悪魔と天使と不思議な子
昔々、天の国と地の国と人の国がありました。
天の国には神様と天使、地の国には悪魔、そして人の国にはその他の生物が暮らしていました。
ある日のこと、人の国で鳥の羽と魚の尾を持った赤子が誕生しました。
けれどもその赤子を創り出した人間はそれと引き換えに命を落としてしまっていました。
可哀想な赤子はただただ泣くことしかできません。
赤子の泣き声を聞きつけて、しっかり者の悪魔が飛んで来ました。
気まぐれ屋の天使も、偶然その泣き声を耳にしてやって来ました。
悪魔と天使は赤子の前で出会った瞬間、恋に落ちました。
けれども国を越えた恋は固く禁じられていました。
そこで悪魔が一つの案を思いつきました。
神様に交渉して赤子の育ての親になる代わりに、自分達の仲を認めさせようとしたのです。
天使も悪魔と一緒にいられるのなら、とその案に賛成しました。
そして、悪魔と天使は神様に交渉を持ちかけに行きました。二人の話を聞いた神様は言いました。
「育ての親になるのは良しとしよう。ただし、おまえ達の仲を認めるのは、赤子が立派な大人に育った後だ」
悪魔は覚悟を決めた様子で了承の返事をしました。
天使は少々不服そうな顔を浮かべつつ頷きました。
そうして始まった悪魔と天使の子育てですが、最初はなかなか上手くいきませんでした。
悪魔は赤子を立派な大人に育てあげることに強い責任を持ち、赤子に厳しく接していました。
一方天使は今が楽しければそれで良いと楽観的な思考を持ちつつ、赤子に適当に接していました。
何年か経ったある日のこと、限界を迎えた悪魔が天使に向かって文句を言いました。天使も悪魔への不満をぶつけました。言い合いになり、大喧嘩に発展しそうになった瞬間、子供が言いました。
「マミィもダディも、なんで思った時にすぐ言葉にしないの?」
「わたしは、アンラルダを傷つけたくなかったからよ」
悪魔が言いました。
「おれも傷つけたくなかったよ、ディアナーテのこと」
天使も言いました。
ディアナーテは悪魔、アンラルダは天使の本当の名前でした。
「そうなんだ。でも今はお互い傷つけちゃってる。嫌いになったから?」
「それは違うさ」
天使が言います。
「嫌いになんてなるもんか。本当は真面目に子育てや他のことと向き合っていること、尊敬しているんだ」
「わたしもそう」
悪魔も言います。
「大好きなのよ、ずっと。実はポジティブな考え方や肩の力を抜いて子育てしているとこ、憧れているの」
それを聞いた子供はにっこり笑って言いました。
「そういったことも、ちゃんと言葉にしなくちゃ」
それからというもの、悪魔と天使は協力して子育てをするようになりました。時には厳しく、時には優しく接し、そして子供はとうとう立派な大人になりました。
神様は悪魔と天使に言いました。
「あの赤子をよくここまで育て上げたものだ。おまえ達の仲を認めてやろう」
ところが二人は首を横に振りました。
「もう良いのです。わたし達はこの子がいたからこそ、協力することができました」
「この子が一人前に育った今、おれ達にはもう未練などありません。きまりに従います」
悪魔も天使も、若い頃の衝動的な言動はすっかり消え失せていました。
「親としてすっかり成長したな。だが、おまえ達の育てた娘は違うようだぞ」
神様の言葉に二人が横を見ると、彼等の間にいた娘は大粒の涙を流していました。
「ワタシ、マミィとダディに育ててもらって本当に良かった。だから二人と離れたくない。二人に離れて欲しくない」
「パスフェノ……!」
悪魔が涙を零しながら娘に抱きつき、天使がその肩に手を置きました。
神様は優しく微笑んで言いました。
「どうやら、おまえ達三人は家族として既に固い絆で結ばれているようだな。これからは好きなように暮らすがいい」
こうして、家族と認められた三人は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。




