第33話 それでも騎士は屈しない
山賊に攫われたプラティナは、手荒く引きずられるようにしてアジトの奥へ連れて行かれる。
暗い通路の奥。
松明の火が、不規則に揺れている。
まるで――
ここにいる者の心を試すかのように。
やがて、広間へと投げ出された。
「……っ!」
床に叩きつけられ、息が詰まる。
視線を上げた先。
粗末な玉座代わりの椅子に、山賊の首領がどっかりと腰を下ろしていた。
豪奢な装飾を無理やり貼り付けたような衣装。
濃すぎる化粧。剃り上げられた頭。
だが――
指先だけが、妙に“洗練されている”。
「へぇ……これが噂の獣人の騎士ちゃん?」
その声は甲高く、どこか芝居がかっている。
だが、目は笑っていない。
値踏みするような視線が、ゆっくりとプラティナをなぞった。
耳。尻尾。腕。脚。
まるで――“部位ごとに値段をつける”ように。
「や、やめろ!
アタシはフリーデン王国の騎士だぞ!」
必死に拘束を振りほどこうとする。
だが、押さえつける腕はびくともしない。
床に膝をつかされても――
プラティナは顔を上げた。
「卑怯者め……!」
その瞳だけは、死んでいない。
「くっ……」
怖い。
それは否定できない。
耳も、尻尾も、正直に震えていた。
(でも……)
歯を食いしばる。
(ここで折れたら――終わりだ)
「……恥ずかしめを受けるくらいなら、殺すなら殺せ」
声は小さい。
だが、確かに“騎士の声”だった。
「騎士は……決して屈しないわ」
一瞬。
広間の空気が止まった。
――次の瞬間。
「……ぷっ」
誰かが吹き出した。
「ちょっと、ちょっとちょっと」
首領が、ひらひらと手を振る。
「アタシ、そういうの興味ないのよねぇ」
空気が一気に軽くなる。
だが、それが逆に――気味が悪い。
「男でも女でも、若いのでも強いのでも、
“使えるか”“金になるか”しか見てないの」
指先で顎を上げられ
強制的に、視線を合わせられる。
「期待させちゃったならゴメンね?」
にやり、と笑う。
「でもアンタ――“商品価値”は高いわよ」
その言葉に。
プラティナの背筋が、冷たくなった。
(……違う)
さっきまでの“ただの暴力”とは違う。
“人を人だと思わない悪意”そのものだ。
「……な、何を……」
「決まってるじゃない。奴隷として売るの。
それまで大人しくしてなさい」
その瞬間。
プラティナの中で、何かが弾けた。
「ふざけるな!!」
身体を捻り、無理やり抵抗する。
「アタシは騎士だ!!
誰かのモノになるくらいなら――!!」
だが。
ゴンッ、と後頭部に衝撃。
視界が揺れる。
「はいはい元気ねぇ」
冷めた声。
次の瞬間――
重い扉が開き、叩き込まれるように、牢へ。
ガシャン。
鉄格子が、鈍い音を立てて閉じる。
「っ……!」
息が乱れる。
立ち上がろうとして、足がもつれる。
薄暗い空間。湿った石の床。
鉄の匂い。
遠くで、誰かの泣き声がした。
(……他にも、いる)
理解した瞬間。
ぞくり、と寒気が走る。
ここは――終わった人間が来る場所だ。
「……くそ……」
拳を握る。
震えているのが、自分でも分かる。
怖い。悔しい。情けない。
全部、混ざって――
それでも。
プラティナは、ゆっくりと顔を上げた。
「……まだだ、アタシは……」
拳に力を込める。
爪が食い込み、血が滲む。
「まだ、負けてない……」
その言葉だけが。
この暗闇の中で、かろうじて消えずに残っていた。




