第7話 転生しても希望も夢も無かった世界で……
燃え盛る村の中を、敵に気付かれないよう慎重に、しかし一刻も無駄に出来ない焦燥に駆られながら進む。
煙と灰が視界を遮り、鼻を刺す焦げ臭さが息を苦しくさせる。
数刻ほど走り続けた先に、ようやく見慣れた我が家の輪郭が浮かび上がった。
「……良かった……」
荒らされ、扉は半壊していたが、まだ炎は及んでいない。
胸に僅かな希望が灯る。
——急がないと。
家の中へ飛び込むと、床に倒れ伏す人影が目に入った。
「義母さん!!」
俺は駆け寄り、彼女の身体を抱き起こす。
義母の顔は青白く、浅く荒い呼吸を繰り返していた。
「ケント……良かった……無事だったのね……ゲホゲホ……」
その声を聞いただけで、胸が締め付けられる。
「村がモンスターに攻められてる。ここは危険だ、早く逃げよう!」
必死に訴える俺に、義母はかすかに首を横に振った。
「ごめんなさい……それは、出来ないわ……」
「えっ……?」
「さっき……魔物に襲われた時に怪我をしてしまって……その時は何とか逃げ切ったんだけど……矢に猛毒が塗られていたみたいで……身体が動かせないの……」
言葉の合間に、苦しげな咳が混じる。
「それに……息も、苦しくなってきて……きっと……もう、長くはないわ……」
「そんな……」
「ゲホゲホ……カハァ……ッ!」
義母の口から、抑えきれないほどの血が溢れ落ちる。
俺の手が真っ赤に染まった。
「だから……あなた、だけでも……逃げなさい……」
「そんなこと出来ないよ!」
声が裏返る。
「義父さんと約束したんだ! 義母さんを助けるって……それなのに……!」
「……そうかい……義父さんが……」
義母は微かに笑った。
「思えば……ケントには、何もしてやれなかったね……ゴホゴホ……ごめんね……ダメな母親で……」
「そんなことねえよ!」
俺は首を振り、必死に言葉を重ねる。
「義母さんは、捨てられてた俺を育ててくれたじゃないか。血は繋がってなくても……俺にとっては、最高の義母さんだよ!」
「……まだ……義母さんと、呼んでくれるんだね……」
義母の目が、少しだけ潤んだ。
「ありがとう……アスティちゃんは……いるかい……?」
「ここにいますわ」
バッグから顔を出したアスティが、義母の側へ寄る。
「……アスティちゃん……あなたが家に来てから……嬉しかった……」
途切れ途切れの声。
「……本当の娘が……増えたみたいで……ゲホゲホ……!」
「……勝手なお願いで悪いけど……もし良ければ……ケントを……支えてあげてね……」
「この子……危なっかしい所があるから……」
「はい……もちろんですわ。お義母様」
アスティは、はっきりと、しかし震える声で答えた。
「ありがとね……アスティちゃん……ゲホゲホ……カハァァ……」
義母の身体から、力が抜けていくのが分かる。
「義母さん……もう十分だよ……これ以上は、身体が……」
「……まだよ……」
義母は最後の力を振り絞るように、俺たちを見つめた。
「最後に……もう一言だけ……」
「ケント……アスティちゃん……」
「私は……あなた達の事を……いつまでも……愛している……わ……」
その言葉を残し、義母はゆっくりと瞼を閉じた。
「……嫌だ……」
喉が震え、声にならない。
「義母さんまで……!」
「俺を置いていかないでくれよ……!」
「義母さん! 義母さあああああああああああああん!!!」
答えは、もう返ってこなかった。
燃え落ちる家の中で、両親を失った俺は、ただただ——
声が枯れるまで、泣き叫ぶことしか出来なかった。
「声がすると思ったら、まだ生きてる人間がいるじゃねぇか? ケケケッ」
背後から投げつけられたその下卑た声に、心臓が跳ね上がった。
しまった――完全に油断していた。




