第29話 落ちこぼれ騎士プラティナ、選ばれる
翌日。
朝の光が差し込むギルドのロビーは、いつもと同じように賑わっていた。
冒険者たちの笑い声、依頼書をめくる音、酒瓶のぶつかる軽い響き。
そんな日常の中で――
重い扉が、ゆっくりと開く。
ギィ、と低い音。
中へ入ってきたのは、王城の紋章を刻んだ外套を羽織った男だった。
整えられた姿勢、無駄のない歩き方。
その佇まいだけで、ただの使者ではないと分かる。
ざわ……と、ギルド内の空気が少しだけ変わった。
「王城からの使者だ……」
誰かが小さく呟く。
男は迷いなくカウンターの前へ歩み寄り、
静かに口を開いた。
「勇者見習い一行へ」
周囲の視線が、一斉にこちらへ向く。
「他国への輸送任務を依頼したい」
ケイトは腕を組みながら眉を上げた。
「輸送任務?」
「目的地は隣国。
王国間の協定物資の護送です」
使者の声は淡々としていたが、その内容は軽くない。
重要物資の護送。
つまり――
襲撃の可能性もある、王国直轄の任務だ。
「なお、同行者として――」
視線が、ゆっくりと横へ動く。
「聖騎士プラティナ・グローリアを指名する」
ギルドの空気が、一瞬だけ止まった。
「その力を、勇者の為に使えとのことです」
その言葉が告げられた瞬間――
プラティナは、ぴたりと動きを止めた。
「……え?」
思わず漏れた声は、あまりにも間の抜けた響きだった。
耳が、ぴくりと揺れる。
「……アタシ、ですか?」
恐る恐る確認するように尋ねる。
使者は静かに頷いた。
「はい。王命です」
その瞬間。
プラティナの尻尾が、無意識にぴんと跳ね上がった。
「……っ!」
自分でも気づいたのだろう。
慌てて両手で尻尾を押さえる。
しかし感情は正直だった。
銀色の尾は、落ち着きなく左右に揺れてしまう。
「そ、そんな……アタシなんて……」
小さく呟く声。
騎士団では役立たず扱いされ、
前回の討伐も“数合わせ”のように配置された自分。
それなのに――
「……アタシが、選ばれた……?」
信じられない、という顔だった。
声が、少しだけ震えている。
「……ほんとに?」
まるで夢か現実か確かめるように、
自分に言い聞かせるように、もう一度呟く。
その様子を見て、ケイトが苦笑混じりに肩をすくめた。
「お前以外に誰がいるんだよ?」
その一言。
それだけで――
プラティナの表情が、くしゃりと歪んだ。
「……っ」
ぐっと唇を噛む。
こぼれそうになるものを、必死に押しとどめる。
「……アタシ……」
声が震える。
「ずっと……」
「役に立たないって、言われてきて……」
肩が小さく震えた。
俯いた顔の奥で、瞳が揺れている。
ケイトは少しだけ優しい声で言った。
「お前の勇気を、皆が認めてくれたんだ」
その瞬間――
プラティナの目尻に、きらりと光るものが浮かんだ。
「……っ、うぅ……」
小さな声が漏れる。
「よ、喜ぶのはいいけど……」
ケイトは少し照れくさそうに頭をかいた。
「泣くなよ……」
プラティナは慌てて顔を背ける。
「な、泣いてなんかないっ!」
強がって言うが――
揺れる尻尾は、まったく止まらなかった。
それどころか、さっきより元気に揺れている。
しばらくして、プラティナはゆっくり顔を上げた。
目元は少し赤い。
けれど、その瞳には迷いがなかった。
「……アタシ、やります。」
拳を、ぎゅっと握りしめる。
「もう足で纏いになんてならない……」
まっすぐ、仲間たちを見る。
「ちゃんと、仲間として……最後まで一緒に行く……!」
その言葉を聞いて、モナカがぱっと笑顔になる。
「ふふっ…心強い仲間が増えましたね」
ケイトも、満足そうに頷いた。
「これからも頼りにしてるぜ!」
そして、アスティが少しだけ口角を上げる。
「ようやく、勇者パーティらしくなってきましたわね」
プラティナは、少し照れながらも胸を張る。
その背中は、まだ頼りない。
けれど――
その瞳には。
確かな誇りが、宿っていた。




