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後悔先に立たず

作者: DEED

 冗談でもやってはいけないことがあるんだなって、今になっては思うよ。

 

 最初はさ、ほんの悪ふざけだったんだよ。

 ネットでさ、祠を壊すホラーって流行ってたじゃん。

 だからさ、逆に作って置いたらどうなんだろって思ったわけよ。


 言ってそんなしっかりしたやつではないよ。素人が作った犬小屋に毛が生えた感じの木で作った、腰に力入れたら普通に持ち上げられるぐらいのサイズのやつ。

 親父が仕事辞めた後の趣味としてDIYやっててさ。そんな中で余った木の板から適当に作ったんだ。まぁ見様見真似ってやつだよ。

 それをさ。家の近くにあった空き地に置いてやったんだ。

 そこには前に古い家が建ってたんだけれど、住んでた人が亡くなったのかそんな理由で取り壊されてそのままだったんだよ。

 

 置いた時の写真は撮ったけれど、SNSに『祠建ててみた』って書くのは流石に躊躇ったな。結果としてそれだけはまじでやらなくてよかった。

 

 どうせ、管理会社かなんかが撤去するってオチだとその当時は思ってた。

 次の日見に行ったら、誰かが花を置いてた。

 誰が置いたのかは知らない。まぁ祠があったら花を供えたくなる人がいたんだろうな。

 そうして放置してたら、どんどんそこの祠に花とかジュースとかお菓子とかいろんなもんが置かれていくようになっていったんだよ。

 誰も違和感を持たないことが怖かった。そこには何の話もないただ古い家が取り壊された跡に置かれたなんでもない祠もどきが本物だと思われてるんだと思った。

 しばらく、そこには近づかないようにしたよ。

 

 

 ある日、ふとその祠を見にいったら子供の声がした。


「ありがとうございます」


 まじでビビったよ。普段子供に話しかけられる経験とかなかったからさ。

 なんとか、「なにが?」って振り返りながら言い返せたんだけれど、今思えば振り返るべきじゃなかったな。


 ちっちゃい男の子みたいな子が立ってた。女の子だったかも。どっちにも見えるような感じだったんだよな。

 白い服ってぐらいしか服装の記憶がないんだ。それより顔のほうがヤバかったから。

 ニヤァって言葉がこれでもないってぐらいに似合う顔してたんだよ。どうやったらそんな表情できるんだろうってレベルで口の両端を無理やり釣り上げてる感じだった。

 そいつは俺がビビっているのなんかを無視して繰り返した。


「ありがとうございます」


 子供らしさがある声なのに、まるで機械音声みたいに抑揚がない声だったよ。

 子供相手にビビって走って逃げるなんてなんかプライドが許さなくてできなかったからゆっくりと睨みつけながら帰ったんだけれど、そいつはずっと同じ表情で笑ってた。


 

 それからだよ。

 事あるごとに「ありがとうございます」って言われるようになった。


 当たり前の事っぽいだろ? 違うんだよ。

 なんかそんなことをした記憶がないのに「ありがとうございます」って言われるんだよ。

 

 コンビニで何も買わなかったのに「ありがとうございます」って言われる。

 ゴミ捨てるために階段ですれ違っただけで「ありがとうございます」って言われる。

 みんなが俺に「ありがとうございます」って言ってくるんだ。


 あの子供の件で自意識過剰になってんのかなって最初は思ったよ。でもそうじゃない。

 何度も俺の頭がおかしくなったのかもしれないと思ったよ。いやもうおかしくなってるのかもしれないな。

 決定的だったのは俺の親が「ありがとうございます」って俺に言ってきたことだ。

 

 俺さ、それまでろくなことしてこなかったから。親から感謝とかされたことないんだよ。

 働きもせず、ネット見て一日を過ごしてはたまに家の金で外に遊びに行って、何度も親に暴力ふるって。

 そんなクソみたいな息子に親が笑みを浮かべながら「ありがとうございます」って何度も言うんだよ。


 耐えられなかった。俺は家を飛び出したよ。

 あの祠には関わってないし、それから実家にも帰っていない。

 今では真面目に働いてるつもりだよ。あの頃の自分が今の自分見たらきっと驚くんだろうな。

 

 

 実は何度かあの祠を壊せば全部元に戻るんじゃね? と思ったことはあるんだよな。

 一回その手の霊能力者みたいなやつに相談したけれど。


 「やめておいたほうが良いです」


 って言われた。

 由来がどうであれ、もう出来上がってる祠を壊したらどうなるかわかんないんだってさ。

 まぁ、そいつが最後に笑顔で「ありがとうございます」って言ってたから、ああこれは無理だなって思ってそれからはそういうことも考えないようにしてる。


 今か? たまに手紙が来るよ。

 差出人は親だったこともあったけれど、今では色々。

 何度引っ越ししてもそのうちくるから諦めたよ。

 まぁ、手紙が来るだけで、直接来たりはしないからちょっと我慢すればいいんだよ。

 全部俺が悪いんだ。


 内容? そんなん決まってるだろ。

 そうそう、あの言葉が書かれてるんだ。ただそれだけだよ。

 

 こんなもんでいいか? 明日も仕事で早く寝たいんだ。

 それじゃあこれでおしまいで。お疲れ様。

 

 

 『ありがとうございます』


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