白い死神
気が付いたら電車のホームに佇んでいた。
何本も電車が通るが、私はそれに乗車せず、ただ流れていくのを見つめていた。
通る人が不審そうにこちらを見ていく。しかし、次の瞬間には仕事の予定でも考えているのだろうか、手帳を取り出し歩きながら何かを考えている。
こんな多くの人の中、私は死のうとしている。
私もかつては彼らと同じであった。こんなにぼーっとしている人がいたらちらりと視線を流しただろう。そして目の前の現実に戻っていく。
しかし私は、いつからか戻れなくなってしまった。
彼ら生命との間には壁がある。その壁に何度も身体を預けているうちに、一瞬、それは回転扉になり、私を壁の向こうへと放り出した。
強く体を打ち、目をしぱしぱさせている私の周りに生命はいない。
壁を押してみるが、最早動く気配もない。
なんだったんだ。
とにかく私はこちらに来てしまった。何もないこちら側に。
というわけで新たな生活を試みたが、私が活動しないと環境は動かない。
少しずつ、少しずつ、できあがっていく町。
生命の息吹を感じない。機械仕掛けの町のようだ。
何だってこんなところに来てしまったんだ。
あの壁のせいだ。あの壁が私を・・・。
そう、あの壁のところに行けば、もしかして元の世界に戻れるんじゃないか。
と、電車のホームへ向かったのだ。
そうだった。思い出した。
それであのときみたいに死ねばいい。
あの壁を通り越したとき、死んだような感覚だった。
まるで黄泉の世界に来てしまったようで。
そう、死ねばいいんだ。
私はこの駅を通過する電車を待っている。
都合のいい電車が来るようだ。アナウンスが流れる。
だんだんと、向こうから来る電車が大きくなってくる。
さあ、飛び込むんだ。
結果を言おう。
私はホームで尻もちをついただけだった。
汗びっしょりで起きた。
何という夢を見たんだ。抜け出せない長い夢だった。
水でも飲もうと、身体を起こす。
すると、頭が何かにぶつかった。
「いてっ。」
ぶつかったほうをしっかり見ると、それは小さな人形のようだった。
「なにこれ?」
拾い上げようとすると、それはひょいと手を避ける。動くのか。
「触らないほうがいいよ、私は死神のようなものだから。」
喋った。
あの夢を見た後でなければ、通報していただろう。
私は触ろうとすると嫌がるのが興味深くて、何度かそれを繰り返した。
「あなた、言葉理解できる?」
「ごめん。気になったんだ。」
「夢の中でも死ぬ勇気が足りないなんて、あなたらしいといえばそうなのかもね。」
勝手に人を評価してくる死神には応える言葉などない。
というか人の夢を見るな。
「で、死神がここにいるというなら、私はもうすぐ死ぬのか?」
「そうね。」
「あ、そう。」
なんだ。それなら電車に飛び込もうとしないでも・・・ああ、あれは夢の話か。
だが、どうせいつか現実になるのだろう。それまで何度も死のうとするのはわかっている。
「でも、場合によっては延びるわよ。あなた次第だけど。まあ、今のように電車に飛び込んで死のうとしているのなら、すぐに死ねるわね。特に悪徳犯罪者というわけでもないし。」
思考を読むな。
「悪徳犯罪者は扱いが違うのか?」
「懲役をこなしてもらわなければいけないもの。」
「そういうこと。」
「あと、お金持ちの子どももよ。何もせずとも生きていられるなんて勘違いも甚だしい。そういうやつの寿命は削って、働き者に添加するわ。それから、生命力の薄い人。死にたいと言うほど病んでいる人なんて、生きていても役に立たないもの。自分のところで死んでもらっては困ると、たらい回しにされるのがオチよ。」
死神が指を折って考える度に、私の心に槍が刺さる。それが正しいかどうかはわからないが、死神視点はそれで良さそうだ。そうか、私は死神にとってはぜひ死なせたい人物なのか。
「別に死神じゃなくても、あなたを死なせたい人なんてたくさんいると思うけど。」
それを言うな。
「まあ、自分の生き方を考え直す機会じゃない?」
ポジティブに捉えるなら、やはりそんなところだろう。