第20話 弱者の旅立ち――仲間と踏み出す一歩
宿に戻りベッドに入る。
硬いベッド。
薄い毛布。
それでも、全身を覆っていた疲労と緊張が、少しずつ溶けていく。
目を閉じると、森での光景が何度も蘇った。
倒れ伏す冒険者。
迫り来るベヒーモス。
そして、自分でも理由の分からない動き。
(……夢、じゃないよな)
剣は壁に立てかけられ、
黒いマントは椅子に静かに掛けられている。
現実だ。
それを確かめるように、俺はゆっくりと息を吐いた。
翌朝。
宿の一階は、冒険者たちの声で賑わっていた。
木製の床が軋み、食器が触れ合う軽い音が飛び交う。
「顔色、だいぶ良くなりましたね」
モナカが、温かいスープを差し出しながら微笑む。
昨日までの張り詰めた表情はなく、どこか安心したような雰囲気だった。
「ええ。ちゃんと休めましたわ」
アスティは腕を組み、満足そうに頷く。
「これで晴れて、正式な冒険者パーティですわね」
その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
(……パーティ)
今まで、俺はずっと一人だった。
誰かと肩を並べて行動するなんて、考えたこともなかった。
「じゃあ、行こうか」
俺の言葉に、二人は頷いた。
冒険者ギルド。
石造りの建物の中は、朝から活気に満ちていた。
掲示板には無数の依頼書が貼られ、
鎧を鳴らす音や、興奮した声が交錯している。
「最初のクエスト……」
俺は、無意識に唾を飲み込んだ。
その時だった。
「――次の依頼、参加者を募集する!」
低く、よく通る声。
視線を向けると、
王国騎士団の紋章を胸に刻んだ騎士が立っていた。
「内容は、ゴブリンの住処の殲滅。
騎士団主導で、複数の冒険者パーティと合同で行う」
掲示板に貼られた依頼書には、こう書かれている。
――《王都近郊・ゴブリン巣穴破壊任務》
――脅威度:低〜中
――騎士団同行
「ゴブリン……」
モナカが、少しだけ肩をすくめる。
「数は多いですが、連携すれば問題ありませんわ」
アスティは冷静だった。
「最初のクエストとしては、悪くありませんね」
俺は、二人の顔を見てから、騎士の方へ歩み出た。
「……参加します」
声が、少しだけ震えた。
騎士は俺たちを一瞥し、短く頷く。
「了解した。
君たちは第三班だ。他の冒険者パーティと合流してもらう」
周囲を見ると、すでに数組の冒険者が集まっている。
経験豊富そうな者もいれば、俺たちと同じ新人らしき顔もあった。
(……大丈夫だ)
一人じゃない。
無茶をする必要もない。
「みんなで行けば、怖くありませんね」
モナカのその一言に、胸の奥が少し軽くなった。
「ええ。
今回は“生き残る”こと優先ですわ」
アスティは、ちらりと俺のマントを見る。
「その装備、よく似合ってますわよ」
「ありがとう。」
剣の柄に手を置き、俺は静かに息を整える。
こうして――
名もなき少年は、
仲間と共に、最初の一歩を踏み出した。
世界を救う物語には、まだ程遠い。
けれど確かに。
“弱さを抱えたまま進む冒険”が、
ここから始まろうとしていた。




