第32話 聖騎士、山賊に攫われる
翌朝。
山の空気は澄み切っていて、夜露に濡れた草が朝日を弾く。
昨夜の焚き火跡を片付け、一行は再び山道を進み始める。
「今日中には峠を越えられそうですわね」
アスティが地図を見ながら言う。
「はい。このまま何事もなければ……」
モナカがそう続けかけた、その時だった。
――ヒュウッ!
空を切る音。
次の瞬間、
馬車の前方に、矢が突き刺さった。
「なっ……!?」
「伏せろ!!」
ケイトの叫びと同時に、左右の茂みが激しく揺れる。
「へへっ……止まれ!止まれぇ!」
「荷物は全部置いてけ!」
姿を現したのは、粗末な革鎧に身を包んだ男たち。
剣、斧、弓。
明らかに統率の取れた――山賊の一団だった。
「山賊……!?
こんな所に……!」
プラティナが剣を抜き、前に出る。
「下がってろ!
アタシが――」
だが、その瞬間。
「ギャハハ!
威勢のいいネコちゃんだなぁ!」
横合いから飛び出した男が、袋を地面に叩きつける。
――バァンッ!
白い粉が舞い上がった。
「っ……!?」
「煙幕だ!」
視界が一気に白に染まる。
咳き込み、方向感覚が狂う。
「モナカ! アスティ!」
「ここです……!」
「ケイト様、右ですわ!」
必死に声を掛け合うが、混乱は一瞬だった。
「ギャハハ!馬車を奪え!!!」
「クッ…貴様達の好きにはッ…!!」
「抵抗するなよ、殺したくはねぇ!」
山賊たちは手慣れていた。
数人が護衛役を牽制し、残りが物資を奪う。
「やめろ!……!」
ケイトが前に出ようとした、その背後で。
「――きゃっ!?」
高い声。
振り向いた瞬間、見えたのは――
プラティナの身体を、背後から羽交い締めにする山賊の姿だった。
「クッ…離せっ!アタシは騎士だぞ!!」
「おっと暴れるなよ。
高く売れそうなんだからよぉ」
耳と尻尾を掴まれ、プラティナが悲鳴を上げる。
「プラティ!!」
駆け出そうとしたケイトの足元に、再び矢が突き立つ。
「動くなって言ってんだろ」
山賊の一人が、薄く笑った。
「物資は頂いた。
それから……このネコ騎士もな」
「へへッ…可愛い上に騎士様。
色々使い道がありそうだ」
「……っ!!」
「ケイト!来るな!!」
引きずられながら、プラティナが叫ぶ。
「アタシは大丈夫だから!!
無茶するな!!」
だが、その声は――
山道の奥へと、無情に遠ざかっていく。
やがて。
残されたのは、無残に荒された馬車だけ。
「……くそ……!」
拳を、地面に叩きつける。
「プラティ……」
モナカが唇を噛みしめる。
アスティは、静かに前を見据えた。
「……追いましょう」
その瞳には、迷いはなかった。
「ええ。見捨てる理由なんて、ありませんわ」
山道の先。
プラティナを攫った山賊たちが消えた方向を見つめながら、
ケイトは、ゆっくりと立ち上がる。
弱いままでも。
才能がなくても。
――今度こそ。
「ああ。……絶対に、取り戻す」




