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クソザコナメクジから始まる最強勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
序章  どん底からの異世界転生編

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第9話 絶望は終わらない


「さて……そろそろ止めを刺してやるよ」


そう言って、コボルトは武器を構え、ゆっくりと近づいてくる。

足音がやけに大きく響き、逃げ場などどこにもないことを嫌というほど実感させられる。


……ここまでか。


意識が遠のきかけた、その時だった。


「させませんわ!!」


鋭く、しかし確かな声が響く。


次の瞬間、コボルトの身体に何かがぶつかり、弾けた。


「ぐ……これは火!? 熱い! 熱い!! くそおおお!!」


アスティが投げつけたのは、燃え盛る火種だった。

油に()れていたコボルトの全身は、一気に炎に包まれる。

火は瞬く間に広がり、悲鳴を上げながらコボルトはのたうち回った。


熱さから逃れようと必死に暴れ回るその動きは、やがて自滅へと繋がる。

炎に包まれたまま壁へ突っ込み、小屋の柱が嫌な音を立てて折れた。


崩れ落ちてきた木材と瓦礫(がれき)が、逃げ場を失ったコボルトを押し潰す。


「ひぃ……ぎゃあああああああ!!」


断末魔の叫びを最後に、瓦礫の下で動かなくなった。



「勇者様、大丈夫ですの?」


駆け寄ってきたアスティの声で、ようやく現実に引き戻される。


「ああ……なんとかな。おかげで助かった、ありがとう。ここは危険だ、早く離れよう」


俺達は半壊した小屋の隙間を縫うようにして外へ出た。

護身用に置かれていた木刀を拾い、それを杖代わりにしながら、痛む身体を引きずるようにして歩き出す。


ひとまず村から離れなければならない。

そう思い、森へ向かって進んでいた――その時。


「クケケ……見つけましたぜ」


背後から、嫌な声が響く。


振り返ると、闇の中から次々と姿を現すコボルト達。

数は一匹や二匹ではない。


「……いつまで立っても帰ってこないヤツがいるから、確認に来たら……まさかやられていたとはなぁ……」


低く唸るような声。次々と姿を現す、コボルト達。その数は、先ほどとは比べ物にならないほど多く強力そうな個体ばかりだ。

おそらくコボルトの本隊だろう。


さっきの一匹相手ですら、命からがらだった。


逃げ場はない。

希望という言葉は、もう頭の中から完全に消え去っていた。


「……たっぷり楽しませてやるぜ」


下卑(げび)た笑い声が重なり合い、周囲を包み込む。

その中で、ひときわ大きな影が一歩前へと進み出た。


「待て。俺がやろう……」


その一言で、空気が変わった。

群れのざわめきが嘘のように静まり返る。


現れたのは、明らかに格の違うコボルトだった。

他の個体より一回りも二回りも大きな体躯(たいく)

手には、鉄の塊のような巨大な武器を携えている。

一歩、また一歩と近づくたび、地面がわずかに震える。


――本能が告げていた。

こいつが“ボス”だ。


「俺は魔王軍第十部隊副隊長、ボイス」


名乗りと同時に、凄まじい殺気が叩きつけられる。

息が詰まり、喉がひくりと鳴った。


「お前だな? 俺の可愛い子分を殺ったのは……」


ボイスの鼻がひくりと動き、獣のように空気を嗅ぐ。


「……ククッ。お前から、あいつの匂いがプンプンしてくるぜ」


逃げ場は、もう無い。

勇者でも何でもない、ただの村の青年に過ぎない俺が、魔王軍の副隊長と対峙している。


「勇者じゃねぇようだが……」

「魔王軍に逆らったらどうなるか――」


ボイスは武器をゆっくりと構えた。


「――その身体に、たっぷり叩き込んでやるよ」


死神に、鎌を突きつけられている。

そんな錯覚に陥るほどの圧力だった。


身体が、勝手に震える。

怪我の痛みも、恐怖も、全てが一気に押し寄せてくる。


逃げたい。

全力で、ここから逃げ出したい。


……だが。


この数。

そして、この満身創痍(まんしんそうい)の身体。


それが夢物語だということは、嫌というほど分かっていた。


――俺に出来ることは、一つだけ。


アスティを、逃がす。

それが、今の俺に出来る唯一の選択だ。


分かっている。

それを実行したら、俺は死ぬ。


死ぬのは、怖い。

傷の痛みと、迫り来る恐怖で、今にも泣き叫びそうになる。


それでも――。


「……」


俺は歯を食いしばり、震える心を必死に押さえ込んだ。


そうだ。

約束したじゃないか。


絶対に、守るって。


俺にだって、勇気のひと欠片くらいはある。


俺は一歩、また一歩と前に出て、アスティの前に立った。


「俺が……時間を稼ぐ」

「だからアスティは、先に逃げるんだ……」


「でも、勇者様……その怪我では……」


不安そうな声。

振り返りたい気持ちを抑え、俺は無理やり口角を上げた。


「俺のことなら心配すんな」

「……こんな奴ら、俺が一瞬で倒してやるからよ!」


痛みも、恐怖も、全部押し殺して作った笑顔。

それがどれほど不自然だったかは、自分でも分かっていた。


「勇者様!!」


アスティの叫びが背中に突き刺さる。


(義父さん……義母さん……)

(俺に、力を貸してくれ!!!!)


「てめえごときが勇者様だって笑わせてくれる」


ボイスが、腹の底から笑った。


「その貧弱な体で、俺を倒そうってのか?面白れぇ……かかってこい!!」


嘲笑が、群れに伝播する。


俺は振り向き、剣を――

震える手で、強く握りしめた。


そして、全力で駆け出す。


怪我をした身体が悲鳴を上げる。

足がもつれそうになる。

視界が(にじ)む。


それでも、止まらない。


倒せなくてもいい。

ほんの少しでいい。


アスティが逃げる時間さえ稼げれば――!!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

「食らえ!!!!!!」


力の限り、剣を振り下ろした。


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