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01「主は最後に言った。」

 しまった! と。


 悲鳴を上げたのは創造クラブの会員、我が輩が「しくじり大好きSくん」と呼称するそれだった。


 Sくんの創造物「宇宙」は滅んでしまった。原因は端的に不注意である。ウン百億年だかウン千億年だか続いたその世界は実にあっけなく、プッと間の抜けた音をたててクシャッと潰れた。


 しかしながらそれはSくんにとって大切な作品だったから、彼は破滅までの刹那にサルベージを敢行した。惑星か銀河をいくつかすくい上げられたらと思ったが、実際その指に引っかかったのは小さな小さな命ただ一つだった。地球という惑星に生息していた人類eだ。


 時に、その地球人類eはSくんと別の「面の皮が厚いTくん」が創造する世界に転生させる運びとなった。Sくんはチョロいので、Tくんにちょっと世界観をほめられただけでなびき、大切なはずのeくんをあっさりと引き渡したのだった。


 Tくんは飽き性だ。気が逸れるごとに作品を途中でほったらかし、新しい世界の創造に着手する悪癖がある。そして放置された世界は意図せぬ進化を遂げて崩壊するまでがルーティンだった。


 Tくんのさらに悪いところは、創造に失敗した自覚を持ちながらも生み出した作品への愛着がはなはだしい点だ。しかも平和平穏を好むハピエン厨なのだから、なお質が悪い。


 ところでTくんはごく最近、Sくんの作品を参考にして小さな円球世界を作った。球状に閉じた空間の内側に大地を敷き、山を連ね、多くの樹木を植えて、地球環境を模して人類ベースの生命を発生させた。人物の造形に極端なデフォルメを利かせ、それが元ネタとの相違でありTくんなりの個性だという。曰く、矮小で脆弱な命がキャッキャウフフとお花畑で楽しく踊る様を眺めたかったらしい。


 その結果どうなったか、諸君も既に想像がついているはずだ。


 例に漏れず観察に飽きたTくんはその世界を放り出し、新規に創造を始めてしまった。そこにちょうどSくんの悲劇が起こり、「そういえばS先輩の世界をパクった作品があったな~」と振り返ってみたら、倫理道徳が著しく欠如した残虐世界へと変貌を遂げていたのである。


 Tくんはキャッと悲鳴を上げて、一時の悲痛と絶望に任せてSくんから地球人類eをかすめ取った。そういう経緯でeくんは袋小路で八方塞がりの倫欠世界にカンフル剤として投入された。


 嗚呼、かわいそうに。


 とはいえ、世界を支配する上級種、その中でも最高位の家柄に転生できたのは不幸中の幸いと言え……、るかどうかはeくんの気持ち次第となろう。


 さて、孤立無援の地球人類eは異世界でどのような顛末をたどるのか。我が輩は一生命の輝きを記録すべく、しゃかりきに筆を執るのだった。


 なお、誤解のないよう書き留めておくが、我々創造主に性別というものはないため、二人称は全て「彼」で統一している。

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