第24話 聖騎士の誓い――落ちこぼれの覚悟
ゴブリンキングは、
ゆっくりと首を傾け、赤く濁った瞳で戦場を見渡した。
「ヨワ……ヨワイ……な」
「コレ……キシ……? ボウケン……シャ……?」
片言の人語。
だが、その視線は鋭く、
逃げ惑う者と、踏みとどまる者を正確に見分けている。
「……知能が高い」
アスティが低く告げる。
「ただの力押しではありませんわ。
指揮を理解し、状況を判断しています」
まるで、それを肯定するかのように。
ゴブリンキングは、棍棒を地面に突き立て、
低く、腹に響く声で叫んだ。
「オマエラ……マワリ……カコメ」
「ニゲル……ヤツ……コロセ」
その合図と同時に、
周囲の茂みから、統制の取れた動きでゴブリンたちが現れる。
「チッ……!」
さっきまで散発的だった敵の動きが、
一気に“軍隊”のそれへと変わった。
「マズい……」
「指示、出してるぞ!」
ゴブリンキングは、
混乱する人間たちを見て、口の端を歪める。
「隊列を組め! 囲めば――」
「囲める大きさじゃない!」
ゴブリンキングは、吠え、踏み込み、薙ぎ払う。
一撃一撃が、人間を“モノ”のように吹き飛ばす。
剣が弾かれ、魔法が掻き消され、
盾が砕ける。
「魔王軍……!」
「こんなの、聞いてないぞ!!」
混乱、そして崩壊。
さっきまで景気よく戦っていた正規軍と冒険者たちが、
今や逃げ惑うだけの群れに変わっていく。
「……まずいですわ」
アスティの声が、珍しく硬い。
「ゴブリンキング……。
しかも、あの個体……かなり戦慣れしています」
「ヒト……ヨワク……ナッタ」
「コワレ……ハジメ……タ」
嗤っている。
理解した上で、楽しんでいる。
「――コロス」
「ユックリ……ナ」
次の瞬間、
彼は狙いを定めたように、
前線ではなく――後方へと視線を向けた。
つまり。
見張りとして配置され、
今まで“何もしていない”場所。
俺たちのいる方向だった。
「……最悪だな」
知性ある魔物、自分達よりも格上の存在。
このゴブリンキングは、
単なるボスではない。
“戦争を知っている敵”だ。
ゴブリンキングが、一歩前に出る。
その圧だけで、空気が沈む。
周囲のゴブリンたちがざわめき、獲物を前にした獣の目になる。
「……まずい」
誰かが、そう呟いた。
この距離、この戦力差。
ここにいた全員が理解していた。
次に来る一撃で、誰かが――終わる。
「……逃げて」
低い声だった。
振り向くと、
プラティナが、剣を強く握り締めていた。
「プラティナ……?」
「いいから……聞いて!」
尻尾が、ぴんと張り詰めている。
耳は伏せられ、歯は食いしばられていた。
「アタシが……時間を稼ぐ」
「だから、君たちは――森の外へ!」
「何言って――!」
言い終わる前に、
彼女は一歩、前に出た。
俺たちと、
ゴブリンキングの間へ。
「アタシは……騎士なの」
震えた声。
だが、背中は、真っ直ぐだった。
「弱くても、落ちこぼれでも」
剣を構え、深く息を吸う。
「守るって誓った」
「それだけは……嘘にしたくない!」




