11.回想
二人が出会ったのは、ジョエルが家族ともども招かれた別国での夜会での出来事だった。
「我々はこれから内密の話があるんだ」
父や三人の兄たちから、終わるまでどこかで暇を潰してろとジョエルは目の前の重そうな扉を閉め切られた。
まあ、いつものことだ。
自分は立場を弁えなければならない。
兄たちと自分は母が異なる。
あくまでも自分は予備の予備として作られた存在なのだ。
ただこの王家の血統を絶やさぬためだけの……
そう思いながら、彼は話し相手も踊る相手もいないまま、会場内をうろつき、突き当たったテラスで退屈さを隠さぬまま夜風に当たる事にした。
すると───
「おやおや。あなたはもしや、ジョエル王子ではありませんか?」
一人の男が馴れ馴れしく彼に向かって話しかけてきた。それがサルバトールだった。
ジョエルにとってサルバトールの第一印象は、目つきも鋭く野心ある男といった感じだった。
自分は王子だと言うのに、恐れもせず話しかけてくるなんて。
変な男だと思ったが、退屈凌ぎに相手をするのも悪くはないと彼は話に付き合うことにした。
「あなた様と私は似ている」
サルバトールはジョエルの気持ちを見透かすようにそう語った。
自分は魔力に優れているというのに、この国では魔術は危険視されており、我々のような魔術師の家系は冷遇されている。
もし、今後そちらの国で好きなように魔術研究をさせてもらえるのなら、何か願いを叶えて差し上げましょう、とサルバトールはジョエルにもちかけてきたのだ。
もちろんジョエルは幽霊も悪魔も信じていないのだから、魔術についても信じていなかった。
それにむしろ、こんなのは典型的な詐欺ではないか。
やはりこの男はどうやって潜り込んだのかわからないが卑しい者か。
そのため彼はサルバトールにこう返した。
一つだけなら信じられない。
3つ叶えたら信じてやる、と。
一つ目。
我が国には金脈があると言われているが、どう探しても見つかりやしないのでそれを見つけてほしい。
もちろん本当に見つかったのならば、そこから得られた収入の一割をそちらに報酬として渡そう。
二つ目。
研究させてほしいと言っても、自分は第四王子でしかも母は後妻のうえ、後ろ盾の弱い娘。
秀でてるといえば、見た目の良さと健康な子供を授かりやすい血筋というだけ。
つまり王子といっても、見ての通りこのように暇をしている。
さほど権力はないので、我が国での地位を確固たるものにしてほしい。
三つ目。
今の婚約者をどうにかして欲しい。
すごく変な娘で勝ち気どころではない。
あれはまさに異次元から来た怪物だ。
仮に子をなすためだけに夜を共にするにしても、体が言うことを聞かずその役目を果たすのがかなり難しいと思う。
そしてできないことを責められることが目に見える。だから彼女を自分好みの女性に変えてくれ。
いや自分好みに変えるだけでは足りない。
むしろいっそのこと別人に変えてくれないか。
これら全ての願いが近日中にかなったら、僕の友人として我が国で魔術研究を行えるように手配しよう。
まあ、どうせこんな願いは叶うはずはない。
馬鹿馬鹿しいと思いながらも、ジョエルはサルバトールに願いを伝えた。
するとなんとその一週間後。
ジョエルの部下がついに金脈を発見し、金脈の権利と管理はジョエルが担当する事になったのだ。
そしてさらに彼の兄弟、オデットのその後は……
かくしてこうやってジョエルとサルバトールは、今に至る付き合いがはじまったという訳だ。




