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7.本当に愛する人

 それからオデットはジョエルにエスコートされながら、広間にいた国王と王妃の元へ向かった。



 先ほどのジョエルの冷淡な態度とは打って変わり、以前と変わらない二人の姿に貴族たちは急にどうしたものかと首を傾げたり、囁きあってざわめいた。


 ジョエルたちは招待客に次々とあいさつに回り、それから来賓として招かれていたマティアスのところへと進んだ。


「今宵は来てくれて、どうもありがとう。明日の結婚式もぜひ楽しんで貰えると嬉しく思うよ」



 そのようにジョエルから笑顔で挨拶されたマティアスは、呆然として信じられないといった表情を浮かべた。


「結婚式というのは、その、オデット嬢と……?」


「うん、もちろん。当たり前だよ。僕の婚約者は初めからオデットだけなんだから」



 手に持ったグラスを微かに震わせているマティアスをしり目に、ジョエルはオデットに微笑むと彼女を連れてその場から離れた。



 ジョエルはそのままオデットの両親の元に行くつもりだったのだが、ふとオデットが足を止めて会場から去っていくマティアスの方を少し振り返った。


 彼はとても不機嫌そうな顔をしており、見慣れない顔の男に何か文句を言うようにして共に去っていくところだった。


「急に止まってどうしたの?」


「大丈夫かしら、マティアス様。お顔を怪我していたようだから……」


 確かにマティアスの右頬には、何か刃物で水平に切ったような真新しい深い傷が2本あったのだ。



「オデットは優しいね。彼なら多分大丈夫だよ。それよりも、さあ行こう」


 気にする事はないと言うようにジョエルは彼女に向かって微笑んだ。



 二人が彼女の両親の元に行くと、久しぶりに見せる晴れやかな笑顔の娘にとても驚いていた。


 その隣には優しい笑顔のジョエルがいる事にも。



 二人で彼が正気にもどったのだと伝えると両親は大いに喜び、さらに明日の挙式は急遽、いや予定通りオデットとすると伝えると、なんて事だ! と言いつつも即座に快諾した。

 


 それから喜んでいるオデットの家族といくらか会話をしたあと、今日は月と星が綺麗に見れる晩だからせっかくなら見てきたらどうだと言われ、二人は再びバルコニーに向かおうとした。

 


 すると……


 ジョエル様! 何をなさってるのです? 私の事を放っておかないでください!


 と浮気相手であるカロリナが血相を変えて駆け寄ってきた。



 咄嗟にジョエルはオデットの前に腕を伸ばし、少し後ろに下がらせた。


「あなたには申し訳ないが、恥ずかしい事に自分は事故の後遺症で先ほどまで記憶をすっかり失っていた」


 でも今はっきりと記憶を思い出した。

 やはり愛しているのはオデットだけ。

 一時期、別人のような自分の相手をしてくれたあなたには、相応の礼はさせてもらう。

 しかし、今は元に戻ったので今後の相手はもう結構。

 どうか自分の事は忘れて、あなたもお幸せに。



 穏やかな口調だが彼はそう言い放ち、手を上げて近衛兵に引き下げさけるよう命じた。



「どうして? ジョエル様は私に本気だと言ってたじゃない! こんなの嘘よ! マティアス様だって、上手くいく恋のお守りだとアミュレットをくれたのに!」


 一方のカロリナは腕を掴まれながら喚きちらし、その場にいた貴族たちはただ困惑する事しかできなかった。




 翌日の挙式会場では軽い混乱が生じていた。

 


 まさか浮気相手のカロリナ嬢と結婚するつもりなのか!


 いや、違う。予定通り婚約者のオデット嬢との挙式だ。


 何を馬鹿な! 招待状にはカロリナ嬢の名前が書かれているではないか!



 そして、実際の花嫁の姿を目にした昨日の夜会での出来事を知らない貴族や僧侶たちは驚きの声を上げた。


 来賓として参列していた他国の大使や貴族たちもどういうことかと眉をひそめたり首を傾げたりしている。


 無理もない。


 花嫁として現れたのは結局浮気相手ではなく、本来の婚約者であるオデットだったのだから。



 厳粛な式が終わった後、あたりからは安堵する声や、おめでとうと大きな声で声援を送るかのような声が響いた。


 また当然のことながら、その後の宴席でジョエルは招待客から次々と花嫁がオデットだったとはどういうことなのか、と問い詰められた。


 これについてジョエルは、父の厳しい教育の影響で疲れが溜まっており、うっかり確認が漏れてオデットの名前を間違えたまま招待状を送ってしまっただけだと説明し、笑い話として語った。



「浮気相手と間違えたのだろうですって? そんなわけありませんよ。僕の心は出会った頃からオデットにしか向けていません」


 ジョエルはそう言って、オデットの頬にキスをすると祝宴の場はなんだそうだったのか、まあ結果よければ全てよしだろうと大いに盛り上がった。




 そして一連の儀礼はつつがなく終わり、二人は穏やかに初夜を迎えていた。


 先にベッドに腰掛けていたオデットの横にジョエルは腰掛けると、彼女の目を覗き込むようにして見つめながら、彼女の両手を握りしめた。


「これからは本当の僕がこうやって君の側にいる。もうジョエルの人形はベッドには不要だよ」


「ええ。あなたがいれば大丈夫」


 ジョエルは手を離すと、オデットの頬を指先でなぞりそのまま唇を重ねた。


 夢の中で再会した時と変わらぬ、愛を感じる甘い、甘いキス。



 二人は離れ離れだった時を埋めるかのように、満月の夜の元でお互いの想いを確かめ合った。

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