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クソザコナメクジから始まる最強勇者~スライムすら倒せない俺が世界を救うって本当ですか?~  作者: 小鳥遊 千夜
序章  どん底からの異世界転生編

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序章 どん底の人生

 

 いつものことだ。

 朝、教室に足を踏み入れた瞬間、俺は小さく息を吐く。


 俺の机の上には、今日も決まって“それ”があった。

 丸められたプリント。空のペットボトル。

 そして、油性ペンで無遠慮(むえんりょ)に書き殴られた罵倒(ばとう)の言葉。


 ――死ね。

 ――消えろ。

 ――チキン。


 無言でそれらを集め、ゴミ箱へ放り込む。

 机に残った落書きを消しゴムで(こす)るたび、黒ずみが広がり、完全には消えない。

 まるで俺自身みたいだ、とふと思う。


 この作業も、もう何年続けているだろうか。

 小学校の頃から――いや、もっと前からだ。


 ようやく席に着いた、その瞬間だった。


 ――ガラガラガラッ!!


 わざとらしいほど大きな音を立て、教室の扉が開く。

 入ってきたのは、見慣れすぎるほど見慣れた三人組だった。


 着崩(きくず)した学ランに染めた金髪。

 教室の机が小さく見えるほどの図体。


 周囲の空気が、一気に冷え込むのが分かる。


「よう、鳥原(とりはら)ぁ~。またこの課題、やっておいてくれよ」


 にやついた笑顔で、リーダー格の男が声をかけてくる。


「ヒヒヒ……俺らもよろしくな~?

 まさか、嫌だなんて言わねぇよなぁ?」


 ドスン、と音を立てて、俺の机に積み上げられる大量のノート。

 ざっと見ただけで、一晩じゃ終わらない量だ。


 こいつらは、この学校で有名な不良。

 そして俺は、小学生の頃からずっと目を付けられている“便利な存在”。


 ――抵抗しない。

 ――親もいない。

 ――文句を言う後ろ盾もない。


 だから、都合がいい。


「い、いや……でも、この量を明日までは……ちょっと……」


「ああ?」


 たった一文字。

 それだけで、教室の空気が凍りつく。


 視線を上げると、クラスメイト全員が露骨(ろこつ)に目を逸らしていた。

 机に視線を落とし、スマホをいじり、窓の外を見るふりをする。


 当然だ。

 この状況で首を突っ込めば、次は自分が標的になる。


 現実に、ヒーローなんていない。


「な……なんでもないです」


 喉の奥がひりつくのを必死に押し殺し、俺は小さくそう答えた。



「そうこなくちゃな~。俺とお前の仲だもんな?」


 へらついた笑みを浮かべたまま、不良の腕が俺の肩に回される。

 骨がきしむような圧迫感に、俺は愛想(あいそう)笑いを浮かべることしかできない。


「……ハハハ」


 乾いた笑いが、勝手に喉から漏れた。

 笑っていれば、やり過ごせる。

 逆らわなければ、これ以上酷いことにはならない。


 そうやって、何年も生きてきた。


「あっ、そうだ。ついでに“()()()()()()”で、また金貸してくれよ?」


 その一言で、心臓が嫌な音を立てた。


 ――貸し。


 耳にするたび、胸の奥が冷えていく言葉。

 それが嘘だということを、俺は嫌というほど知っている。


 一度だって、返ってきたことはない。

 それでも、断ることは許されない。



「三万でいいからよ~? な?」


「さ、三万っ……!」


 思わず声が裏返った。


「そんな、今月はもう五万も渡してるんですよ……これ以上は……」


 必死に言葉を選びながら、ほんのわずかな抵抗を試みる。

 だが、それが間違いだった。


「あ?」


「お友達が頼んでるのに、まさか無理だなんて言うんじゃねぇだろうな~?」


 次の瞬間、視界が揺れた。


「う……うぁあああ!!」


 胸ぐらを掴まれ、凄まじい力で突き倒される。


 ――ガタンッ!!

 机が倒れる鈍い音が教室に響き、床に叩きつけられた背中に激痛が走る。


 息が、できない。

 肺が潰れたような感覚に、視界が一瞬白くなる。



「おっとぉ?

 ひよっこモヤシのチキン君には、強すぎたか~?」


 見下ろしてくる顔が歪んでいる。


「ぷぷぷ……コイツ、悲鳴なんか上げてるぞ?

 それでも男かよwww」


 楽しそうな笑い声が、耳に刺さる。


 視界が(にじ)む。

 涙なのか、痛みのせいなのか、自分でも分からない。


 悔しさよりも、恐怖と惨めさが先に来る。

 反論しようという気力は、とうに(こす)り切れていた。



「何を騒いでいる?」


 その声に、不良たちの動きが止まる。

 音を聞きつけた担任が、教室に入ってきたのだ。


「先公か……」


 舌打ち混じりに呟きながら、男は俺から手を離す。


「運が良かったな、チキン~」


 立ち去る直前、耳元に顔を寄せられ、(ささや)かれる。


「じゃあ明日、三万よろしくな。

 くれぐれも忘れんなよ」


 それは忠告じゃない。命令だ。


「……ハイ。分かりました」


 赤茶の髪に小柄な体。


 鳥原という苗字から付けられた“チキン”というあだ名が、これ以上ないほど似合う俺は、

 反論もできず、髪を掴まれて凄まれながら頷くしかなかった。


 逆らうという選択肢は、最初から存在しない。



「鳥原、さっさと席に着きなさい」


 担任は、不良たちを叱ることもなく、

 こちらを見ることすらせず、淡々と授業の準備を始める。


 面倒事に関わりたくないのだろう。


 ――貧困家庭で、後ろ盾もない俺を守ったところで、何の得にもならない。


 そもそも俺には、守ってくれる“家族”がいない。


 両親は、俺が小学生の頃に交通事故で亡くなった。

 突然で、呆気なくて、何の前触れもなかった。


 その後、親戚という名の大人たちが現れた。

 優しい言葉をかけられたのは、最初だけ。


 目的は一つ。

 ――両親の生命保険。


 たらい回しにされ、

「ここでは面倒を見られない」

「金がかかる」

 そんな理由を並べられながら、

 金だけ取られ、最後には捨てられた。


 残ったのは、最低限の生活費と、誰にも頼れない現実だけ。


 世の中、そんなものだ。


 この学校で、俺の味方はいない。

 いや……「この世界」には、なのかもしれない。


 これが、俺の日常。


 放課後、重たい足取りで帰路につく。

 商店街の一角で、ふと一枚のポスターが視界に入った。


 青い猫のキャラクターと、数人の少年たち。

 誰もが知っている、国民的アニメ。


 その中にいる、

 勉強もできず、運動も苦手で、いじめられっ子の少年。


 ――ああ、俺とそっくりだ。


 勉強も運動神経も平均以下。

 小柄で冴えない、高校二年生の俺――

 鳥原彗二(とりはらけんじ)


 でも、俺にはあの少年のような友達はいない。

 不思議な道具も、助けてくれる仲間も家族も存在しない。


 現実は、あまりにも非情だ。


(……羨ましいよ。お前が)


 ポスターを見上げたまま、俺は小さく息を吐いた。




 そのまま現実から逃げるように、俺は自宅へ戻った。

 足取りは重く、夕暮れのアスファルトがやけに冷たく感じられる。誰とも目を合わせず、ただ下を向いて歩く。昔からそうだ。周囲と関わらない方が、傷つかずに済む。


 古いアパートの前に着き、軋む階段を上る。

 ドアを開けると、カビと埃の混じった、いつもの空気が鼻を突いた。


「……ただいま」


 返事が返ってくるはずがないと分かっているのに、気付けばそんな言葉が口をついて出ていた。



 今の俺には、迎えてくれる家族なんて存在せず、帰る場所は、この安アパートの一室だけだ。


 靴を脱ぎ、制服のまま自室へ直行する。

 狭い六畳間には、ベッドと机、それから年季の入ったデスクトップPCが置いてあるだけ。

 壁紙は端から少しずつ剥がれ、窓の外に見えるのは隣の建物の無機質なコンクリート壁だけだった。

 空は見えないし、風も感じられない。


 それでも――。


 ここだけが、俺の世界だ。

 誰にも踏み込まれず、誰にも否定されない、唯一の居場所。

 現実の重さから、ほんの少しだけ逃げ込める場所だった。


 椅子に腰掛け、慣れた手つきで電源を入れる。

 低い起動音が鳴り、モニターが青白く光る。


 ――現実はログアウト。

 ここからは、俺が“俺でいられる”場所。


 オンラインゲーム《スターファンタジー》にログインする。


『スターファンタジーの世界へようこそ

 ケイトさんがログインしました』


 その一文を見ただけで、胸の奥がわずかに軽くなる。

 ここでは、誰も俺を「チキン」なんて呼ばない。

 暴力も、脅しも、無視もない。


 これが、俺の唯一の趣味であり娯楽。

 大規模ギルドではないが、俺はここでギルドマスターをしている。


 顔も本名も知らない仲間たち。

 だが、リアルで友達のいない俺にとって、彼らは確かに“一緒に遊んでくれる存在”だった。


 キーボードを叩き、いつもの挨拶を送る。


 ケイト「こんにちは」


 それを合図に、チャット欄が一気に動き出す。


 †クラウド†「おっ…ケイトさん、こんにちわー!」

 姫猫「ごきげんよう、ご機嫌いかがですにゃ?」

 ファンタ「団長、今度狩りに行こうよー」

 漆黒のルシファー「やっと目覚めたか……戦友よ」

 ルーファス「一緒にSS撮ろうぜ」

 グスタフ大佐「ブヒヒ……ケイト氏、その装備、良いですなぁ」

 シルヴィー「こんにちはぁ……お待ちしていましたよぉ」

 セレニャ「ケイトさん、こんにちわですわー」

 まぐろん「マスターお帰りなさい!」

 フレイ「最近忙しかったので、会うのはお久しぶりですね」


 流れていく文字列。

 軽口、冗談、誘い。


 この“いつもの光景”が、俺にとっては何よりも救いだった。

 誰かが、俺の存在を歓迎してくれる。

 それだけで、今日一日を耐えてきた意味が生まれる。


 ――だが、その流れがふと止まる。


 アークス「……すみません。ちょっと良いですか?」


(最近入った、アークスさんか……?)


 控えめなその言葉に、胸がわずかにざわつく。

 嫌な予感は、いつも当たる。


 ケイト「アークスさん、こんにちは。大丈夫ですよ」


 数秒の沈黙。

 その間、指先が無意識に止まる。


 アークス「急な話ですみませんが、今日でギルドを辞めさせてもらいたいのですが……」


 一瞬で、空気が変わったのが分かった。

 画面越しでも、緊張が伝わってくる。


 ケイト「何かあったのですか? もし良ければ、教えてもらえませんか?」


 ギルドマスターとしての言葉。

 同時に、崩れそうな居場所を必死に繋ぎ止めたい気持ち。


 アークス「その……言いにくいのですが、最近メンバーの人に付きまとわれていて……」


 チャットがざわつき始める。

 冗談交じりだった空気が、少しずつ尖っていく。


 ……そして、それは止まらなかった。



 †クラウド†「それはヒドイな」


 まぐろん「犯人は誰なんですか?」


 セレニャ「確かに気になりますわね。まぁ、心当たりのある人は何人かいますけど……」


 グスタフ大佐「ブヒヒ……じ、自分ではないですぞ」


 ファンタ「僕だって違うよ!」


 フレイ「皆、とりあえず団長の意見を聞きましょうよ」


 アークスさんの一言で、チャットがざわつき始める。

 冗談交じりだった空気が、少しずつ尖っていくのが分かる。


 ケイト「気持ちは分かりますが、皆さん落ち着いてください」


 †クラウド†「けどよ。実際、問題起こしてるヤツはいるんだろ?」


 漆黒のルシファー「左様……同胞を疑いたくはないが……裏切り者は地獄の業火で焼き尽くさねばならぬ」


 物騒な言葉に、さらに緊張が走る。


 まぐろん「そういえば最近、シルヴィーさんがギルメンと口論してませんでしたっけ? 犯人はシルヴィーさんじゃない?」


 シルヴィー「? 失礼ですねぇ。違いますよぉ~。そういうアナタこそ、犯人なんじゃないですかぁ?」


 まぐろん「私じゃないですよ。証拠はあるんですか?」


 ファンタ「証拠って話なら、†クラウド†君がアークスさんと昨日話してるのを見たよ」


 †クラウド†「は? 俺はアークスが最近元気なかったから励ましてただけだよ。

 そんなこと言うなら、グスタフとか怪しいだろ。アイツ女と話す時、鼻息荒いし、どうせリアルでモテないから必死なんじゃないの?」


 グスタフ大佐「その発言はいただけませんな。

 大体、自分はこう見えて妻子持ちですぞ」


 †クラウド†「ハイハイ。どうせ二次元の嫁でしょ」


 次の瞬間、システムメッセージが表示された。


『グスタフ大佐がログアウトしました』


 賑やかだったチャット欄が、嘘のように静まり返る。


 ……胸の奥が、嫌な音を立てて軋んだ。


 ここは、俺の唯一の居場所のはずだった。

 現実から逃げ込める、安全な世界のはずだったのに。


 ――それすら、壊れ始めているのか。



 フレイ「その言い方は、流石に良くないですよ。後でグスタフさんに謝ってください」


 フレイの落ち着いた言葉が、辛うじて場を繋ぎ止めようとする。


 †クラウド†「なんで謝らなきゃいけないんだよ。俺が犯人じゃないし。

 そもそも、こんな事になったのはギルマスがちゃんとしてないからだろ?

 結局、真犯人は誰なんだよ?」


 その矛先は、はっきりと俺に向けられていた。

 チャット欄に(ただよ)刺々(とげとげ)しい沈黙。

 一触即発――そんな言葉が頭をよぎる。


 これ以上、雰囲気を悪化させたくない。

 正直、犯人探しなんてしたくなかった。

 けれど、このまま曖昧にすれば、溝はさらに深まるだけだ。


 俺は、ギルドマスターとしての立場に(すが)るように、指を動かした。


 ケイト「……すみません。

 そうですよね。アークスさん、相手は……その、誰なんですか?」


 しばらく、返事はなかった。

 数秒が、やけに長く感じられる。


 アークス「……ルーファスさんです……」


 その名前が表示された瞬間、空気が凍りついた。


 漆黒のルシファー「我らが天使に手を出していた愚か者が、(なんじ)であったとは……

 見損なったぞ」


 セレニャ「……まぁ。そんな予感はしていましたけど」


 フレイ「そんな……本当なんですか?」


 問い詰められたルーファスは、少し間を置いてから反論するように打ち込んだ。


 ルーファス「い、いや……確かに後を追いかけてたけどさ。

 プレゼントあげたら喜んでたじゃん。

 服もいつも短いし、思わせぶりなことしてきたアークスさんにも非はあるんじゃない?」


 さらに、言葉は止まらない。


 ルーファス「ボイチャしてる時だって、周りからチヤホヤされて嬉しかったんでしょ?」


 その発言に、胸が嫌な音を立てた。


 アークス「そんな……。

 私、思わせぶりなんてしてません。

 ボイチャだって、ルーファスさんが強引に誘ってきたじゃないですか……」


 姫猫「私も……実は似たようなこと、されたことありますにゃ。

 アークスさん程じゃないですけど……」


 シルヴィー「実は私もですねぇ……昔の話ですけどぉ」


 次々と出てくる証言。

 もはや、言い逃れの余地はなかった。


 フレイ「……これは、流石に擁護できないかと」


 セレニャ「で……どうするの? マスター。

 私は正直、脱退させた方がいいと思うけど?」


 ルーファス「ちょ、ちょっと待ってよ!

 脱退は流石に勘弁して!

 ボク、悪くないじゃん!」


 視線のないチャット欄で、全員の意見が俺に突き刺さる。


 どうする……?

 確かに、アークスさんや他のメンバーに迷惑をかけていたのは事実だ。

 だが、仲間を切り捨てる決断を、俺はどうしても下せなかった。


 現実で、誰にも味方されなかった俺が。

 ここでも、誰かを切り捨てる側になるなんて――。


 ケイト「……ルーファスさんも、反省しているようですし。

 俺からも、しっかり言っておきます。

 これ以上争うのは、やめませんか?」


 それは、場を収めるための、精一杯の妥協だった。


 ルーファス「サンキュー!

 流石ギルマス。助かったよ」


 軽い言葉。

 あまりにも軽すぎる言葉だった。


 これで終わった――そう思いたかった。

 途中で抜けてしまったグスタフさんには、後で個別に謝ろう。

 そう考えた、次の瞬間。


 シルヴィー「……納得いきませんねぇ。

 ルーファスさんから、ちゃんとした謝罪もありませんし。

 また、同じことするんじゃないですかぁ?」


 姫猫「私も……怖いですにゃ。

 前にもやっていたわけですし……。

 ごめんなさい、私は今日限りで脱退させていただきます」


 無機質なシステムメッセージが表示される。


『姫猫さんが脱退しました』


 †クラウド†「確かに。

 ルーファスのせいで犯人扱いされたし、気分悪いから俺もやめるわ」


『†クラウド†さんが脱退しました』


『シルヴィーさんが脱退しました』


 アークス「……なんだか、私のせいで皆さんの気分を害してしまったみたいで……

 すみませんでした」


『アークスさんが脱退しました』


 一人、また一人と、名前が消えていく。


 セレニャ「……皆、いなくなったわね。

 私もこの雰囲気、好きじゃないから。ごめんなさいね」


 フレイ「……すみません。

 セレニャさんが抜けるなら、僕も抜けます」


『セレニャさんが脱退しました』

『フレイさんが脱退しました』


 まぐろん「ここまで人数が減ると、ランキングにも影響しますし……。

 すみません、自分は別のギルドに行きます。

 今まで、お世話になりました」


 漆黒のルシファー「我らの因果も、此処(ここ)までのようだ……

 さらばだ、我が戦友(とも)よ」


 ファンタ「……ごめんね。団長……」


 ルーファス「あー、その…ボクも辞めるよ。ギルマスにこれ以上迷惑かけるのも悪いし、なんていうか…スマン」


 ケイト「そんな……待ってください!

 皆さん……!!」


 虚しく響く叫び。


『まぐろんさんが脱退しました』

『漆黒のルシファーさんが脱退しました』

『ファンタさんが脱退しました』

『ルーファスさんが脱退しました』


 チャット欄に残ったのは、

 動かない自分のキャラクターと、静寂だけだった。


 ――ここも、俺の居場所じゃなかったのか。


 現実でも、

 そして、逃げ場だと思っていたこの世界でも。


 俺は、結局――何一つ、守れなかった。


 俺の思いも虚しく、ギルドメンバーたちは全員脱退してしまった。


 チャット欄には、もう誰の言葉も流れない。

 そこにいるのは、動かない自分のキャラクターと、冷たい沈黙だけ。


「……ははは」


 乾いた笑いが、喉の奥から勝手に漏れた。


 ゲームの世界ですら、俺は結局独りぼっちなのか。

 現実でも、ネットの中でも。

 俺の居場所なんて、最初からどこにも存在していなかったのかもしれない…


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