追記 小式部の内侍
「和泉式部の娘も、いっしょに出仕しておりますよ」と、藤の式部が言います。
まあ、どのような方なの。
「母親に似て、和歌の才能のある、かわいらしい娘で、父親は最初の夫の橘の道貞です。道貞は、陸奥の守ですから、身分の釣り合った夫婦から生まれたお子です。小式部の内侍と呼ばれています。」
へえ。それで?
「和歌の才能があるのですが、母親の和泉式部が代わりに作っているといううわさが絶えなくて。」
あら、お気の毒に。
「あの四条中納言(藤原公任の長男定頼)が、小式部をからかって、
『お母様の和泉式部から、(代作を書いた)お手紙は、届きましたか?』
と、意味ありげにほくそえみながら声を掛けたそうです。」
(ああ、かの有名な歌詠みの公任の、まあまあ有名な息子ね。自分も二代目だからライバル心があったのかしら。)
「すると、小式部の内侍は、さっと中納言の直衣の袖をつかんで、その場で歌を詠んだのですよ。」
大江山 いく野の道の 遠ければ
まだふみもみず 天の橋立
(大江山や生野に行く野の道は遠いです。わたくしは天橋立の地でさえ踏み歩いてみたことはありませんし、母からの文も見ておりません。)
掛詞を二つも使ったうえに、地名を三つも織り込んだ素晴らしい歌です。とっさにこれだけの歌を詠むなんて、常人にできることではありません。」
まあ、素晴らしい歌ですね。四条中納言は、どう歌を返したのかしら。
「それが、あまりにも驚いて、返歌もできず、這う這うの体で逃げていったということですよ。」
あら、まあ。




