優しい親子と氷の魔女
昔々、冬の国に美しい氷の城がありました。そこには一人の魔女が暮らしていました。
魔女は氷のように冷たい性格だったので、町では『氷の魔女』と噂になっていました。
それを聞いたある少年が言いました。
「その魔女さんも一人ぼっちなの?だったら僕と友達になってほしいな」
少年はとても明るく優しい性格でしたが、別の国から引っ越してきたばかりなので友達がまだいませんでした。
それを聞いた他の子供は少年を変わり者だと言って笑いました。周りの大人達も「そんな馬鹿らしいことを言うんじゃありません」と叱りました。
けれども少年の決意は揺らがず、ある雪の日に遊びに行ったきり行方知れずとなりました。
「ほら、言わんこっちゃない」
「きっと魔女に食われたんだよ」
それを聞いて誰よりも怒ったのは少年の母親でした。
「あの子のこと何も知らないくせに、勝手なこと言わないで!絶対に私が見つけてみせるわ」
そう宣言した母親は家を飛び出すと、一日も経たない内に少年と一緒に帰ってきました。
当然町の人達は驚き、二人に何があったのかを尋ねました。
母親は堂々とした様子で言いました。
「氷の城にいたの。魔女にも会ったけど、私がやっつけてやったわ」
少年は母親の言葉を肯定するように小さく頷きました。
「なんと、魔女を倒したのか!?」
「それならもう安心だな」
町の人達はそれ以上二人に何も言ってきませんでしたが、少年の父親は彼女達の嘘をすぐに見抜きました。
「なぁ、おまえ達、本当は何があったのか話してくれないか」
母親はそれでも嘘を貫き通そうとしましたが、少年がそれを止めました。そして言ったのです。
「魔女さん、優しい人だったよ。もう会えないけど」
「もう会えないって?」
「氷の魔女ってね、あの人にとってはずっと昔の話だったの。この子にも私にもすっごく優しくしてくれたわ。私達が帰ってきた日、あるでしょう?」
母親はその日にあったことを正直に話しました。氷の城で少年と魔女が積み木をして遊んでいたこと、その後母親から話を聞くと二人を町へ送り届けようとしてくれたこと。そして、その途中で魔女が氷の結晶となって消え去ってしまったことも明かしました。
少年も、母親が話している間何度も頷いていました。
「本当だよ。消えちゃう前に『さいごにあなたと会えて良かった。お母さんやみんなと仲良くね』って、言ってくれたんだ」
彼は最後にそう言うと、堪えきれなくなって泣き出しました。母親はその頭を優しく撫でながら、父親に謝りました。
「嘘をついたのはごめんなさい。でも、あの人にお願いされたのよ。『あたしのことは悪者だったままにしておいてちょうだい』って。きっと魔女としての印象を残したかったのだと思うわ」
真実を知った父親は、優しく言いました。
「謝るのは私の方だ。おまえ達が魔女に良くないことをされたんじゃないかと疑ってしまった。すまない」
「いいのよ。あの人もきっとそれを望んでたはずだから」
「ねえ、ママ、パパ」
少年が涙を拭いながら言いました。
「僕ね、消えちゃった魔女さんのために何かしてあげたい」
「そうね、私もきちんとお礼をしたかったわ」
「お礼か……今度、氷の城へ行って中を綺麗に磨いてあげようか」
「それいいね!」
「私も賛成よ」
「じゃあ決まりだな」
こうして残された氷の魔女の城は少年とその両親によって丁寧に磨かれました。
それからというもの、この氷の城は年月が経ち少年達がいなくなった今でも美しくそこに存在し続け、見た人の目を楽しませているのです。




