迷う気持ち
そののちも、帥の宮様の訪れは、足繫くなったり、間遠になったり、こころやすまる時はありません。宮様の家には、正妻である藤原師伊様の次男藤原済時様の娘がいらっしゃる。姉君は、居貞親王(後の三条天皇)の女御であられる。私から見ると、雲の上の方々でございます。
心安き友に相談すると、口をそろえて、おやめなさいというのです。女房として上がるならともかく、召人に身を落とすなんて、と。.
私としては、宮様のおそばにいられるなら、かまわないという思いもあるのですが、なかなか決心がつかずにおりました。
そうこうしている折、宮さまが御物忌おんものいみのため、人目をしのんだところにいらっしゃるときに、車を遣わせ私をお呼びになりました。のんびりとお話をして、物忌が終わり自宅に帰ると、たいそう名残惜しい気持ちがしましたので、
つれづれと 今日数うれば としつきの
昨日ぞものは おもはざりける
(つれづれのままに、今までの年月どれほど物思いをしたか数えておりましたら、ああ、昨日だけは物思いをしない日だったのだとわかりました。)
と、歌を送りました。
宮様より、
思うこと なくてすぎにし 一昨日おとといと昨日きのうと今日に なるよしもがな
( 何の物思いもなく一昨日昨日と過ごしたのですが、その幸福が今日のことになってくれる方法はないものでしょうか。)
やはり、私の邸にいらっしゃい。
と、お返事がありました。心は動くのですが、悩ましいことがあふれ、なかなか決心はつきません。
「迷う気持ちは、分かります。しかし、軽々しくお誘いに乗るのは、感心致しません。」と、藤の式部は思っているようだ。