラーを吐いてる箇所を特定……対象座標を強制ロールバック(時間巻き戻し)!」
砕け散りそうになった防壁が、蒼太のコマンドによって瞬時に「破壊される前の状態」へと上書きされる。
「ほう。俺の『王命』を無かったことにしたか。ならば、これはどうだ」
天帝が両手を広げ、天を仰いだ。
「――『太陽よ、我が玉座のために焦熱を降らせよ』」
赤い空が割れ、宇宙空間から直接、極太の太陽光線が新宿めがけて降り注いだ。炎帝の炎など比較にならない、星そのもののエネルギー。
『ピガァァァァッ!!』
【警告! 致命的なシステム干渉を検知。対象の出力がハードウェアの限界を超過しています】
「冗談きついぜ……! 太陽光を直接パケット送信してきやがった!」
蒼太は歯を食いしばり、コンソール画面に新しいルールを猛スピードで打ち込む。
【緊急ルール追加:『新宿区上空の大気圏データを、完全反射ミラー(光属性無効化)に書き換え』】
バキィィィンッ!!
新宿の上空に展開された不可視の鏡が、太陽光線を宇宙へと反射する。だが、その余波だけで新宿の周囲の土地(結界外)はドロドロのマグマの海と化し、東京の地形が地図から消え去るほどの惨状となっていた。
「ハハハハッ! 素晴らしいぞ、蒼太! 俺の言葉にリアルタイムで対抗を合わせる者が、この世界に存在しようとはな!」
天帝は狂喜の笑い声を上げ、次々と「死の命令」を紡ぎ出す。
「『凍れ』」「『腐れ』」「『重力よ、万倍になれ』」
対する蒼太は、ただひたすらにスマホの画面と睨み合い、システム言語で世界をハッキングし続ける。
「温度データを初期化!」「デバフ(ウイルス)をスキャンして隔離!」「重力定数を再設定(デフォルト化)!」
剣も魔法も交わらない。
ただ、神宮寺の『王の言葉』と、相田蒼太の『システム言語』が、世界そのものの仕様を書き換え合う、異次元のハッキング・バトル。
「……ぜぇっ、はぁっ……。やってやるよ。俺を……本気で怒らせたな、クソクライアントが……ッ!」
かつて、ブラック企業で三日三晩寝ずにバグを修正し続けた、あの地獄のデスマーチ。
あの時はただ心をすり減らすだけだったが、今は違う。自分の背後には、自分が作った「快適な部屋」と、自分を信じてくれる「一万の社員(市民)」がいるのだ。
最強の引きこもりSEによる、絶対に引けない徹夜の防衛戦が始まった。




