10「そうはならんやろ(なっとるやろがい)」
異世界に転生した地球人類は夢を見た。
光に包まれた幼子が何か言い募っていた。その様子は必死で、助けを求めているようだった。
転生の目的を疑った直後の出来事でタイミングが良すぎるようにも思えたが、そもそも転生自体も急だった。定番であればマオが死亡する等のきっかけを経て、夢うつつの空間で神的な存在から釈明を受けたり目的を説明されたりするものだ。だがマオの転生に際してそんなイベントはなかった。
理由はあくまで目の前の状況から推測するしかない。
お決まりのシーンをスキップするほどのっぴきならない事情があったのだろうか?
それで転生前に入る場面が後回しにされ、今になって夢に出てきた……のかもしれない。
しかし、発光する幼子から具体的な言葉はもらえなかった。
なぜ今回の転生に自分が選ばれたのか?
転生先がこの世界だったワケは?
何かを託されたマオは一人、考えた。
転生した世界には暴力がはびこっている。そこには人間に類する生命が生息しているものの、姿形はマオの知る「人類」とは大きく異なる。現地人と接してみたところ、彼女らの知性に反して周辺環境は不釣り合いなまでに原始的だった。この世界は奇妙に捻くれ、マオからすれば実にヘンテコだった。
とりあえず、数多ある命の中から「人類」が選ばれたと仮定しよう。あえての選抜なら、「人」であることに意味があるのかもしれない。さらに的を絞って――、地球人類とこの世界の人間とで相容れない要素こそが重要なのではあるまいか。
知性があるわりに理性も倫理もなく、人々は野性的な暴力に支配されている。
もしや、夢の中の儚い幼子はそれを矯正してほしいのだろうか?
チートらしき「瞬間治癒能力(仮)」の加護が与えられたのも、この残虐な世界でうっかり死なないためのお守りと考えれば妥当である。
むろん、本当のところは分からない。
あれこれ思案し、苦悩し、もしもを憂慮して……面倒になったマオはついに開き直った。
「間違っていたとしても、それは明確に指示しない神様が悪い。ということで!」
さすがは地球人類。彼らの素晴らしいところは、時に己を過信しすぎる点だ。分からないことをウジウジ悩んで同じところを延々回り続けるのではなく、勘違いだったとしても先に進む決断ができる。それは間違いなく優れた能力だ。その後、どうなるかは別として。
そうして、地球人類は自分なりに導き出した目標を胸に、異世界での二日目を迎えるのだった。




