マグカップの魔法

　テーブルにマグカップが二つ並んでいるのは、あなたが、会社に行く前に一緒にカフェオレを飲んだから。　

「洗っておこうか」　　

　とも思ったりするのだけれど、洗ってしまうとあなたが帰ってくるまでの長い時間に耐えられない。

「私は、二つ並んだマグカップを眺めて寂しさを誤魔化すのだ」　　

　そう、誤魔化すのだ。

　これは挑戦であり、勝負である。そしていつも私は負け、どうしようもないほどに寂しい時間を過ごすことになるのである。

　ああ、マグカップの魔法よ。もう少し長く効いておくれ。