聖なる乙女は鈴鳴らす
昔々、あるところに神社がありました。
そこでは神主と巫女が暮らしています。そして三人の若い娘が毎日訪れていました。
三人の娘は闇に呑まれたあやかしを、鈴の音で浄化する「鈴乙女」という存在になるために修行をしていました。
「どうして私の呼び出す鈴は、他の二人のものより小さいのかなぁ」
その中の一人、ホウライは他の二人のように上手くいかず、とっても焦っていました。それを心配した神主から励ましの言葉を貰いましたが、それでもホウライは不安が拭えませんでした。
そしてその日の帰り道、ホウライはとうとう闇に呑まれてしまいました。
次の日、ホウライが来ないことを心配した他の二人の娘、スイキンとワガラは巫女達の制止を聞かずに神社を飛び出しました。
「ホウライちゃーん!」
「ホウラーイ!」
「あれぇ?私のこと、呼んだ?」
探していた二人の前に現れたのは、別人のようや雰囲気を放つホウライです。
「ホウライ!」
「待ちいやワガラちゃん」
近づこうとしたワガラをスイキンが止めます。
「なんだよ、スイキン」
「ホウライちゃんの様子、なんかおかしいんよ」
「そうだね。私は変わったんだ」
ホウライは両手を広げると、スイキンとワガラに向かって闇の攻撃を放ちました。
「やめろホウライ!」
「ホウライちゃん!」
「さっきから馴れ馴れしく呼ばないで。私は、あんた達みたいな天才肌の連中が大っ嫌いなのよ!」
「そんな……」
スイキンの表情が絶望に変わる一方で、ワガラは叫びました。
「清き鈴、出てこい!」
彼女は出てきた光の鈴を指で持ち、強く鳴らします。
「ちょっとワガラちゃん?うちらにはまだ無理やて!」
「そんなのわかんないだろ!?ホウライは大切な親友じゃないか!あたし達がやんなきゃ誰が助けるのさ!」
その言葉にスイキンの目に希望が戻りました。
「そうやね!うち等が優しくて頑張り屋さんのホウライちゃんを取り戻すんや!」
そして彼女も自身の鈴を呼び出し、強く鳴らしました。それを聞いたホウライは頭を抱えつつ悲鳴に近い声をあげます。
「嫌だ!やめて!」
「ホウライが元に戻るまでやめるもんか!」
「ホウライちゃんに闇なんか要らへんよ!」
「うっ、ぐうぅぅぅっ……」
響き渡る二つの清らかな鈴の音に、苦しむホウライが跪きました。その瞬間、彼女の体から黒い影が飛び出してきました。
影はスイキンとワガラに襲いかかります。
「きゃっ!」
「うわっ!」
避ける間もなく二人は弾き飛ばされてしまいました。
「スイキン、ワガラ……!」
その光景が目に飛び込んできたホウライは、ゆっくりと立ち上がります。
「私の大切な親友に手を出さないで!いでよ、我が清き鈴!」
呪文を叫んだ瞬間、ホウライの両手の上には銀色に輝く大きな鈴が乗っていました。修行の時には出て来なかった大きさです。けれどもホウライは喜ぶ前に目の前の存在を浄化する事が先だと判断し、鈴を思い切り振り下ろしました。
「えーいっ!響けぇっ!!」
リーンと強く響いたその音は、とても清らかで長く響きました。
そして闇の存在は光りに包まれ、ゆっくりと浄化されていきました。
後日、三人は師匠である巫女からのお説教を受けていました。
「まだ未熟なんだから危険な事しないの!」
「まぁまぁ、三人共無事だったんだから程々にねー」
「いや神主様、これを無事と言っていいわけないでしょう!?」
巫女が怒るのも無理はありません。三人共擦り傷だらけだったのですから。
「でもまぁ、鈴乙女としての役割は果たしたようだからいいわ。お説教はこの位にして、今日の修行に入りましょうか」
「えぇ〜休ませてくれよぉ」
「どうかお慈悲を〜」
「ワガラもスイキンもだらしないなぁ。私、二人のこと置いていっちゃうよ?」
ホウライが冗談めかして言うと、二人はすぐに態度を変えました。
「げげっ、それはいやだ!」
「三人一緒に頑張るんやもん」
「ってことなので今日もお願いしますね、カグラさん」
「全く、ホウライが真面目で助かるわ」
そう述べた巫女の横で、神主が穏やかに呟きます。
「そうねー。それに今のホウライちゃんなら無敵かもー」
「え?ホウライが無敵ってどういうことですか?神主様」
「それは、今日の修行でわかるんじゃなーい?」
「そ、そうですか……」
この日の修行は、神主の言葉通りホウライの成長が一段と輝いていました。




