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君を見ている  作者: 三愛 紫月


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3/3

二人目の依頼者

「失礼します」


「どうぞ、そちらにおかけください」




 麻倉君が案内して、女性は椅子に腰かける。


 俺は、チラシをテーブルに置いて先ほどと同じ説明をする。




「それで利用するのはお母様ですか?お父様ですか?」


「えっ!!あら、やだ。これって、70歳以上を対象にしているのね」




 女性は驚いた声をあげながら、俺とチラシを交互に見つめる。




「お年寄り向けサービスなので。若い方はアクティブに働いていらっしゃったり、子供さんやお孫さんがいらっしゃったりするじゃないですか」




 俺の言葉に女性の顔が曇る。


 「そうよねぇーー」とため息混じりに言うとゆっくり立ち上がろうとする。






「待ってください」




 女性を引き留めたのは、麻倉君だった。




「麻倉君?」


「ここに来たってことは、このサービスが必要だってことじゃないですか」




 麻倉君の言葉に胸の奥がズキッとした。


 確かにそうだ。


 祖父の死に囚われすぎていた俺は、このサービスを必要としている人はお年寄りだけだと勝手に勘違いしていた。


 麻倉君のいう通り、ここに来たってことはこの人も必要としているんだ。




「お話を聞かせていただいてもよろしいですか?」


「え、えぇ」




 女性は再び椅子に腰をかけて話す。




「去年病気をして一人暮らしなんだけど。心配でね。一人でいるのが」


「そうだったんですね」


「ええ。さっきチラシをもらったんだけど。ほら、何か怪しい会社だったらと思って悩んでたの。それで近くからこのビルを見てたら、2人と一緒に入った女の人が晴れやかな表情で出てきたのが見えて。それで、勇気を出して来たのよ」




 どうやら女性は長谷川さんの姿を見て、ここに入ることを決めたようだった。


 


「そうだったんですね。それでは、どれにしますか?」


「24時間監視でお願いします」


「24時間ですか……。料金も高いですし、昼間は誰か来られたらプライバシーなども」


「誰も来ません。だから、大丈夫です」




 悲しい表情で俺を見つめたあとで、なぜ誰も来ないかを話してくれる。


 女性の名前は、青山洋子。


 年齢は、68歳だ。


 22歳の時に結婚し、25歳で一人娘を授かった。


 しかし、30歳の時に夫を事故で亡くしてしまったという。




「それから必死で働いたんです。片親だからって娘に貧乏な暮らしをさせたくなかったから」




 青山さんは、鞄からイチゴ柄のタオルハンカチを取り出して目頭を押さえる。


 子供用に見えるタオルだけれど、娘さんの小さい頃の物を使っているのだろうか?


 俺の父親も俺が小学校の時に使っていた給食袋を使っていたから同じようなものか。


 何て少しホッコリした俺の耳を青山さんの言葉が通りすぎる。




「すみません……今、何ておっしゃいましたか?」




 聞き返すのは失礼だと思っていたけれど、聞かずにはいられなかった。




「12歳で娘は亡くなりました」


「すみません、お辛いことを二度も聞いてしまって」


「いえ、いいんです。娘の話をするのは、私も久しぶりだったんで。何だか聞いて欲しくて」




 青山さんはイチゴ柄のタオルハンカチをギュッと強く握りしめる。


 そして、話を続けた。


 青山さんの話によると、娘さんは12歳で自ら命をたったというのだ。


 娘さんは学校でいじめられていたけれど、青山さんには何も言わなかったらしい。




「娘が亡くなって机の整理をしていたら奥から小さい日記帳が出てきたんです。そこにいじめられていることを書いてあったんです。私が専業主婦で家にいれたら、もっと早く見つけていたかもしれない。後悔だけを抱えながらずっと生きてきました」






 おぼんを持ったまま立ち尽くしている麻倉君が泣いている。




「今なら、あの子に逃げていいんだよって言ってあげれるのに……。あの頃は、必死だったから言えなかった」


「お辛い話をさせてしまい、本当にすみません」


「辛かったのは、あの子が死んだことだけじゃないですよ。せっかくだから、全部聞いてもらおうかしら。だって、24時間監視してもらうじゃない。これから」




 青山さんは涙を拭って、俺と麻倉君を見つめる。




「全部聞かせてもらいます」




 お盆を持った麻倉君は、俺の隣に座って青山さんをしっかりと見つめて言った。




「それじゃあ、話すわね」




 青山さんが話してくれたのは、娘さんを亡くしたあとの出来事だった。


 仲の良かった友人は、青山さんに気を使い自分の子供の話を全くしなくなってしまったのだとか。


 青山さんは、そんな友人達との関係を切ったという。


 娘さんを亡くして、しばらく何も手につかなかった青山さんは、三回忌を終えた頃にリハビリがてらパートを始めた。


 そこでパート仲間達から「一人だから余裕でしょ」「子供がいたらお金がかかるのよ」「パートの給料でやっていけるってことは親の遺産がたくさんあるの?」「いいわよね、一人は気楽で」「年齢的にも結婚して子供を産まなくちゃだめよ」「一人ってことは、将来私達の子供が青山さんを見るのよ!自分で子供作らなきゃ、他人に迷惑かけるのよ」などという言葉を浴びせられていた。


 青山さんは、半年でパートを辞める。


 そのあとどこで働いても同じようなことを言われてしまうから、働くことをしばらくやめてしまったと話してくれる。




「酷いですね!何も知らないくせに好き勝手言って」


「何も知らないから好き勝手言えるのよ」




 青山さんは麻倉君に優しく微笑む。


 


「そんなの酷すぎますよ。青山さんには、ご主人も娘さんだっていたんですよ」


「そうね。だけど、40歳の私はね。なかったことにしたのよ」


「なかったことですか」


「そう。同情されたり、可哀想だってさんざん言われてきたから……私は隠したの。夫のことも娘のことも……だから自業自得よね。そんな風に言われるのは……」


「そんなことないです。その人達が酷いだけです」




 麻倉君の言葉に青山さんは「優しいのね」と笑って言う。


 


「老後のことをよく言われたけど。子供が自分より長く生きるって決めるのはおかしいわよね」


「確かに、そうですね」


「もちろん長く生きて欲しいわよ。だけど、今の時代わからないでしょ。私の知り合いの小松さんも息子さんを癌でなくしたの。まだ、30歳だったのよ。1人息子だった。小松さんは、もう58歳。年齢的にも、次はないでしょ」


「そうですね」


「だから、老後を子供が見てくれるなんて幻想なのよ。でも、このサービスは違うって思った。私が普通に生活できるでしょ。老後を誰にも迷惑かけずにって、ここにはかけてるわね」


「かけてません!!」




 麻倉君は、青山さんに向かって叫ぶ。


 確かに迷惑ではない。


 俺と麻倉君にとって、青山さんは大事なお客さんだ。






「そう?じゃあ、お願いしようかしら」


「かしこまりました。それでは、こちらの書類にサインをお願いします」


「わかりました。あら、オプションもつけていいかしら?」


「構いませんよ」




 青山さんは、週に1回の訪問と電話。


 そして、毎日のハガキに○をつける。


 ハガキ……。


 普通は契約者に書いてもらうのだけれど、青山さんはご自身だ。


 俺は、ハガキについて説明する。




「それなら、あなたが書いてくれる?」


「えっ?私ですか」


「お母さんに手紙を書くと思って書いてくれない?」




 青山さんの言葉に戸惑いながらも麻倉君は了承した。


 利用料は、15万9000円。


 もちろんカメラの設置費は別。




 青山さんは、ずいぶん安いのねと笑って言う。


 青山さんは、今まで手をつけていなかったご主人と娘さんの保険金を【みている】の利用料にあてると話してくれた。




「それでは、明日の15時にお伺いさせていただきます」


「よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」




 俺と麻倉君は、青山さんに深々とおじきをした。




「でも、酷いですよね!!」




 青山さんが出て行ってすぐに麻倉君が声をあげる。




「確かに、酷いね」


「老後とかいちいち言う人がいるんですね」


「これから先、高齢化社会になるわけだから。お年寄りに向けたサービスをどんどん作る人もいるだろうからね。そう考えたら、お金さえあれば子供がいなくたって独身だって誰にも迷惑なんかかけない老後ライフが楽しめるんじゃないかな」


「そうですよ。それに私は、子供なんか産みたい人が産めばいいって思ってますよ。別に義務じゃないわけですし。子供が結婚がって何も知らない人間がうるさく言うなって感じですよ」


「そうやって言う人にとって人の人生なんて所詮他人事なんだよ。それに、子供がいたって老後を見てくれるとは限らないよ。特に、お金も時間もたくさん必要なこの世の中じゃね」


「介護に使うお金や時間があるなら、自分のために使いたいって人がほとんどですよ。親と子供は別人格ですからね」




 麻倉君は、プンプンと分かりやすく怒りながらお茶の食器を片付けに行く。


 親が子供に老後の面倒をみるなんてことはあり得ない。


 祖父だってそうだった。


 俺の家族以外、誰も気にもとめなかった。


 それなのに、死んだら遺産の分け方はどうするなどと話し出したのだ。


 人間なんてそんなもの。


 お金の切れ目が縁の切れ目っていうのは、本当だ。


 祖父は、従兄弟の大学資金の援助をしなかったし、マイホームを建てるという子供のために資金も提供しなかった。


 だから、他の家族に切り捨てられた。


 俺達家族は、特にお金を要求したりしなかったから祖父の家にずっと足を運んだ。


 最後まで……ずっと。




「あっ、そうだ。社長はどうして、この会社を立ち上げたんですか?」


「途中だったね」


「言いたくないんですね」


「えっ?」


「社長の顔見たらわかりますよ!またいつか話したくなったら言ってください」


「わかった……」




 麻倉君の言葉で、まだ傷が癒えていないのを実感する。


 祖父をずっと見ていたのに、孤独死にさせてしまうなんて……あり得ないこと。


 


 たくさん家族がいた祖父の最後が孤独死なんて。


 独居老人の孤独死が叫ばれている世の中だけど。


 結局、家族がたくさんいたって同じこと。


 青山さんのように一人で生きて行く覚悟を決めている人の方が、孤独死にならずにすむんだろうな。






「明日からは、忙しいですよ!だから、社長。もう今日はいいですか?」


「お昼ご飯にしよう」


「そうじゃなくて~~」




 麻倉君はガッカリして肩をおろしながら、事務所を出て行く。


 たぶん、お昼を食べに行ったか買いに行ったのだろう。


 そう言えば……。




 面接時に持ってきて欲しいと俺は麻倉君に【あなたにとって家族とは?】という内容で作文のようなものを書いてもらっていたのを思い出す。


 1人しか面接に来なかったこともあって、ざっと目を通しただけだった。


 これからやっていくパートナーなのだから、しっかり読む必要があるな。




 自分のデスクに戻った俺は、引き出しから麻倉君のファイルを取り出した。


 




 







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