オーバーヒート(熱暴走)と、泥だらけの勝利
「逃げないとは、少しは骨があるようだな。だが――遅い!」
炎帝が結衣を放り投げ、蒼太に向かって業火の槍を放った。
「蒼太さん、ダメェェッ!!」
ズガァァァンッ!!
直撃。常人なら骨まで灰になる一撃。
だが、炎と煙が晴れた後――そこには、全身を重度に火傷し、スウェットをボロボロに焦がしながらも、両足で踏みとどまっている蒼太の姿があった。
「な……ぜ生きている? 俺の炎をまともに受けて……」
炎帝が初めて驚愕の表情を見せる。
「ぜぇっ……はぁっ……。残りの……AP、全部……俺の『ダメージ肩代わり(ダメージコントロール)』に、回したんだよ……ッ!」
蒼太のAPは、今の一撃を相殺するためだけにゼロになっていた。もう結界も張れない。次の一撃を受ければ確実に死ぬ。
だが、この「身を切る特攻」によって、蒼太は炎帝の目の前――手が触れる距離(ローカル・ネットワーク内)に到達していた。
「捕まえたぞ、クソクライアント……ッ!」
蒼太の焦げた左手が、炎帝の胸ぐらを強引に掴む。
同時に、右手のスマホ画面に、ハッキング完了(アクセス承認)の文字が緑色に輝いた。
「な……貴様、俺の身体に何を――」
「あんたの『設定ファイル』をいじらせてもらった。強制アップデートだ」
蒼太の血に塗れた指が、エンターキー(実行)を叩き込む。
【対象:エンティティ『炎帝』のステータスを強制変更】
【属性耐性:『火属性無効(100%)』を『火属性弱点(-999%)』に書き換え完了】
「……は?」
炎帝が間抜けな声を上げた直後。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
炎帝の絶叫が新宿に響き渡った。
自らが放つ、太陽の表面温度に匹敵する極大の炎。これまでは「自分には効かない」という前提で出力を上げていたその熱が、今、彼自身の肉体を内側からドロドロに焼き尽くし始めたのだ。
いわゆる『熱暴走』。
冷却ファンを壊されたCPUのように、炎帝の体は自らの魔力を制御できずに膨張していく。
「や、やめろぉぉぉっ! 俺は七大帝だぞ! こんな、こんな所で……俺の覇道がぁぁぁッ!!」
「お前らみたいなブラックな連中は、自分の炎上(熱)で自滅するのがお似合いだ。……強制シャットダウン」
ドゴォォォォォンッ!!
炎帝の肉体が、自らの炎に耐えきれずに大爆発を起こした。
すさまじい閃光が収まった後、そこには黒焦げになったアスファルトと、ドクン、ドクンと脈打つ、人の頭ほどもある【真紅の特級魔石】だけが転がっていた。
「……勝っ、た……」
蒼太はスマホを取り落とし、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
周囲を見渡せば、スーパーは半壊し、商品は炭になり、凛も権田も重傷を負って倒れている。
これまでのように「指一本触れさせずに無傷で圧勝」とはいかなかった。
「……ははっ。死ぬかと思った……。あんなのが、あと6人もいるのかよ……」
薄れゆく意識の中。
しかし、人間界最強の一角を「己の身を挺して」討ち取ったことで、周囲の生存者たちの蒼太を見る目は「便利な神様」から「真に命を懸けて自分たちを導く王」へと、決定的に変わっていた。
泥だらけで血まみれの勝利。
ここから、蒼太たち新宿陣営の、真の覇権戦争が幕を開けるのだった。




