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君を見ている  作者: 三愛 紫月


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2/2

初めての依頼者

 あれから、3ヶ月かけてようやく今日という日を迎えられた。


 会社名は、株式会社YOU。


 この名前にしたのは、俺と祖父の名前にゆうがついているからだ。


 この名前を見るだけで、祖父と繋がってる気がする。


 【株式会社YOU様】と書かれた紙を指でなぞった。




「あの社長、本当に2人で出来るんですか?」




 その声に俺は顔をあげる。


 届いたばかりのチラシの袋を撫でていた俺に話しかけてきた。


 彼女の名前は、麻倉真由美。


 年齢は、二十歳だ。


 この会社の唯一の従業員である麻倉君は、困った顔をしながら俺を見ている。




「まあ、そうなんだけどね。軌道にのるまでは頼むよ、麻倉君」


「はぁーー。むちゃくちゃ大変じゃないですか」




 麻倉君は大きなため息をつきながら、机の上を整理している。


 


 高校を卒業してからずっとフリーターで働いていた麻倉君は、そろそろ正社員で働きたいと思い、3ヶ月前にあらゆる会社の面接を受け始めたのだ。


 しかし、実績もない麻倉君はすべて落選した。


 そんな時にたまたま見つけたのが俺の会社の求人で【ボーナス有】と書かれた文言に惹かれて面接にやってきたのだ。


 もちろん、すぐに採用した。


 何故なら、俺の会社の面接には麻倉君以外来るものがいなかったからだ。




 当たり前だ。


 実績もない俺の会社で働こうって人はなかなかいない。 


 それどころか、最初は12時間の交代制になりますと小さく書かれていればよけいに誰もこないのは当たり前だった。


 1人でやるしかないのかと覚悟を決めていたけれど。


 就労時間を全く見ていなかった麻倉君が面接にやってきてくれたのだ。


 当然、麻倉君は採用。


 受かってから説明を受けた麻倉君は、毎日落ち込んでいたのだろう。


 出勤してからずっと小さくため息を繰り返していたから。




「ここは、ブラック企業ですよ。今は、だいたい8時間労働が多いんですよぉ~~」


「稼働すればブラックかも知れないけどさ。まだ、お客さんもいないし。今は、チラシ配りだけだから。12時間の拘束もなしなんだから我慢してよ」


「じゃあ、じゃあ。もし、【みている】の利用者が10人とか来たら新しい人雇ってくれますぅ?」


「当たり前だよ!10人の命を預かるなら、三交代制にして、時間も短くして」


「それが聞ければいいんです。じゃあ、チラシ配りに行きましょう」




 悲しそうな表情や話し方をしていた麻倉君は、三交代制にするという言葉を聞いた瞬間に笑顔を浮かべて仕事モードに切り替えた。


 現金なやつめと心の中で思ったけれど、口には出さずにした。


 麻倉君に「やめます」と言われてしまえば、依頼が来た場合の対応に支障が出てしまうからだ。


 ここは、自分の感情より利用してくれる人のことを一番に考えなければいけないのだから。




「それじゃあ、行こうか」


「はい、頑張りましょう。社長」




 チラシを包んでいる紙をいっきに剥がし、現れたチラシを手にとった俺は麻倉君に笑いかけた。


 


 外に出ると、辺りはもうすっかり春の陽気に包まれ始めている。


 風が吹くと、少し冬の名残が残っているが。


 それでも、暖かい日差しが柔らかく俺たちを包み込む。




「チラシ配りには、いい季節だな」




 俺の言葉に麻倉君は眉毛をへの字にして「はい」と答えた。


 こんな季節だとそれなりに枚数を配れるのだ。


 と言っても、あまりお金をかけられなかったから3000枚しかないのだけれど。




「これ配ったら、今日は終わりですよね?」


「これって、これが終わったらまた取りに行って」


「あーー、もう。そんなのわかってますよ!だから、チラシを配ったら」


「わかった、わかった。終わりにしよう。今日の仕事は、これ配ったら」


「ヤッターー!!じゃあ、頑張ります」




 麻倉君は、今にも踊り出しそうなほど喜んでいる。


 業務が開始すれば12時間労働になるわけだから、当たり前か。






「あのーー」


「はい」


「このサービスって誰でも使えますか?」


「あっ、はい。もちろんです」


「お話伺ってもいいですか?」


「はい。こちらへ、どうぞ。麻倉君」


「はい、何でしょう?」


「お話聞きたいって」


「もちろんですよ。行きましょう」




 麻倉君が配ったチラシを受け取ったのは、スラリとした体型にパンツスーツを着こなしている女性だ。


 見るからに出来る女って感じがする。




 麻倉君と俺は、彼女を事務所に案内した。




「こちらにおかけください」


「ありがとうございます」




 目の前の大きなテーブルに彼女を案内してから麻倉君は急いでお茶の用意をしに行く。


 




「それでは、システムの説明をさせていただきますのでチラシをご覧ください」


「はい」




 俺はチラシを見ながら彼女に説明する。


 「株式会社YOUが運営する【みている】のサービスは3つになります。


 1つ目は、平日の昼間のみのプランになります。 


 こちらは、夜はご家族がいる家庭におすすめです。


 2つ目は、深夜帯を除くプランなります。


 こちらは、寝ている時のプライバシーを守って欲しい方におすすめです。


 そして最後が、24時間監視プランになります。


 こちらは、夜間の急な体調不良などが心配な方やお一人で生活している方に最適なプランになります」


「なるほど」


「金額を考えますと平日の昼間のみのプランがおすすめにはなります」




  俺の言葉に彼女は迷わずに「24時間監視プランでお願いします」と答えた。






「こちらは、月15万円からかかってきますが……」


「大丈夫ですよ。払えますので」




 彼女の言葉に黙ってしまう俺を見ながら麻倉君は「ありがとうございます」と笑顔でお茶を差し出した。


 


「明日なら休みをとれますので、カメラの設置をお願いします」


「わかりました。利用される方のお名前などをこちらの書類に書いてください。ご契約者のお名前もお願いいたします。あと1つ聞きたいのですがこちらのサービスを何故利用したいと思われたか教えていただければと思います」




 彼女の名前は、長谷川環さん。


 年齢は44歳。


 2年前に父親が亡くなり、1人になった母親のために【みている】を利用しようと決めたのだという。


 ずっと独身の長谷川さんには、母親を見に行ってくれる子供や夫などは存在しない。


 まあ、いたところで見に行ってくれる人はほとんどいないことを俺は知っているんだけれど。


 長谷部さんは、母親に最後の親孝行をしたいと話した。




「父が亡くなってから、少し物忘れも酷くなってきていますから。施設に入れることも考えたのですが、やっぱり母には父が建てた家に最後まで住んでいて欲しいと思ったんです」


「わかりました。我々が、そのお手伝いをさせていただきます」


「あと、オプションもつけてよろしいですか?」


「はい、構いませんよ」






 長谷部さんは、毎日10分通話に○をつける。


 このサービスは指定いただいた時間に、こちらが10分電話をかけるものだ。


 忙しい時に、たった10分かけた俺の電話に祖父が喜んでくれたのを思い出したから作ったサービスである。


 




「10分電話が月1000円になります。それから、週に1度の30分訪問が月5000円になりますね」


「あと、これは何ですか?」


「こちらは、毎日ハガキを届けるサービスになります。高齢の方は、外に出ることをせずに1日が終わってしまう方もいますから。こちらを契約していただいた場合、まず30枚のハガキに契約者の方に文字を記入していただきます。それを我々が毎日ポストへ届けるというサービスになります」




 長谷川さんは少し考えたあとで、○をつけた。




「面と向かってしまうと喧嘩になってしまうことが多いので、ハガキに気持ちを書くなら私の想いも伝えられる気がするので」


「月3000円になりますが大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。結婚するために貯めてきた貯金ですから。最後に恩返しもかねて、母に使いたいんです」


「そうですか。わかりました。我々も最後までお手伝いさせていただきますね」


「はい、よろしくお願いいたします」






 長谷川さんの利用料は、15万9000円。


 この15万には機器代は含まれていない。


 カメラを取り付けるのは、親戚である電気屋の息子に頼んだからだ。


 その方がトラブルが少ないと考えたからだった。




「それでは、明日の9時こちらのご住所に取り付け業者と共にお伺いいたします」


「明日、母とお待ちしております」


「よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」




 


 俺と麻倉君は深々と頭を下げる。


 初めての依頼が、こんな高額な依頼になるとは思わなかった。






「独身ってすごいですね。30万近いお金を払えるんですもんね。私は、母親のためにこんなお金を出せるかなーー」


「まあ、なかなか難しいと思うよ。お金があれば、自分のために使いたい人の方が多いだろうからね。サービスを提供してる俺自身も両親のために毎月払えるかと聞かれたら悩んでしまうよ」


「そうですよね」


「だけど、いくらお金を払っても戻ってこないものもあるから。やっぱり俺は無理してでも払うかな」


「社長は、どうしてこの会社を始めたんですか?」




ーーコンコン




「麻倉君、お客さんだ」


「えーー。今、大事な話を聞いてるところだったのに」




 麻倉君はガックリと肩をおろしながら歩いて行く。


 見ていると本当におもしろい。


 ここまで、感情を出せる人に俺は初めて出会った。




「はい」


「いいかしら?」




 顔を覗かせたのは、60代ぐらいのおばさんだった。


 丸みを帯びた皺のある顔にピンク色のスカーフが何だかチグハグに見える。


 

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