第39話 ならず者達からの解放
「お、お頭が……やられた……?」
奥の暗がりから、震える声が漏れた。
まだ動ける山賊の一人が、壁に背を預けたままへたり込み、
信じられないものを見るようにこちらを見ている。
その視線の先――倒れ伏した“お頭”の姿。
「嘘だろ……あの人が……元Sランクだぞ?」
喉の奥で絞り出すような声。
「それが……あんなガキ共に!」
別の男が後ずさる。
靴底が砕けた石を踏み、ざり、と乾いた音が響いた。
手にしていた剣が、小刻みに震えている。
「くそっ……!」
一人が叫び、耐えきれなくなったように剣を手放す。
剣が、カランと音を立てて落ち、
その音を引き金に一人、また一人と武器を落とす。
「に、逃げるぞ……!」
「くそったれ……!」
「覚えてやがれ……!」
互いに押し合うようにして、奥の抜け道へと殺到する。
足音は乱れ、誰かが転び、罵声が飛び、
それでも振り返る者は一人もいない。
ただ“逃げる”ことだけに必死だった。
やがて、その音も遠ざかり――
静寂が、ゆっくりと洞窟に戻ってくる。
残っているのは――
焦げた匂いと、荒い呼吸だけだった。
焼けた木材の燻りと、血と鉄の匂いが混ざり合い、
空気は重く、肺にまとわりつくようだった。
「……終わった、のか」
誰に言うでもなく、俺は呟いた。
「ええ。完全に制圧ですわね」
アスティが隣で微笑む。
ヘカテが軽く肩を回しながら答える。
「ほんま、派手にやったなぁ……」
その視線の先には、倒れ伏した山賊達と――崩れたアジト。
壁は抉れ、柱は折れ、
もはや“拠点”と呼べる形を保っていない。
プラティナは、その場に座り込んだまま動かない。
長い呼吸を繰り返し、肩がわずかに上下している。
「……大丈夫か?」
ケイトが声をかけると、わずかに顔を上げた。
「……ええ」
短く答えるが、その声にはまだ疲労が滲んでいる。
その手には、あの剣――
呪いの魔剣『エグセ・カリバー』が、しっかりと握られていた。
黒い刃が、洞窟の薄暗い光を鈍く反射する。
『おいおい、終わりか? もっと暴れたかったんだがなぁ』
耳元に直接響くような、粘ついた声。
「……黙ってなさい」
プラティナは顔をしかめる。
「おーい……誰かいるか……!」
奥から、かすかな声が響いた。
か細く、それでいて必死な呼びかけ。
俺達は顔を見合わせる。
「きっと捕まってる人達だ!」
「急ぎましょう!」
瓦礫を踏み越え、奥へと進む。
やがて見えてきたのは――
錆びついた、粗末な牢。
その中には――数人の人影。
「た、助けてくれ……!」
痩せ細った商人らしき男が、格子にしがみつく。
「外に出してくれ……!」
その後ろには、震える女性と小さな子供が怯えた目でこちらを見ていた。
「今、開ける!」
俺はすぐに鍵を探し、見つからないと分かるや否や、無理やりこじ開けにかかる。
金具が軋み、
ギィ……と鈍い音を立てて、扉が開いた。
「もう大丈夫ですよ。」
モナカが一歩前に出る。
その声は柔らかい。
彼女は手をかざし、淡い光を灯した。
優しい光が、傷ついた人々を包み込む。
「安心してください。すぐ楽になります」
「た、助かった……」
涙をこぼしながら、男が呟く。
「ありがとう……本当に……」
女性も何度も頭を下げる。
子供はまだ状況が飲み込めないのか、ただモナカの光を見つめていた。
「……礼なら、後でいい」
俺は短く言う。
「ここはまだ安全じゃない。外に出るぞ」




