第24話 並び立つ四人、そして絶望のゴブリンキング
ゴブリンキングが、目を細める。
「ホウ……」
「オマエ…ヨワイ…ナゼ……タツ……?」
プラティナは叫んだ。
「アタシは仲間を守る盾!」
「だから――ここから先には、行かせない!!」
次の瞬間。
彼女は、踏み込んだ。
真正面から。
逃げも、策もない。
ただ、
仲間の前に立つためだけの突進。
「プラティナ!!」
俺が叫ぶ。
「……行って!!」
振り返らずに、彼女は叫び返した。
「冒険者なんでしょ!!」
「だったら――生きて、次を掴みなさい!!」
ゴブリンキングの棍棒が、唸りを上げる。
「ギギッ!バカナ…ヤツダ!…シネ!」
その影が、
プラティナを飲み込もうとした瞬間。
彼女は、剣を掲げた。
恐怖で、腕は震えている。
足も、今にも崩れそうだ。
それでも。
退かなかった。
「……来なさい」
その背中は、
誰よりも小さくて――
誰よりも、騎士だった。
俺は、奥歯を噛み締める。
逃げろと叫んだはずのプラティナの背中が、
巨大な影に向かって、ひとりで進んでいく。
「……っ」
足が、動かなかった。
頭では分かっている。
今なら、まだ逃げられる。
彼女が、時間を稼いでくれている。
それが、彼女の覚悟だ。
でも――
(……またか)
胸の奥が、きしんだ。
弱いから助けられなかったと言い訳する。
それを――
俺は、何度やってきた?
「……無理だ」
気づけば、声が漏れていた。
「俺には……できない」
モナカが、はっとしてこちらを見る。
「ケイトさん……?」
「置いて逃げるなんて……」
剣を、強く握り締める。
「あんな背中……見せられて……」
アスティも、唇を噛みしめていた。
「……自分達だけ逃げるなんて後悔するようなことしたくない。」
前方で、
プラティナが弾き飛ばされ、地面を転がる。
「ぐっ……!」
それでも、彼女は立ち上がる。
足は震え、呼吸は荒い。
それでも――逃げない。
俺は一歩前に出る。
「ケイトさん!?」
モナカの声を背に、俺は走る。
「逃げ道なら……!一緒に作ればいい!!」
叫びながら、
ベヒーモスの時と同じように、無茶な踏み込み。
「グォ……?」
ゴブリンキングが、こちらに気づく。
「ヒト……フエタ……?」
「当たり前だろ!」
剣を構え、プラティナの隣に立つ。
「仲間を置いて逃げるほど……」
「俺は、強くない!!」
プラティナが、目を見開いた。
「な、なんで……!」
「理由なんてない!」
息を荒げながら、言い切る。
「ただ……それが出来ないってだけだ!」
一瞬。
彼女は呆然として――
それから、歯を見せて笑った。
「……バカ」
「知ってる」
剣を構え直し、並び立つ。
「……でも、ありがと」
モナカが、すぐ後ろに来る。
「私もいます!」
「誰も……見捨てません!」
光が、彼女の手に宿る。
アスティも、短く息を吸い、構えを取る。
「……一蓮托生、ですわ」
ゴブリンキングが、低く笑った。
「ホウ……」
「ニゲナイ……オロカ……」
「かもな」
俺は、剣を握り直す。
「でも――」
「それが、俺たちだ」
恐怖は、消えていない。
勝てる気もしない。
それでも。
誰かの背中を、
一人にしないと決めた。
その瞬間。
俺の足は、
もう――逃げる方向を忘れていた。
四人で、前を見る。
騎士と、僧侶と、使い魔と、
名もなき底辺冒険者。
不格好で無謀、
それでも――
誰も、退かなかった。




