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13.擦り合わせ

 ここまでのジョエルの話を聞き、サルバトールはうんうんと頷き、ニヤけた笑みを浮かべながら彼に拍手を送った。


「お見事! さすがあなた様でいらっしゃる。実はですね、私も探ってみたんですよ。なかなか高度な事をやる人間だから、術者を割り出すのに時間が掛かると思ったら……なんと! すぐにわかってしまったのです」


「へえ。もったいぶらずに教えて欲しいな」


「ほほほ。承知しました。相手は流派からして、間違いなく隣国の者でした。しかも自分はできる術者だと自負している。ですが、私から言わせればこんなの三流以下ですよ」



 サルバトールによるとこうだ。


 自分のように、一流の術者は痕跡が残らないよう後片付けをちゃんと丁寧にやると言うのに、この術者ときたら自分がかけたと言わんばかりに術の残り香を残している。



 もちろん、偽装してる事も考えてみたがそんな痕跡すらない。


 確かに仕事は早いかもしれないが、仕上がりは雑で基本がなっていない。そんなところだと。



「それと、あともう一つ面白いことがありました」


「面白いこと?」


「ええ。オデット嬢がいらした時、彼女、魅了魔法をかけられていたんです。残り香は同じでしたから、術をかけたのは同一人物ですね」


「……相手は? 一体誰に惚れるように掛けられてたんだ?」


「残念ながら詳しいところまでは。ただ、魅了魔法は強力ですからね。その跡を辿り、その惚れさせたかった相手と会った時にわかりやすいよう、相手の顔に目立つような傷をつけておきました」



 サルバトールはここです、と言って自身の右頬を2本の指で水平にスッとなぞった。


 その位置と傷の様子に、ジョエルはやはりマティアスかと顔を顰めた。



「ほほほ。その様子ですとやはり確定ですか。でもご安心ください。オデット嬢のご様子を見た限り、そんな術をかけても無意味だったみたいですけどね。あれは相手に僅かでも好意があってこそ倍に増える。でもオデット様は全くのゼロ。単に証拠を残していってくれてただけですね」


 むしろその状態で魅了魔法が掛かっていたなんて、相手が必死すぎるようで滑稽。


 とはいえ、オデット嬢にそれをお伝えする訳にもいかないし、こちらは必死に笑いを押さえながら術を解除しましたよ。


 好意はゼロだったので取り除くのは物凄く簡単でした。


 やはり愛の力は偉大なのです! 


 そうサルバトールは両手を広げて声高らかに叫んでいるが、ジョエルの方は何か考え込んでいるのか、脚を組んで顎に手をやり一点に集中している。



「ただ今回はあなた様には呪いを返す魔術をかけておいたのに、防ぎきれなかった負目もありますからね。魂はかろうじてオデット嬢の愛ゆえのおかげか思い入れのある人形に宿り、現世にとどまることが出来ましたが、何も対策を講じていなかったらきっとそのまま何処かへ旅立ってしまっていたでしょう」


 彼は腕を組み、急に真面目な面持ちに変えた。


「恐らく即死魔法が回避されたため、こんなまどろっこしい方法で攻めてきたと私は推測します。そして私もまだまだということがわかりました。もっと人を使って研究せねばなりませんね! あ、ちなみにあなたには以前より強い呪いを返す魔術をかけておきました。そこはちゃんと挽回しておきたいのでね」


 ジョエルはさすが一流の術者は違うと言って背を正すと彼の事を見つめた。



「ふぅん。挽回か。それならついでにこれも頼んでいいかな? あなたのデータとしても蓄積できるだろうし」


「ええ、どうぞ」


「僕が不在の間、僕の体の相手をしてくれた令嬢だけど……どうするかわかってるよね? あとで子供がいると言われても困るんだ。それにもし、そんな事をオデットが知ったら、いくら偽者の所業とはいえ悲しむ。まあ、彼女も気の毒ではあるから、優しくしてあげて欲しいかな」



 彼の願いにサルバトールは畏まりましたとニヤつきながら返した。


「ではなるべく、彼らには惨めったらしい最期を迎えるように。お相手のご令嬢には優しくできるように調整しておきましょう」



 ほほほほ……とサルバトールは笑い声を上げたが急に笑うのを止めた。


 その最中、何か思いついたようだ。


「ああ。ついでに私の魔術を看破した人間にも、調子に乗った戒めも込めてお返ししておく事にします。私の研究を自由にやらせてくれる、あなた様が再び狙われても困りますからね。そして何より私は自分の実験を邪魔する輩は大嫌いですから! とことんやって差し上げますよ」



 ではまたお会いしましょう。


 そう言ってサルバドールは椅子から立ち上がると、ジョエルに一礼して部屋に飾られている大きな鏡の中に溶けるようにスッと消えていった。



 部屋に残ったジョエルは、やれやれとため息をついた。


 いくらサルバトールが天才的な術者とは言え、おそらくマティアスもすぐ次の策を練ってくるだろう。



 自分で願ったこととはいえ、さすがに上の兄を三人ともいっきに始末してもらったのは少々浅はかだったか。


 こんな時のために、せめて平凡だった一番上の兄だけでも残しておけばよかったのかもしれない。



 だがしかし、なるべく早めに世継ぎは作ることとしよう。


 そうなれば、マティアスだけではなく他に王位を狙っているものの牽制にもなる。



 それに世継ぎの母となればオデットの存在も盤石だ。

 母になれば外野から彼女に対して煩くも言われまい。



 そう、オデット。

 僕の無垢なる心。魂。



 もう誰にも君を傷つけさせやしない。


 僕が守る。

 だって僕は君のことが……



 次の一手をどうするものかと考えながら、ジョエルは左手に光る指輪を見つめ穏やかに笑みを浮かべるのだった。

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