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09「斯くしてこうなったのだ。」

 我が輩のターンである。


 忘れていたが、地球人類eには我ら創造主の側からいっさい接触していないので、彼女は異世界に送り込まれた理由も成り行きも知らないのだった。それにしても転生に目的が必要とは、地球人類も案外まじめらしい。


 話は変わるが、Tくんの世界はどうにもチグハグでいけない。


 彼が先輩と仰ぐSくんは実に広大で壮大な創造を行う。決して急がない性質のおかげで、地球では長い時間をかけて生命が発生し、進化を繰り返して人類が誕生した。


 Tくんが最悪なのは、そういう過程を華麗にスッ飛ばして進化の最先端である「人類」の表面だけをなぞり、世界を作ったことだ。断りもなく自分の創造に取り入れるだけでは飽きたらず、地球生命の生殖行動がグロテスクだと感じて方法まで勝手に変更している。他方、男女という性別には魅力されたのか残しておき、性的な接触を設定から破棄したため、とんでもなくいびつな世界が出来上がってしまった。


 当然、地球人類が進化とともに獲得した倫理、道徳、禁忌、罪悪といった観念も発達していない。生命の姿形と生活様式は中世並なのに対して生き様だけが原始という具合で、まるで一致しない始末だ。eくんが困惑するのも当然といえる。


 SくんはそんなTくんの創造を嫌いそうなものだが、彼も彼で、煽てればすぐに懐くというチョロすぎ問題がある。地球人類をパクったことだって、「リスペクトっす」とか何とか言われて誤魔化されてしまった。そういうところでも彼はしくじっている。


 そろそろ話を本筋に戻すとして。


 Tくんが求めたのは、破滅に向かう殺伐世界の方向転換だった。他方、Sくんはサルベージできた地球人類eに少しでも長く生きてほしいと願った。eくんが刺されても死なないのは、その意を汲んだTくんが「不死(しなず)」の特性を令嬢の死体に与えたからだった。ちなみに外傷では死なないだけで、寿命を迎えれば普通に死ぬ。


 いやまったく、Tくんの面の皮はいったい何枚くらい重なっているのやら。


 我が輩はeくんが悩む転生の「理由」について考える。何にせよ、世界の是正を託されたことは伝える必要があるだろう。なので我が輩は彼女の夢にちょちょいと干渉して、暗示をかけることにした。といっても、具体的な指示はせずに助けを求める儚げで神聖な像を見せるだけだ。そこからどんなメッセージを読み取るかはeくんの想像による。


 我が輩はそれをさっそく実行し……、地球人類eの解釈を見た。


 その結果は予想通りだった。Sくんのところの生命は自己肯定が高いと言うか、傲慢と言うか。そういうところも込みで我が輩はSくんの創造活動が好きなのだけれど。


 こちらの軌道に乗りつつも何かやらかしてくれそうなeくんに、我が輩は心からのエールを送った。Sくんも隣で見守っているのだから、是非とも頑張ってほしいものだ。

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