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11 幕間「夕餉」

 マオはルシルに運んでもらった食事を前に目を丸くした。


「葉っぱと、木の実? 果実? 種? 豆?」


「分からないこと多いですね貴方。ご飯もそちらとは違う感じですか?」


「私の世界でも食べていたものではあります。けど、ここまで原型そのままというか、もぎたて産地直送みたいなのはなかったなぁ、と」


「新鮮な方が美味しいですよ?」


「……異文化交流ってことにしておこう」


 器やカトラリーは全て木製だ。白色の人間は石の類が弱点なのだから、鉄からガラス、陶磁器に至るまで排除されている。軽量で割れる心配がないのは木製の利点だろう。


 マオは箸を手に、まずは花びらのように盛りつけられた若葉を口に運ぶ。


「葉っぱの味……」


「まあ葉っぱですので」


 雑草と言わない程度には不味くなかった。続いては赤い木の実に挑戦する。


「ふむ。小梅みたいな触感でほのかに酸っぱい。これは美味しいかも」


「じゃ、こっちの果実はどうです?」


「見た目はまんまリンゴだけど……。いやリンゴだわ、普通に美味しい」


「あとはこれとかいかが? 私も好きでよく食べるやつ」


 それは白と黒の縞模様が入った種で、大きさは小指の爪ほどだ。扁平でやや厚みがある。


「ひまわりの種っぽいな……。うわこれピーナッツみたいな味がする! 美味しい!! たくさん食べたら太りそう!」


「毎日両手いっぱいとか食べない限りそんなことにはなりませんて」


「そのくらい軽く食べちゃいそうなのよ」


「分かるぅ」


 白色の食事は木に成るものが中心のようだ。


「黒色さんたちは何を食べてるんでしょう?」


「さあ? 石を食べるという話は聞いたことがあります。あちらは樹木が弱点なので、少なくとも私たちと同じ食事はしていないと思います」


「石……。じゃあ、中間色さんは?」


「土でも食ってるんじゃないすかね」


「他人に興味なさ過ぎでしょ、貴方」


「おなかの足しにもならないことに興味なんて持ちます?」


「……知見を広めると人生もっと楽しいですよ」


「マオさんがそう言うなら心に留めておきましょう。片隅に」


「それで十分なのでどうぞよろしく……」


 マオは葉をさっさと食べてしまい、残った美味しいものをゆっくりと食べ進めた。その途中で箸を止め、


「そうだ。エジランカさんの家族構成と皆さんのお名前を教えてください」


「いいですよ~。お嬢様が三人兄妹で、真ん中のお兄さんがアルヴレド様ってのは覚えてますよね?」


「ええ。あと一番上のお兄さんがレヴィヲさん」


「そうです。お嬢様の母親――私がいつも奥様と呼んでいる方ですが、セデリア様と言います。旦那様はキヴラス様。そして御当主様はお嬢様の祖母に当たりまして、テレス様です」


「ふむ。あの近寄りがたい雰囲気の人がテレスお婆様かな……」


「お話すると意外に気さくな方ですよ? 何か鬱々としてるせいで近寄るなオーラが出てますけど」


「あと、相手がエジランカさんだし?」


「わはは。それが一番大きいかも!」


「こちとら笑い事じゃねーんですが」


 好感度がマイナスの時点から始めなければならないとは、辛い現実である。ルシルの話からテレスに対する恐怖は感じられないので、実力を示せば耳くらいは貸してくれるだろうか。


 マオは脳内にストックしてある個性から誠実な人格をいくつか選び出し、時が来れば誠心誠意で演じる用意をした。威光と権威に飲まれないように……と考えていくと、また一つ知るべき事柄が浮上した。


「ここの方々は家名をお持ちですか?」


「もちろん! こちらのお家はフラニーウ。白色陣営の最高位、白麗公家です」


「じゃあ、お婆様のテレスさんはフラニーウ家の当主で、白色陣営のトップ?」


「大当たり~。よくできました」


「この子の名前はエジランカ・フラニーウ」


「逆ですよ、逆。家名が先であとに個人名」


「そうでしたか。まぁそっちの方が馴染みがあってありがたいです。ちなみにルシルさんの家名は?」


「ルルフルです。ルルフル・ルシル。家は捨てたようなもんですけどね」


「ルルフルさん。何か響きが可愛いな」


「ええー? そんなこと言われたことないですよぉ?」


 マオが最後の種を食べ終わると、ルシルは蓋をしてあった一皿を取り出す。皿を閉じる半球を持ち上げ、露わになったのは白い花弁を持つ花だった。


「お嬢様の好物だったので、体が同じなら美味しく食べられるんじゃないかと思い持ってきました」


「すごく繊細なお花ですね。ってか花も食べるんかここの人」


「樹液を垂らして花びらが透き通ったところをパクリといきます。これは奥様が手ずから育ててらっしゃるものでして、花を咲かせるのがだいぶ難しいらしいです」


 指で摘む小さなカップから透明な樹液を数滴垂らし、するとみるみる花弁が透けていった。ルシルがどうぞと合図したので、マオはスプーンでそっとすくい、口の中に閉じこめた。


「おお! 癖のないすっきりとした甘さ! 美味しいですねこれ!」


「やはり」


「でも、私としては縞々の種の方が好みかも」


「ほぉー! マオさんは見込みがある。偉い! 素晴らしい!」


 ルシルはポケットの中から小分けの豆やら種やらを取りだし、あれもこれもと親鳥のように甲斐甲斐しくマオに分け与えた。

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