馴れないクラスメイト
「お腹は空いているか?何か食べたいものはあるか?」
エイデは、学校での姿からは想像ができないほど爽やかな笑顔で俺の手を掴んだ。
「いや、お腹はそんなに空いていないよ。」
夢の中だからか、ただ単にお腹がすいていないのか。そういえば今までご飯を食べる夢は見た記憶が無いな。そもそも夢でお腹って空くのかな?
「そうか、なら紅茶を淹れよう。」
そう言ってエイデは俺の手を引いて歩き出した。
「ここで食べよう。」
屋根が太陽の光に照らされているガゼボの中へ入り、エイデの隣に腰を下ろす。目の前のテーブルの上には豪華なティーセットが並んでいた。エイデはローズ色の柄のカップを取り、ポットからは夕焼け空のように美しい琥珀色の紅茶が流れ、注がれる。そのカップを俺の前に差し出した。紅茶の名前とか種類はよくわからないけどすごくいい香りがする。
「どうぞ」
カップを手に取り一口飲む。
「...美味しい。」
夢の中でこんな贅沢できるなんて、ラッキーだな。
「そうか、それはよかった。」
エイデは嬉しそうな顔をして俺を見つめていた。
「なに?」
「いや、気にするな。」
こっちのエイデ...結城は馴れないな。こんなに会話をしたのは初めてだし。なんだか不思議だな。俺が知らないだけで普段からこんな感じのかな?現実でも大して結城のこと知らないし、当然か。
エイデは浮かない顔をして口を開いた。
「ユウマ、お前は何でここへ来たんだ?」
俺がここへ来た?結城が俺の夢の中へ出てきたんだろ?
「どういう意味?」
「...ごめん、そうだよな。何でもない。」
やっぱりここでの結城は変なやつだ。
「そっ、そういえばエイデって変わった名前だよな。由来とかあるの?」
気まづい空気に耐えきれず、思わず変な質問をしてしまった。今のは流石におかしかったかな?
「俺が産まれるとき、トラブルがあってなかなか出てこかなかったらしいんだ。それで帝王切開するってなって、切開する直前に奇跡的に出てきたんだって。だから暗い影から出てきてくれたってことで影出ってつけたらしい。」
「なるほどね。よかったな、お母さんもエイデも無事で。」
「ははっありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。」
何気なく言った言葉にエイデは笑みをこぼした。こうして誰かと話してると、夢だということを忘れてしまいそうになるな。明日起きたらこの夢の中でのことも忘れてしまうのかな?それは少し悲しい気がする。
「あ。ねぇエイデ、ここに時計はない?」
夢に気づいてからまだあまり時間が経っていない気がするけど、夢って短時間で何日も進んだりすることあるし、時間見とかないと。
「さぁ、わからないな。」
「え?でもエイデはずっとここにいたんだろ?」
最初まるで俺のこと知ってるみたいだったし。
「だって俺は――」
突然頭がぼんやりとして、目の前が真っ暗になった。