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君を見ている  作者: 三愛 紫月


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プロローグ

 大好きな祖父が死んだ。




「悠里君のせいじゃないよ。じいさんは、長い間病気だったんだ」




 叔父さんである遠藤洋三は、俺に優しい言葉をかけてくれる。


 わかっている、自分のせいじゃない。


 そんな事は、わかっている。




 だけど……。




 8人の子供と22人の孫と13人のひ孫のいる祖父が孤独死をするなんて想像もしていなかった。




「なかなか、こっちにはこれなかったから仕方ないよな」


「入院してたらよかったのになーー。90歳だったんだし」


「でもさ、寿命だったんじゃない」


「よかったんじゃない。たくさんの孫やひ孫に囲まれてたんだし」


「そうそう。大往生で幸せよ」




 父さんの姉弟達は、祖父の通夜の席でそう話している。


 確かに、祖父は長生きだった。


 だけど俺はみんなが話す言葉の端々に冷たさを感じてしまう。




「悠里。じいちゃんから、これ」


「何?これ?」


「さあな。次に会ったら悠里に渡すって書いて置いてあったから」




 突然父さんから渡されたメモ。


 俺はすぐに中身を確認する。




 祖父が俺に残したメモを読みながら泣いてしまう。


 こんなにたくさんの人間がいたのに……。


 こんなにたくさんの……。




「悠里に任せてばかりでごめんな。父さんも、もっとじいちゃんに会っとけばよかったな」


「父さん……」




 祖父のお通夜には、300人もの人が訪れていた。


 立派な葬式だ。




 俺は、もう一度祖父のメモを広げて読んでみた。




「はぁーー」




 そして、大きな溜め息を吐いた。


 その瞬間だった。




「なあに!デッカイ溜め息ついて、幸せが逃げてくわよーー」


「母さん」


「母さん!!じゃないわよ。目丸くして、どうしたの?悠里は本当に大好きだったわよね、遠藤のじいちゃん」


「遠藤のじいちゃんって、自分も遠藤じゃん」


「わかりやすいからいいじゃない。遠藤のじいちゃんに毎日会いに行きたいからって、こっちの大学に通って就職までしたんだもんね」


「こっちって、車で二時間もあればつく場所だろ?」


「その二時間が遠いのよ!わかる?」




 俺は、母の言葉に首を横に振った。




「悠里は、まだ20代だからわかんないのよ。年をとるとね。二時間が遠いのよ……だから、遠藤のじいちゃんにはあんまり会いに行けなかった」


「母さん達は……」


「わかってる、何も言わなくていいから」




 母さんは、俺の頭を優しく撫でてくれた。


 俺の言いたい事を、母は理解しているんだと思う。




 次男である父は、小さな頃は祖父によく可愛がられていたという。


 それが気に入らなかったのだろう。




 他の姉弟達は、祖母亡きあと、祖父に会いに行きたがらなくなった。


 


 だけど父は、仕事が忙しくて祖父になかなか会いに行けず。


 父の代わりに、俺が電車に乗って祖父に会いに行くことにしたんだ。




 何度も、何度も祖父に会いに行った。


 俺は、だんだん祖父のことが大好きになっていったんだ。


 だから俺は、祖父の元に引っ越してきた。




 最後まで、俺が祖父の面倒を見る覚悟だった。






 なのに……。


 何で……。




 祖父が死んだのは、俺が出張に出掛けてる間だった。


 後悔しかない。


 出張に行かなければ、祖父は生きていたんじゃないか。


 出張のある仕事を選ばなかったらよかったんじゃないか。




「悠里、じいちゃんは喜んでるよ。じいちゃんは、ずっと悠里といれたんだから……」




 父に肩を叩かれながら俺は、泣き崩れた。


 本当に喜んでくれてたのかな?


 俺を恨んでない?


 言葉に出来ない気持ちは涙になって流れ落ち。


 祖父の通夜、告別式は滞りなく終わった。




◆◆◆◆◆◆◆◆




ーーあの日から、5日が経っていた。




 俺は、有給を消化しながら会社を休む日々を続けている。




 その間は、ずっと天井を見てゴロゴロしていた。


 だって、祖父である遠藤勇造の通夜告別式で泣いていたのは、俺達家族と親戚達だけだったから。




 父の姉弟達は、さっさと切り替えて遺産の話をしていた。




 それが何か虚しくて、悲しくて。


 俺のやる気は削られていった気がする。




ーーピンポーン


 インターホンの音が鳴り、応答する。




「はい」


「あのーー。遠藤悠里さんのお宅で会っていますか?」


「あっ、はい。そうですけど」


「よかった。私、遠藤勇造さんのマンションの隣の部屋のものです」


「ちょっ……ちょっと待って下さい」




 インターホンを切って、すぐに玄関を開ける。


 ドアを開けると、40代半ばの女の人が立っていた。




「すみません。突然、押し掛けてしまって」


「いえ、大丈夫ですよ」


「少しいいですか?外じゃあ、ちょっと話せないので」


「あーー、はい。どうぞ、どうぞ。散らかってますけど」




 俺の言葉に女の人は玄関で靴を脱ぎあがる。


 


「どうぞ」




 俺はリビングに案内した。




「えっと、コーヒーとかでいいですか?」


「いえいえ。すぐに帰りますのでお構い無く」




 女の人は、テーブルの上に紙を置いた。




「何ですか?これ?」


「私、隣に住んでる長谷部みのりと言います」


「はい」


「夫婦2人暮らしなので、よく勇造さんと3人でご飯を食べたりしていたんです」


「そうだったんですね!生前は、祖父がお世話になりました」


「いえいえ。そんなたいしたことは何もしてませんよ。主人が長期出張に行くので、勇造さんがよくしてくれただけですよ。お世話になったのは、私の方ですから」




 長谷部さんは、すごく優しい人なのがわかる。


 目尻に深く刻まれた皺の数と黒いシミ。


 たくさん泣いて、たくさん笑ってきたのだろう。




「あっ、でも。ここに祖父の仏壇はないんですよ。実家で、祖母と一緒にしてるので……」


「私は手を合わせにきたわけじゃありません」


「えっと……どういったご用件でしたか?」




 長谷部さんは、俺の言葉に笑って「こちらを渡しに来ただけです」と言った。


 そう言えば、さっきテーブルに置かれた紙。


 いったい何なのだ?




 俺は、長谷部さんに軽く会釈をして紙を広げる。


 こ、これって……。




「孤独死をなくすためにも、依頼を受けた人を24時間監視できるサービスがあればいいと思うって、よくお話されていたんですよね」


「まあ、そしたらじいちゃんを見守れるねって話で。ただ、仕事してるから現実的じゃないから無理だって話をしてて。まあ、これはじいちゃんのためのサービスで」


「素晴らしいです」


「えっ?」


「このサービスは形にするべきです」




 これからの日本で絶対に必要になっていくサービスだから、すぐにでも始めるべきだと長谷部さんに言われる。


 始めるっていったところで、まだ貯金もほとんどないのに出来るわけがない。




「出資します」




 俺の考えがわかっていたのか長谷部さんは鞄から名刺を差し出してくる。




「私、お年寄り向けの洋服を作っているんです。勇造さんがやりなさいって言って始めたんです」


「じいちゃんが?」


「はい。初めて一緒にご飯を食べた日に私が試作品でミシンの近くに置いていた服を見て言ってくれたんですよ」


「服ですか?」


「親戚の介護服をリメイクしていたんです。もっとお洒落にならないかなって」


「それを見て、じいちゃんがやりなさいって言ったんですか?」


「そうなんです。みんなお洒落をしたいはずだからって」




 長谷部さんは嬉しそうに笑っている。




「始める時に勇造さんが、300万を出資してくれたんです。だから、今度はこのビジネスに出資します」


「これは、もうじいちゃんがいなくなったから意味なくて」


「そんなことないですよ。勇造さんのように1人暮らしをしているお年寄りはたくさんいます。必要な人はたくさんいるんです。だから、始めましょう」




 長谷部さんの真っ直ぐな眼差しに俺は無理だとは言えなかった。


 必要とする人がいるかはわからない。


 祖父のように孤独死をさせずにすむのならやってみたい。


 そう強く思ったのは、祖父から渡されたメモに書かれた言葉を思い出したからだ。




【悠里なら出来る!


 だから大丈夫だ!


 どんなことがあっても、


 じいちゃんは、


 悠里の一番の味方だ!】


 


 仕事の愚痴を言った俺を励ますために書いてくれていたメモだったんだと思う。


 出張から帰ってきたら、渡そうとしていたんだろう。


 わかったよ。


 やってみるよ。



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