第16話 仲間を切り捨てた者の末路
「地図によれば……目的のフラッグが置いてある場所までもう少しのはずだが……」
出発前に渡された地図を広げ、現在地を確認しながら呟く。
「ねぇ……何か声がしませんか?」
モナカが不安そうに周囲を見回す。
「ああ。確かに……いくつもの声が聞こえるな。
モンスターかもしれない。慎重にいこう」
「はい……」
三人は足音を殺し、周囲に警戒しながら進む。
その時――
鼻を突く、生臭い匂いが漂ってきた。
「……嫌な予感がする……」
「ケイトさん。あれを見てください!」
モナカが前方を指差し、思わず声を上げる。
そこに広がっていたのは――
地に倒れ伏す何人もの冒険者達の姿だった。
血に染まった地面、折れた武器、引き裂かれた防具。
争いの痕跡が生々しく残っている。
「ひでぇな……」
「うう……」
「まだ息があるぞ!」
かすかな呻き声が聞こえ、慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか?
今、治療しますね……!」
モナカはすぐに跪き、両手を胸の前で組む。
その瞳には迷いがなく、必死さだけが宿っていた。
「神よ……
御心のままに、かの者に癒しの慈悲を……」
柔らかな光が彼女の手から溢れ出す。
『キュア!』
淡い光が傷を包み込み、苦悶の表情だった冒険者達の顔が、少しずつ安らいでいった。
光が消えると同時に、冒険者の一人が大きく息を吐いた。
「……た、助かった……」
「命の恩人だ……本当に、ありがとう……」
起き上がれた者も、まだ動けず地面に伏したままの者も、必死に礼の言葉を絞り出す。
その声には、恐怖と安堵が入り混じっていた。
「気にしないでください。生きていてくれて、本当に良かったです」
モナカはそう言って、ほっとしたように微笑む。
しかし、回復した冒険者の一人が、その表情を見て苦々しく歯を噛みしめた。
「……あんた、名前は?」
「モナカです」
「そうか。モナカ……悪いことは言わねぇ。ここから先へは行かない方がいい」
空気が一気に引き締まる。
「この先に出るのは、普通の魔物じゃねぇ。
俺たちのパーティも……そこで壊滅した」
「壊滅……?」
「ああ、“強行突破”を選んだ結果が、これだ」
折れた剣を指差しながら、冒険者は悔しそうに言う。
「数も連携も、完全に格上だ。
正直に言って――素人が行けば、死ぬ」
「……忠告、ありがとうございます」
ケイトが低く答える。
「俺たちは引き返す。これ以上は無理だ」
「助けてもらった恩、忘れねぇ……どうか、無事でな」
そう言い残し、冒険者達は互いに肩を貸し合いながら、来た道を引き返していった。
残されたのは、血と土の匂い、そして重苦しい沈黙。
「……進みますか?」
モナカの声は小さいが、逃げ腰ではなかった。
「ああ。ここで止まったら、あの人たちの覚悟まで無駄にすることになる。」
さらに奥へ進むにつれ、空気はより濁り、湿った生臭さが強まっていく。
そして――それは、すぐに見えた。
「……っ」
木々の合間、崩れた岩場の向こう。
そこには、先ほど名前に出た“置き去りにした冒険者たち”がいた。
いや――正確には、そうだったものだ。
「た、助けてくれ……っ!」
血まみれの男が地面を這い、必死に手を伸ばす。その背後では、巨大な魔物が低い唸り声を上げていた。鋭い爪、濁った眼、獣とも悪意ともつかぬ存在感。
「や、やめろ! 来るな! 来るなあああ!!」
悲鳴は、途中で途切れる。
鈍い音。叫び。そして、沈黙。
モナカは思わず口元を押さえた。
「あ……あの人たち……」
それは先程モナカを見捨てた奴らだった。
「……仲間を切り捨てた結果だ」
ケイトの声は冷たかったが、どこか痛みも混じっていた。
「誰かを捨てる。
でもな……そういう連中ほど、最後は誰にも助けてもらえねぇ」
目の前に広がる惨状がその冒険の残酷さを物語っており、
その元凶である巨大な魔物がゆっくりと姿を現した。




