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クソザコナメクジから始まる最強勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 旅立ちの冒険者編

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第14話 「Dランク試験のはずなのに、目的地が悪魔の森なんですが?」 

 

 その後、試験会場の受付を済ませ、指定された広場へ足を踏み入れる。


 そこには既に多くの冒険者志願者たちが集まっていた。

 分厚い鎧に身を包んだ剣士、魔力を(まと)わせた杖を手にする魔導士、

 身体一つで勝負しそうな格闘家――。


 どの顔も自信と経験に満ちており、自然と気圧される。


「……皆、強そうだな」


 思わず()れた本音に、自分でも苦笑してしまう。


「俺なんか、場違いなんじゃないか……?」


「そんなことありませんわ」


 アスティは即座に、きっぱりと言い切る。


「あなたは勇者様です。胸を張るべきですわ」


 その言葉に、少しだけ背筋が伸びた……その時だった。


「ははは!!」


 場違いなほど軽薄な笑い声が響く。


「君が勇者?冗談だろう。そのひょろい体で大丈夫なのかい?」


 振り向くと、そこには真新しい装備に身を包んだ青年が立っていた。

 無駄に整った顔立ち、上質そうなマント、後ろには同じく装備の整った仲間らしき数人。


 明らかに“選ばれた側”の空気を纏っている。


「何も知らないくせに……!」


 アスティが一歩前に出て、声を荒げる。


「勇者様は魔王軍だって追い払ったんだから!!」


「はぁ?」


 青年は鼻で笑い、わざとらしく肩をすくめる。


「キミみたいなガキが?冗談はほどほどにしてくれよ」


 そして胸を張り、高らかに名乗りを上げた。


「いいかい?本物の勇者というのはこのボクさ。

 名門アルタイル家の一人息子――イバール・アルタイル様だ」


 腰に手をかけ、誇示するように剣を引き抜く。


「見たまえ。この輝きを!!」


 陽光を受けて、剣身が眩いほどの光を放つ。

 それを見た周囲の冒険者たちが、どよめきの声を上げた。


「お、おい……あれって……」

「岩すら斬り裂くっていう、あのダイヤモンドソードか!?」

「マジかよ……百万円マニーは下らない代物だぞ……」


 ざわめきが広がる中、イバールは満足そうに口角を上げる。


 だが次の瞬間、彼の背後にいた魔法使い風の女性が一歩前に出た。

 同じく豪奢(ごうしゃ)な装備に身を包み、冷ややかな視線を俺達に向ける。


「イバール。

 そんな田舎者に剣の価値が分かるはずありませんわ。構うだけ時間の無駄です」


 その言葉には、隠す気もない侮蔑が滲んでいた。


「……それもそうだね」


 イバールは肩をすくめ、俺達に向かって薄く笑う。


「忠告してあげるよ。

 痛い目を見る前に、さっさと帰った方が身のためだと思うけど?」


 その視線は、明らかに“見下す者”のものだった。


「がっははは! 団長の言う通りだ!冒険者は遊びじゃねぇんだよ!ガキは大人しく家に帰って、母ちゃんのスカートにでもしがみついてな!」


 同じくイバールの仲間であろう、鎧に身を包んだ戦士風の男が腹を抱えて笑う。

 その声は広場に響き、周囲の志願者たちの視線が一斉にこちらへと集まった。


「な……何ですって!!」


 アスティが一歩前に出かけた瞬間、俺はそっと彼女の肩に手を置いた。


「よせ、アスティ。……良いんだ。」


 それ以上言い返すことはしなかった。

 イバールたちは最後まで見下した視線を向けたまま、笑い声を残して去っていく。


「もう……なんて嫌な人たちですわ。勇者様も、少しは言い返しても良かったのに……」


 憤りを隠さないアスティの声に、俺は小さく息を吐いてから肩をすくめる。


「俺たちは喧嘩しに来たわけじゃない。それに……バカにされるのは慣れてる。」


 自分でも驚くほど、声は穏やかだった。

 これまで何度も浴びてきた視線と、同じ種類の言葉だったからだ。


「あれくらい、気にすることじゃないさ。」


 そう言って笑ってみせると、アスティは何か言いたげに唇を噛み、じっと俺を見つめていた。


「……勇者様……」


 その視線に耐えきれず、俺は照れ隠しのように言葉を続ける。


「でもさ、アスティが俺のために怒ってくれたのは……すごく嬉しかった。ありがとう。」


 その瞬間、アスティの表情がふっと柔らぐ。


「……勇者様……」


「よし。じゃあ、気を取り直して試験だ。やれることをやろう。」


「はい。わたくし、全力でサポート致しますわ。」


 互いに小さく頷き合った、その時だった。


「皆さん、お待たせ致しました。」


 澄んだ声が広場に響き渡る。

 振り向くと、受付のアイリスが一歩前に出ており、その後ろから一人の男が姿を現した。


 中年の男性。

 蓄えた髭には白いものが混じり、顔や腕には無数の古傷が刻まれている。

 その瞳は鋭く、獲物を見定める鷹のような迫力を放っていた。


「私の名はアイゼン。このフリーデン支部の支部長を務めている。」


 その一言だけで、ざわついていた会場の空気が一変する。

 私語は止み、志願者たちの背筋が自然と伸びた。


「諸君らも理解しているだろうが、冒険者とは常に死と隣り合わせの職業だ。」


 低く、重みのある声。


「故に――適性を測らせてもらう。それが今回の試験の目的である。」


 一拍置き、支部長はゆっくりと視線を巡らせる。


「今回のクエストだが……諸君らには“悪魔の森”に入ってもらう。」


「……悪魔の森だって……?」


 誰かが息を呑む声が聞こえた。


「あの森か……入った旅人が何人も帰って来なかったっていう……」


 再び、広場がざわつく。

 無理もない。悪魔の森――その名を知らぬ者はいない。


 悪魔が住まうと噂され、

 近づいた者は二度と戻らぬと言われる、忌み嫌われた森。

 古くから「一度入れば二度と戻れない」「夜に近づくと森が(ささや)く」といった噂が絶えず、

 一般人どころか経験の浅い冒険者ですら足を踏み入れるのを躊躇(ためら)う、忌避(きひ)の地だ。


 俺は無意識に拳を握り締める。

 心臓の鼓動が、嫌に大きく聞こえた。


(……悪魔の森、か)


「森の奥にフラッグが一本設置してある。それを持ち帰るのが今回のクエスト内容だ」

 アイゼン支部長の低く重い声が響く。

「大物モンスターは日頃からギルドが間引いている。だが、油断するな。森にはウルフ、ゴブリンが生息している。十分に警戒することだ」

 その言葉一つ一つが、受験者たちの胸に重くのしかかる。

「――諸君らの武運を祈る」



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