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クソザコナメクジから始まる最強勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 旅立ちの冒険者編

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第15話 冒険者試験が始まったら、森の中で追放された僧侶を拾うことになりました 


「それではこれより試験を開始致します」

 受付のアイリスが一歩前に出て、澄んだ声で続ける。

「詳細はお渡しした書類をご確認くださいませ。制限時間は夕方まで。くれぐれもご無理のないように。それでは……いってらっしゃいませ」


 その合図と同時に、約五十名の受験者たちが一斉に駆け出した。

 地面を蹴る音、装備が鳴る音、闘志に満ちた叫び声が入り混じる。


「腕が鳴るぜ!」

「てめぇ!抜けがけは許さねぇ!一番は俺様だ!」

「ゴブリンなんて、私の魔法で一撃ですわ!」


 それぞれが自信満々に森へ向かっていく。


「勇者様。ほら、わたくし達も参りましょうですわ」

「あ、ああ……そうだな」


 悪魔の森――その名を聞いた瞬間から、俺の足は完全に(すく)んでいた。

 心臓が早鐘(はやがね)のように鳴り、背中を冷たい汗が伝う。

 だが、アスティの声に我に返り、慌ててその背中を追いかける。


 しばらく進むと、木々が密集し、昼間だというのに薄暗い森の入り口が見えてきた。

 風が吹くたび、枝葉が擦れ合い、不気味な音を立てる。


「なぁ……やっぱり、どうしても行かなきゃいけないんだよな……」

 思わず弱音が漏れる。


「今さら何を言っているんですか」

 アスティは振り返りもせず、きっぱりと言い放つ。

「勇者様なら大丈夫ですわ。ほら、早くしないと置いていきますわよ」


 その背中は、不思議なほど頼もしかった。

 俺とは正反対に、恐怖よりも使命感に満ちている。


「……分かったよ」

 俺は深く息を吸い、拳を握りしめる。

「こんな森に、女の子一人で行かせられるわけないからな。」


 覚悟を決め、俺たちは森の中へと足を踏み入れた。


 ――しばらく進んだ、その時。


 奥の方から、言い争うような声が聞こえてきた。

 木々の隙間から見えたのは、見覚えのある少女。


(あれは……モナカ?)

 町で絡まれていた、あの僧侶の少女だ。

 どうやら彼女も冒険者志願者で、数人の仲間とパーティを組んでいるようだったが……。


「お前、全然役に立たないな」

 冷たい男の声が響く。


「まともなサポートも出来ないなんて、本当に使えない僧侶ね」

 (あざけ)るような女の声。


「ご……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 モナカは(うつむ)き、震える声で何度も謝っていた。


「何コソコソ言ってんだよ、お前?」

 リーダーらしき男が睨みつける。

「まぁ、もういい。お前、このパーティ抜けろ」


「そ、そんな……! 次は頑張りますから……!」

 必死に(すが)るモナカ。


「次なんてねぇんだよ」

 吐き捨てるように言い放たれる。

「リーダーの判断だ。お前は用済みだ。クズ僧侶」


「じゃあな。足手まとい」

「後は一人で頑張れよ。ハハハ!」


 下卑(げび)た笑い声を残しパーティのメンバー達は森の奥へと消えていった。

 残されたのは、膝をつき、呆然とその背中を見送るモナカ一人。


 ――なんて奴らだ。

 仲間を、こんな場所に置き去りにするなんて。


 モニカは、その場に立ち尽くしたまま、小さく肩を震わせている。


「こんな森の中で……一体どうしたら……」


 その声はか細く、今にも消えてしまいそうだった。


「大丈夫か? モナカ」


 俺が声をかけると、モニカははっとしたようにこちらを見た。


「あなたは……ケイトさん」


 一瞬だけ安堵したように微笑むが、すぐに力なく笑ってみせる。


「大丈夫です。置いて行かれちゃいましたが……あはは……」


 その笑顔は明らかに無理をしていた。

 自分に言い聞かせるような、壊れそうな笑い方だ。


「仲間を置いていくなんて、本当最低の奴らね」


 アスティの声には、怒りと軽蔑がはっきりと滲んでいた。

 小さな拳を握りしめ、その背中がわずかに震えている。

 さっきまで穏やかだった彼女の表情は、今は明らかに険しい。


「あなたはケイトさんと一緒にいた……」


 モナカはそう言いながら、俺とアスティを交互に見た。

 突然一人きりにされた不安と恐怖が、まだ消えきっていないのだろう。声は少し震え、視線も定まらない。


「こいつはアスティだ。アスティ・アマテラスナントカカントカ」


 俺が適当に紹介すると、即座にアスティが反応した。


「もう~違いますわ!

 アマテラスじゃなくてアストライア。

 アスティ・アストライア・エスペラント・エヴァンジルですわ」


 胸を張り、これでもかというほど堂々と訂正する。

 その勢いに、場の空気が一瞬だけ和らいだ。


「ふふ……私はモナカです。モナカ・アムレート。

 改めてよろしくお願いしますね、アスティさん」


 その笑顔は控えめで、どこか儚い。

 だが、見捨てられた直後とは思えないほど、声には人を思いやる優しさが残っていた。



「ねえモナカさん。一人だと危険だし、私達と一緒に来ない?」


 アスティが真っ直ぐに提案する。


「でも……私なんか、ご迷惑にならないでしょうか?」


「そんな迷惑だなんて思わないわよ。ねぇ、勇者様」


 アスティがこちらを見る。


「ああ。寧ろ心強いくらいだぜ。

 もちろん、モナカが良ければだけどな」


 モナカは一瞬俯き、何かを考えるように唇を噛んだ。


「どうしよう……えっ……うん。そうだよね……」


「ん? どうかしたか?」


「いえいえ……ありがとうございます。よろしくお願いします」


 その言葉と共に、彼女は深く頭を下げた。


「決まりですわね」


 アスティが満足そうに頷く。


「ああ、こちらこそよろしくな」


 こうして俺達は、心強い仲間・モナカを加え、さらに森の奥へと進む。

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