花山帝のこと
「さて、冷泉帝と伊尹様の娘の懐子様の間に生まれた花山帝の世となりました。東宮となられた時には、伊尹様のお力が強かったのですが、すでに亡くなられ伊尹様の五人目のお子が政をお助けしておられました。この冷泉帝が、世にもまれなほど寵愛されていたのが、藤原 忯子様です。」
まあ、やっと恋のお話なのね。
「お父上は、藤原師輔様の九男で、大納言為光様。母君は実頼様の孫に当たられる姫君です。周り中があきれるくらいの寵愛ぶりで、『かかることは今も昔もさらに聞こえぬ異なり。』(こんな有様、今も昔も聞いたこともありませんわ。)『久しからぬものなり。』(どうせ、長続きしないに決まっていますとも。)と非難轟々(ひなんごうごう)でありました。
すぐに懐妊なさり、大納言様が、『三月になりましたので、里下がりいたします。』と奏上しても、お許しになりません。五月にやっと里下がりされたのですが、すっかりやせてしまわれお体の具合がよくありません。
それなのに、冷泉帝は、会いたい会いたいと、無理に参内させられます。もう一歩も歩けないほどになり、手車にお乗せしてようよう里に帰られました。大納言も冷泉帝も、加持祈祷を大々的になさったのですが、七月目に、とうとうはかなくなってしまわれました。花山帝は、日夜嘆き悲しみ、とうとう出家なさったのです。」
まあ、おいたわしい。寵愛も、過ぎると命にかかわるのね。
「伯父様の道兼様のお名前は出てこないようですね。」と、藤の式部がつぶやいた。
他の歴史物語(大鏡)だと、道兼が花山院を連れ出し、その間に道隆、道綱が天皇の三種の神器を一条帝のところに持ち出して…とか書いてありますが、栄花物語には、そんなこと書いてありません。




