七夕のころ
「思いのほか、間が空いてしまいましたが、やっとの思いで伺いました。こちらにいらっしゃる方があまたおいでだと聞いたからですよ。さあ、いらっしゃい。今夜は、誰にもわからないところに行きましょう。」
と、帥の宮はおっしゃった。そして、強引に車に乗せられ、人のいない屋敷に連れていかれた。
このような外出は、ひどく恥ずかしく、何度かは致しましたが、私が嫌がるので、また、宮との間は、遠のいていきました。
こうしているうちに、七夕になりました。
いろいろな殿方から、織姫、彦星がどうのという恋文が来ましたが、目を通す気も起きません。
帥の宮からのお文はなく、悲しく思っていますと、あきらめたころにお文が参りました。
思いきや 七夕つ女に 身をなして
天の河原を ながめんべしとは
(昨年までの私は、思ったこともありませんでしたよ。七夕の日に天の河原を織姫の気持ちになって眺めようとは。年に一度の逢瀬もかなわないとは。)
つまり、会いに来てはくださらないということですが、お忘れになっていらっしゃらなかったことがうれしく思われて、
ながむらん 空をだに見ず 七夕に
忌まるばかりの わが身と思えば
(七夕の空を眺めることさえできません。七夕だというのに、宮様に嫌われてしまっている私の身を思うと。)
と、お返しをした。このようなお文をかわしただけで、この月は過ぎていきました。