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 オーロラと婚姻してから数年後が経つといつの間にかまた巻き戻っていた。

 ディアンドロは前回の魔法使いとの話を思い出し『今度こそ…』と想いを胸に抱き挑むことにした。

 そしてネメシアは今回もまた体調が悪く孤独の日々を味わいながらも社交を最低限で強要されて無理して出ていてこの時も周囲に何やら囁かされそうになっていたが彼女の堂々とした立ち居振る舞いで他者には何も言わせず好感を持たれていたが姉のオーロラは妹と比べられて相変わらずの評価だった。

 今回もネメシアに好感を持った侯爵夫妻によりティアンドロとの婚約が結ばれる事になると彼は慎重に対処することにした。

 顔合わせの時にまずは二人で話したくて彼女を庭に連れ出す事にした。



「君とは初めましてじゃないよね」


「…それはどういう意味でしょうか…」



 怪訝に眉を寄せながらその目は思いっきり警戒していたので下手に詮索されるよりは…とそのまま続けてみる事にした。



「君と話せる機会はあまりないから手短に話がしたい。

 もし私の話を聞いて納得してくれるなら今後も出来るだけ会いたいと思ってる」


「わかりました。まずは話だけ伺いましょう」



 人払いして二人だけになるとネメシアは木陰のベンチに腰掛けようとしたがディアンドロは彼女を膝に乗せた。



「えと、落ち着きませんので…」


「君は軽いね。この距離だと都合がいいんだ。このまま話すから聞いてほしい」


「…わかりました」



 そして彼は覚えている範囲で過去の話をするとネメシアは初めは半信半疑でも話が進むにつれて自分が覚えている内容と合致していたので驚きつつも出来るだけ顔に出さないように気を付ける事にした。



「それを誰かに話しました?」


「君が始めてだよ。私はずっとネメシア嬢とこうしてみたかったんだ。でも何故かいつも違う行動になってたんだ…」


「なるほど…それであの時に浴室まで…」


「あ、それはネムと一緒に入ってそのまま抱いてもいいかなぁって感じかな?」


「…」



 呼び方も気になったがそれよりもあの浴室の件が完全に違うなら話は別で、身の危険を感じた彼女は逃げようとした。



「逃げないでいいよ?」


「逃げますよ。本当に何考えてるんですか」


「え?だって閨だよ?俺だって健全な男だし一度でもいいから愛しい妻を抱きたいよ」


「…」



 話を聞きながら絶対に抱かせない事にした。



「そ、それで?私にどうしろと?本当にあまり体調はよくないので出られませんからね」


「そこなんだよなぁ…今までの経験で君の家に行けば多分俺は俺でなくなるのはわかってる。

 どんなに対策をしてみても無理だったんだ。それでネムは何か知らないかと思って」


「そこは私も知りたいです。何度も終わらせてるのに…」



 精神的に辛くなり体調が悪化しそうになると彼はすぐに気付いて慌てて抱えて客室に連れて行くとすぐに医師を手配した。



「ごめん。俺が思い出させたから…」


「いえ、少し休めば大丈夫です…その前にネムってなに?」


「それは響きが可愛いからだよ。ネメシアはネムって感じがするからね」


「…」



 彼女は勝手に付けられたあだ名に困った顔になっていた。

 その後は医師が来てすぐに診察したが特に異常はないとの事だった。

 しかし彼女の顔色は悪いので試しに魔法士を呼び寄せる事にした。



「そこまでしなくても…」


「いいよ。この際だし君の体調不良の原因を徹底して調べてみよう」


「…い、いえ…もう帰ります…から…」



 只でさえ怠いのだが更にストレスで気持ちが悪くなった。



「やはり顔色が悪いね。調子が悪いなら無理は許さないからね」


「これはストレスですな」



 医師は正しく診断してくれたがなんだか嬉しくなかった。



「…も、もう帰りたいので…」


「そう?折角呼んだのに…」


「お呼びですか?」



 魔法使いがタイミングよく来てしまった。



「彼女を診てくれ」


「わかりました…えっ?」



 戸惑う魔法士に説明してネメシアを見ると魔法士は驚いた。



「これは凄い。これだけの魔力をよく…この方は魔力量が豊富で体が追い付かないだけです。

 これなら彼女の落ち着く環境でのんびりと過ごして頂くと改善されるでしょう」


「では今日から此方で保護しよう」



 何故か話が面倒な方向に向かったので彼女は青ざめた。



「あ、あの…私は今の自分の部屋が落ち着くので…もう帰して下さい」


「え?あの部屋がいいの?君の部屋はすぐに用意出来るけど?」


「い、いえ。住み慣れた部屋が落ち着きますのでお願いします」


「わかった」



 なんとか納得してくれてやっと落ち着けそうで安堵した。



「では今後は私と外で会うこと!」


「…それは…」



 若干嫌そうに目を逸らすと彼は少し困った顔をした。



「仕方ないなぁ…では魔道具を渡すからそれで私の部屋においでね」


「え?」



 これはこれでなんとなく嫌な予感しかしなかった。



「何?嫌なの?それなら帰さないよ?」


「あの、ストレスは宜しくないですよ?」


「そうですね、暴発の恐れもありますから」



 医師と魔法士がネメシアを庇ったので仕方なく彼も引くことにした。



「わかった。では手紙で愛を囁いてね」


「…体の調子が良ければ…」



 ほぼ有無を言わさぬ圧に困ったが一応は帰してくれるので言葉を濁すとなんとなく察した彼は不満だったが一応はこれで良しとした。



「今日は具合が悪いから泊まれるようにご両親に話して来るから」


「私も行きます」


「駄目だよ。少し休みなさい」



 ベッドから起き上がろうとすると横にさせられて彼は医師と魔法士には待機して貰うと部屋を出て彼の両親とヴァイゼルフ伯爵夫妻に説明して少し休んでもらっている事を伝えるとニコフスキーがもし体調が戻らないなら泊めさせるように話したがサリオスがそれを阻止した。

 そして少ししてネメシアが応接間に入ると確かに顔色が悪くなっていたのだが本人がどうしてもと話すのでこの日は帰宅を許された。



「…もう出来るだけ外に出たくないです…」


「…」



 馬車の中では疲れきった様子の彼女がボソリと話すと彼女の両親は困った顔をしていた。

 それから彼は手紙を送っていてその内容がネメシアを更に疲れさせていた。


(これの返事を書くの?凄く嫌なんだけど…)


 それは今までネメシアに対して抱いていた彼の本音で本当はどうしたかった等が綴られていて彼女は返事に困りストレスで暫く寝込んだ。

 それを知った彼は見舞いに行くか悩んだが行くと確実に繰り返す事になると感じて行くに行けなかった。

 しかしずっと返事が来ないので行くしかないと感じた彼はこれが彼女に伝えられる最後の手紙だと感じて本音を書いていた。

 そこにはネメシアと仲良くなって結婚後も二人で幸せになりたかった事、婚約期間中は二人で沢山デートしてネメシアを独占したかった事、そして巻き戻しの度に初夜では自分も一緒に消えたかった事が綴られていた。

 ネメシアはどうするか迷い敢えて返事を出すことを辞めた。

 彼は手紙の通りヴァィゼルフ伯爵家を訪ねた。

 そして姉のオーロラと出会いネメシアとは疎遠になっていた。

 それは一番初めの頃のようだったが今は姉が健康で自分は虚弱体質で動けなくなっている事で立場は逆だったが状況は同じだった。

 しかしネメシアはそれで良かったと思えた。

 それは健康なら彼に会わないといけなかったからで今は体調が悪ければそれを免除となっていたのだ。


(もう嫌だ…頼むからネムといさせてくれ…)


 彼は家に帰れば元に戻れたがその心は疲弊していた。

 そして二人の距離が広がった状態で結婚式を迎える事になった。

 その前日、彼はどうしてもネメシアに会いたくて彼女の家に向かったがやはり足はオーロラの元へ向かっていた。

 ネメシアはその事を知らなかったが彼女は静かに息を引き取っていた。

 彼が帰る時に医師が呼ばれたり等と何やら騒がしくなっていてこの時は何故かネメシアの元へ行けたので彼女の顔を見ようとした。



「そ、そんな…ネメシア起きなさい!」



 青ざめながら声を掛けても目を開ける事はなく彼はショックでその場に崩れていた。

 彼女のその表情は苦しんだ様子もなくとても穏やかな顔をしていた事も辛かった。

 医師の話では彼女は服毒をしたらしいとわかり、その場を後にすると部屋の中には彼女の両親とディアンドロと使用人のみとなると少しして何かの温かな光が彼女の中から溢れ始めてやがて繭のように包み込むと光が強くなり彼女の体が燃え始めた。



「い、嫌だ!頼むから辞めてくれ…」



 彼は光に触れようとしたがそれは触れる事が出来なかった。

 寝室の隣にある彼女の勉強部屋では彼女の私物が全て光となり寝室に向かって消えていくと突然その場にいた全員が部屋の外に移動させられていて扉は固く閉ざされた。

 そして形見と呼べる物はまた全て失くなっていて彼女は拒絶を示した。


『今度こそ最後だといいね』


 最後の最後で彼のみに聞こえた声は優しく、彼を気遣うような思いやりの言葉だった。



「ネム…君は…何故私を拒絶するんだ…俺はまた君を一人で逝かせてしまったのか…」



 やるせない想いが小さく漏れた。



「ディアンドロ殿?またとは?まさか貴方も記憶が?」


「どういうことです?まさか伯爵も?」



 その場に居合わせたサリオスは彼の言葉に驚き、すぐに尋ねると彼も驚いた表情になった。

 そしてドラニエとオーロラにも記憶があった事がわかりネメシアに深く関わる主な当事者は彼の両親を除いて全員が記憶を持っていたことがわかったがここで疑問が浮かんだ。



「それならネメシアが巻き戻しているって事にならないかしら?」


「いや、それはない」



 オーロラが腹立たしそうにするとディアンドロは冷静に否定した。



「魔法士の話ではネメシア嬢が巻き戻してるなら居なくなった後にすぐ何かしらの変化がなければおかしいらしい。

 状況的に見ても私もそれには同感なんだ。彼女が私達を全員拒絶した後に最後にやっとラクになれたと話したにも関わらず、また自ら地獄のような思いをするとは考えられないんだ」


「確かにそう話されると合点もいきますね。あの子が儚い人となってかなりの時が経ってから戻ってますし…」



 言われてサリオスも違和感に気付くとなんとも言えない気持ち悪さがあった。



「こうなるとネメシア嬢以外の何かが原因の筈なんですけど…もう一つ疑問があります」


「それは何かな?」


「何故全員が記憶を持ってるのでしょうか。しかもネメシアに関しては朧気な部分があり不完全なんですよ」


「確かに…何故かあの子の部分はぼやけた感じがする…これは一体…?」



 四人は話し合っても思い当たる節がないので答えが見つからず謎が更なる謎を呼んだりしていた。



「その前に明日の結婚式はどうなさるの?」


「そうだね、我が家との繋がりがだからオーロラが出ても良さそうだけど…ドレスがねぇ…」



 今しがたネメシアが逝去したばかりなのに自分の事しか考えない彼女と既にオーロラが婚約者だと思っている彼女の両親にディアンドロはギョッとして信じられないものを見る目になっていた。



「それはまだ待って下さい。まずは私の両親に話しますから」


「わかりました」



 なんとか話題を止める事に成功したディアンドロはすぐに戻ると両親にネメシアの訃報を告げた。



「では式は取り辞めてそのまま弔いの儀式に切り替えましょう」



 ネメシアを一番気に掛けていたエルシアレネーは涙を流しながらそう告げた。

 そして急いで変更となり神殿にも話を付けると了承された。

 この日は結婚式の前日だったので試着しかしてなかった為に残っていた結婚式のドレスのみを棺に収めるとオーロラはなんとも言えない腹立たしさがあったが一応は周りを見て何も言わずにいた。

 そしてネメシアの葬儀の後にそのドレスはいつの間にか消えていた。

 その後は喪が明けて暫くするとまたオーロラと結婚することになったのだがネメシアの喪が明けるまでは何故かまたオーロラのことばかりを考えさせられた。

 そして結婚後はそれがなくなり彼は頭を悩ませながら今までしなかった一つの行動に出てみる事にした。

 それは結婚後はオーロラとの距離を適度に保ち近付きすぎないようにしていて様子を見る事だった。

 今までと違う彼の態度はオーロラにとって冷たく感じて不満が募っていたが、それも記憶を持つなら仕方がないと受け止めても淡白な態度の時には腹立たしさもあったがオネダリ等は聞いてくれたのでそれなりに幸せに過ごした。


ここまでお付き合い頂いて有り難うございます。

そろそろマンネリかなぁ…と思いつつ少しずつ明かされる秘密をお楽しみ頂ければ幸いです。

下の方にある☆を押して頂けると有り難いです。

宜しくお願いします。

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