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14.贈り物

「あの忌々しいジョエルの奴が! 早く次の手をうたねば……!」


 自国へ帰還早々、マティアスは悪態を吐きながらソノマはどこだ! と城の中で大きく叫んだ。



 慌てた様子でお呼びでしょうか、とソノマが駆け寄って来るなり、マティアスは間髪入れずに彼を強く平手打ちした。


「この使えない術者め! 役立たず! お前なんてクビだ! オデットだって全然こちらに関心を向けなかったではないか! あぁ、もう、二度とその面を見せるな!」



 マティアスのあまりの剣幕に圧倒されたのだろうか。


 ソノマと呼ばれた男は、ヒッ! と小さく声を上げて顔を真っ青にした。



「わ、私だってもう関わりたくありません! いやだ、いやだ、黒い闇が迫って来る! 私は呪われる筋合いなどない! 死にたくない!」


 そのよう意味不明な言葉を叫びながら、ソノマはマティアスに背を向けて一目散にその場を逃げ去っていった。




 だが、彼を殴ったところでマティアスの怒りは収まらない。


 荒々しく自室の扉を開けると、棚から高級酒を取り出してグラスに注ぎ一気に飲み干した。



 彼はテーブルに音を立てるようにしてグラスを置き、髪をくしゃくしゃにしながら心の中で叫んだ。



 うまくいってると思ったら、まさか土壇場でオデットと結婚するなんて。


 やはりもっと強力な魔術師を探し出し、なんとしてでもあの国と彼女を手に入れなければ。


 王都からも離れたど田舎で、兄たちやあの女(父の寵姫)に笑われながらつまらない人生を送るなんて溜まったもんじゃない!



 父は父で、あの歳であの女とさらに男子を設けて喜んでいるが……あんなのどう見ても明らかに一番上の兄の子ではないか!


 宮廷に慣れないあの女を日々助けただけだと言っているが、そんな真っ当な理由であるはずがなかろう。


 兄の浪費癖は一見するとただの美術品集めにしか見えないが、それを隠れ蓑に色んな女たちにやれ宝石だのドレスだの買い与えて、良いように貢がされているだけなのに。


 そしてあの女にはそれだけではなく子種を貢いでる。



 その事を指摘したら、私の事など全く信用せず『愛しているのは陛下だけ』とあの女の涙ですっかり丸め込まれてしまうとは、我が父ながらなんと愚かな!

 

 頬の形や目の大きさが幼い頃の父にそっくり?


 こんなにも父を求めてくるなんて、まるで天使のようだと目尻を下げるだけ。


 その上、父の死後、あの女が困らぬように弟には私よりも上の爵位と恵まれた領地を与えるだと? ふざけるな!



 私の母は名門貴族の出だというのに。


 本来であれば、次兄に今の地位を譲った代わりにあの領地を得られたというのに。


 なぜ、あんな庶民出の女のためなんかのために!



 オデットさえ手に入れられれば、まとめて全て叩き出してやる!



「ああ、ジョエル! 奴は一体どうやって術を破ったんだ! くそっ! あいつは大した苦労もせず、呑気な顔をしながら王太子になった癖に! 本当にしぶと……」


「それは愛の力だよ」


 怒りのこもったマティアスの独り言に対して、聞き覚えのある声で誰かがそのように背後から返した。



 この部屋には今自分一人しかいない。


 驚いたマティアスが振り向くと───



 そこには彼が今この地上の中で最も嫌っている男、つまりジョエルが微笑みながら立っていた。


 さらに、彼は友達にでも会っているかのように軽く手を振ってみせた。



「な、なぜお前がここにいるんだ!? どこから入って来たんだ!」


「どこから? それはそこからだよ」


 ジョエルはそう言って大きな鏡を指差した。



「鏡だと? ふざけるな! どこからかよじ登ってでも侵入して来たんだろう。衛兵! 衛兵はどこだ!」


「呼んでも無駄だよ。今、この部屋以外は全て時が止まるようにしてあるんだ」


「なっ……」



 それよりも、とジョエルは言葉を続けた。


「君に贈り物がある。気に入ってくれると嬉しいんだけど」


 彼はそう言って、ある扉の前に移動した。


「この部屋に用意してある」



「贈り物だと? どうせその扉を開けた瞬間、矢でも飛ばす仕掛けでもしてるんだろ?! そんな手に騙されるはずあるか!」


「そう。そんな罠は仕掛けてないけどね。いいよ。それを証明するために僕が扉を開けよう」


 ジョエルはドアノブに手をかけてその扉を開けた。 



 警戒していたマティアスだが、確かにジョエルが扉を開けたところで何も起きなかった。

 普段と変わらないままだ。



「贈り物は中だ。さあおいでよ」


 中に入ったジョエルは早くとでも言うように手招きをした。

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