悲しい鳥
私が凄くつらくて でも、誰にも相談できなくて・・・・・
それでも未来をあきらめ切れなかったときに葛藤しながら書いた初めての童話です。
落ち込んでいる人に読んでもらいたい作品です!!
ひっそりとした薄暗い森の中で、悲しい鳥は長い脚を底なし沼に捕われていました。
遥か上空には仲間が楽しそうに飛んでいますが、誰も気づいてくれません。
悲しい鳥は思いました。
――自分は澄み切った青空で、純白の羽を羽ばたかせて大空を舞うべきなのに――と。
けれど、実際は汚い泥に濡れて真っ黒になり飛ぶどころか、歩くことさえできない惨めな動物になっている。
(このまま死んでしまおう)
悲しい鳥は、死を覚悟しました。
不思議なことに死を覚悟してしまうと、怖いとか、悲しいとか、そういう感情は感じなくなっていました。
今まで、死にそうなくらい苦しいことや悲しいことを乗り越えてきたけれど、本当に死んでしまうときは、こんなに穏やかなものなのかと悲しい鳥は思いました。
それなのになぜ、皆、死を恐れるのでしょう。
悲しい鳥には答えが出せませんでした。
そのとき、真っ黒なカラスの集団がやってきました。
「あら大変だ。ご自慢の真っ白な羽が汚れていますよ」
「いや、あれが今の流行なのよ」
「そうしたら、私たちは流行の最先端にいるってこと?」
「じゃあ、もっとこの鳥を黒くしてあげましょう。こんなに中途半端な色ではかわいそうだわ」
そういって、カラスたちは悲しい鳥に泥をぶつけました。
次第に、ぶつける泥の中に石が混ざるようになり、その石は、悲しい鳥の目に当たって血が流れました。
カラスたちはそれを見て笑いました。
悲しい鳥は、自分の身に起きていることが、まるで他人に起きていることのように感じました。
やがてカラスたちは、悲しい鳥がまったく反応しないので、飽きてどこかに飛んでいってしまいました。
また静かになりました。
悲しい鳥は思いました、どうして放って置いてくれないのでしょう。
こんな底なし沼にはまることでさえ惨めなことなのに、どうしてカラスたちに馬鹿にされなければならないのでしょう。
自分の運の悪さを呪いました。
けれど、それ以上に何も考えずにお気楽で生きているもの達に腹が立ちました。
そして、だんだん悲しい鳥は一人で死ぬことに怒りがわいてきました。
その時、目の前に一匹の子供の白ウサギが出てきました。
悲しい鳥は考えました。
一人で死ぬのは悔しい、だからこの子ウサギを道連れにしてしまえばいいと。
「ねえ、そこの子ウサギさん。私を助けてくれませんか?」
子ウサギは、悲しい鳥を見ました。
「大変!今、みんなを呼んでくるから待っていて」
悲しい鳥はあわてました。
(こんな姿を大勢の動物に見られるなんてとんでもない!)
しかも、子ウサギを道連れにしたいのに、ここで逃げられては困る。
そこで、悲しい鳥は嘘をつきました。
「もう少しで抜けそうなんだ、だから子ウサギさんが少し手を貸してくれたら、自力でここから出られそうなんだ」
「けど、ここは意外と深いんだ。待っていて、すぐに戻ってくるから!」
そう言って、子ウサギは行ってしまいました。
また静かになりました。
(きっとあの子ウサギは帰ってこないだろう。きっと、道連れにしようとしたのがバレたんだ)
どんなに悔やんでも、失敗したことは変わりません。
どうしてこんなにうまくいかないのだろう。
本当なら、こんな泥だらけの地上の世界など知らなくても生きていけたのに。
空から見る森は、とっても綺麗でした。
緑の中に、ピンクや赤、黄色などのカラフルな花がじゅうたんの模様のように見えました。
けれど今、森の中からは緑以外の色を見つけることはできません。
悲しい鳥は、友達のことを思い出しました。
いつも羽の色の美しさについて語り合って、自慢していました。
そして、少しでも汚い色が混ざっている動物を見つけると軽蔑していました。
それなのに、軽蔑していた動物たちよりもはるかに今の自分は醜いのです。
きっと、こんな姿を友達に見られたら大笑いされ、馬鹿にされるでしょう。
(それは耐えられない!)
いつの間にか雨は止み、悲しい鳥のところに木漏れ日が差し込んでいました。
木漏れ日といっても、日差しは強く、泥に濡れた羽が乾いていくのがわかります。
羽が乾いたところは毛羽立ち、光沢もなく、泥の粉を吹いていました。
自慢の羽も、泥がこびりついたまま固まっています。肌は引きつりしわだらけです。
もうこれ以上醜い姿はないと思っていたのに、乾いた姿はもっと惨めでした。
底なし沼の泥は、もう少しで悲しい鳥の羽を覆ってしまうところまできていました。
(やっとこの姿から開放される)
悲しい鳥が安堵したとき、大勢の動物の声が聞こえてきました。
「みんな、連れてきたよ!」
それは、あの子ウサギでした。
「余計なことをするな!!」
悲しい鳥は子ウサギを怒鳴りつけました。
「どうして放っておいてくれないんだ。私はこんな惨めな姿を誰にも見られたくはなかったのに」
「でも、約束したし・・・」
子ウサギは、べそをかきはじめました。
「そういうのを、おせっかいというんだ」
すると、今まで黙っていた森の動物たちは、悲しい鳥に言いました。
「どうしてそういうことをいうんだい?あの子は必死になって、君を助けようとしているのに」
どうして自分は、こんなに泥だらけで、しかも汚い森の動物たちに哀れまれて頼んでもいないのに助けられなければならないのか。
「あなたたちには関係ないだろう。さっさと帰れよ!」
しかし動物たちは帰りません。
それどころか、木の枝にツルをたらし、見るからに悲しい鳥を助ける準備をしています。
「どうして帰らないんだ」
すると動物たちは言いました。
「あの子と約束したんだ。君を助けると。君のことはどうでもいいけれど、あの子との約束は守りたいからね」
(こんなに汚い鳥を助けてどうするのか)
それでも、動物たちは自分たちの危険も顧みず、汚れるのもかまわずに一所懸命になって悲しい鳥を助けようとしていました。
「ほら、少しは出ようとしろよ」
小さなリスが、悲しい鳥の羽根を持ち上げようとしていました。
いくら約束したとはいえ、どうしてここまでできるのか、悲しい鳥は疑問に思いました。
けれど、悲しい鳥を覆う泥は思ったよりも多く、いくら動物たちががんばっても、悲しい鳥を助け出すことはできませんでした。
「もう、いいよ」
悲しい鳥は、ぽつりと言いました。
「もう、死ぬしかないんだ、放っておいてくれよ」
あまりの投げやりな態度に、動物たちはあきれ果ててしまいました。
それでも、自分たちではどうしようもありません。
動物たちが途方にくれていると、上空から何千羽という数の鳥の群れがやってきました。
その中には、悲しい鳥がいた群れもありました。
そして、あの子ウサギも鳥の背中に乗っていました。
「もっといっぱい仲間を連れてきたよー!」
悲しい鳥は、無邪気に言う子ウサギに怒りを感じました。
(よりによって、何で仲間を連れて来るんだ!)
これできっと自分はいい笑いものにされる、そう思いました
ところが、なんと馬鹿にするとばかり思っていた仲間たちが、汚れるのもかまわずに悲しい鳥を助けようとしているのです。
彼らは自分たちの足に泥のついた縄をくくりつけ始めました。
「もう少しで助かるからな!」
大笑いするであろう友人は、悲しい鳥に励ましの言葉をかけました。
何が起きているのか、悲しい鳥には理解できませんでした。
ただ、仲間たちや見ず知らずの森の動物たちが、悲しい鳥を助けるためだけに汚れを気にせずにがんばっているのです。
そして、ついに悲しい鳥の体は、底なし沼の泥から開放されたのです。
「ありがとう」
悲しい鳥は、みんなに心からお礼を言いました。
醜い姿を見られることを嫌がり、死まで覚悟していたのに、なぜか悲しい鳥はホッとしていました。
「よかったね」
子ウサギも、自分の家族が助かったかのように喜んでいました。
「どうして、私を助けてくれたの?」
悲しい鳥は子ウサギに尋ねました。
「だって、あのままじゃ鳥さんは死んでしまうでしょう?」
当然のように子ウサギは答えました。
どうしてみんな、こんなに優しいのでしょう。
自分ひとり死んでしまってもいいと思っていたのに、みんなから“助かってよかった”という思いしか感じられないのです。
「あの・・・」
「なあに?」
「さっきは、ごめんなさい」
悲しい鳥がいうと、子ウサギは小首を傾げていましたが、さっきのことだとわかると悲しい鳥に笑顔で言いました。
「別にいいよ。見られたくないって気持ちもわかるし。それによくママに、おせっかいは止めなさいって怒られるんだ。気にしないで」
そう言って、子ウサギは両親に呼ばれていってしまいました。
「さあ、身体の泥を落としに行こう」
その声に振り向くと、自慢の羽に汚い泥をつけた友人がいました。
「汚れちゃったね」
「洗えばいいさ」
友人は気にしていないようでした。
「でも、自慢の羽根なのに」
悲しい鳥が言うと、友人は少し照れたように言いました。
「こんな汚れより、君が助かってくれてよかったよ。汚れは洗えば落ちるけれど、君がいなくなっても代わりはいないからね」
悲しい鳥は嬉しくて、嬉しくて涙が出てきました。
カラスたちから受けた傷からは、まだ血が流れているけれども、まったく気になりませんでした。
「ありがとう、もうだめかと思った」
悲しい鳥が言うと、友人は“いいから”と、綺麗な池まで連れて行ってくれました。
「身体くらい、自分で洗えよ!」
友人は、からかいながら言いました。
悲しい鳥は自分が思っていたものとは違う展開に、心がくすぐられる思いでした。
少し前までは、自分は世界で一番不幸で、誰も助けてはくれないのだと思っていたのに、実際はみんな必死になって助けてくれたのです。
身体中についた泥と一緒に、心の汚いものも取れていくようでした。
夕暮れになる前には、悲しい鳥の羽も乾き、寝床に帰れるくらいまでになりました。
「本当にありがとう、子ウサギさん。そして皆さん。感謝しています」
そういって、悲しい鳥は森の動物たちとお別れをしました。
鳥たちが集団で飛ぶ姿は、茜色の空に、真っ白い貝で作った染料で、筆で書いた一筋の線のようでした。
End
<あとがき>
「悲しい鳥」いかがだったでしょうか。
童話というジャンルをとりながら、かなり長い物語になってしまいました。
ここまで読んでいただいて、本当に感謝しています。
「この話を書いたのは、解説文にもあるとおり、私が人生のどん底(だと当時は思っていた)にいたときです。
切り開かれる未来なんかぜんぜん感じられなくて、すごくひねくれていました。でも、いつかは変るんじゃないかとそう願ってこの童話を書きました。
だから、この物語を発表するときはいつもドキドキしています(笑)
この物語の本質を読み取ってくれると、とっても嬉しいです。
最後に、
あなたに幸運が訪れますように☆」
と、18年前の私が書いたものを今(2025年)の私が受け取りここにUPしています。
あの時の私は、「こんな結末のような世界があってほしいな」という願いを込めて書いていました。
今の私はあの頃より「そういうこともあるのかもしれない」と、ポジティブに世界をとらえています。
改めて、この物語に出会った人が幸せになりますように。
2025.03.22